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和菓子屋たぬきつね  作者: ゆきかさね
《第4期》 ‐鏡面の花、水面の月、どうか、どうか、いつまでも。‐
256/259

   『至上の芸術品』 2/5



 狙撃から三分後、俺の熱源を感知してだろう、《ボティス王》は建物を飛び出すなり一直線に俺の方へと向かって来た。



『──《回収者》より《バルバトス王》へ。爆破は成功。トンネルの通行不能を確認した。そして今し方、《ボティス王》の《契約者》達が建物を出てトンネルへと向かった。あなたの予想通り奴らは《ボティス王》と別れ、《フラウロス王》に救援の連絡をするため町へ向かう様だ。オーバー』



 《回収者》からの連絡。やはり《ボティス王》は《契約者》らとの別行動を選択した。此の状況を前にすれば彼女は必ずそうするだろうと思っていた。

「……了解した。此方も移動を開始し、対象との戦闘に入る。オーバー」

 迫る《ボティス王》に背を向け、俺は山肌を駆けた。

 恐ろしく思うほどの熱が此の身を焦がしていた。《矢》が彼女の身体を貫くのを此の目で見届けた時からだ。興奮が冬の山を犯す猛火の様に俺の中で燃え広がっていた。

「その様な姿になって尚、お前はお前の儘なのだな、我が、我が《金色の月》よ……」

 感懐のあまり溢れた涙が視界を歪ませる。前回から実に八年。やはり背筋に突き刺さるお前の殺意以上に俺の狩猟意欲を湧かすものは此の世に存在し得ない。

「……!」

 背後で枝葉の揺れる音がした。其の儘足は止めず弓に矢を番え振り返り──放つ。



 ──キンッ!



 真っ直ぐに空を切ったのも束の間、矢は粉々に砕かれて飛び散った。

 白い髪に、赤い瞳。俺の知る《金色の月》とは似ても似つかぬ姿だったが、其れでも其の鋭い眼差しは例え死んでも見間違えよう筈が無かった。

 此の一カ月、ずっと見ていた。やっと此処まで近づけた。

 遂にお前に触れられる。

「おお、おおっ!! お前に触れられる!! お前が欲しい!! 此の世で最も美しい究極の芸術ッ!! 我が《金色の月》よッ!!」

「……相変わらず《角》のぶつかる音で何を言うておるのか分からんが……一応訊く。お主も《アウナス》の使いで来たのか?」

 ──声。彼女の低く凛とした声。今、俺にだけ向けられて放たれた、声……。

「隠す必要は無い。まさにそうだ。《アウナス》に頼まれ、俺は今此処に居る。だがッ!! お前を求める心は偽りではない!! 俺の意志だ!! 俺の、お前への!!」

「激しく喋っては聞き取れんと言うておろう。じゃが《アウナス》と繋がっておるというのは聞こえた。それで十分じゃ。死んで《魔界》へ帰れ」

 《ボティス王》が微かに加速する。俺と彼女の野山を駆ける速度はほぼ同等。故に此方も此処からは逃走に専念しなければならない。彼女に背を向け、雨の森を全力で馳せる。

 今、彼女は俺だけを見ている。俺を殺す為に、其の意識を俺の動向全てに注いでいる。何と甘美で、背筋の凍る恐怖だろう。世界の終わる其の時まで永久に此の時間が続けば良い。そう願わずにはいられない。

 だが其れでも俺は今日、此の場で彼女との決着をつけなくてはならない。俺は此の興奮を確かに俺の手で終わらさねばならないのだ。

 あの日から願い続けた永年の夢を叶える。其の為に俺は此の今日と言う日を用意したのだから……。








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