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和菓子屋たぬきつね  作者: ゆきかさね
《第4期》 ‐鏡面の花、水面の月、どうか、どうか、いつまでも。‐
253/259

   『我が叢雲よ。此度こそ』 6/7



 江の島で一緒に遊んでいたアサカが急に走り出して居なくなったその二時間後、突然ロミアから尋常ではなく焦った様子の電話があり、彼女から事情を聴いたひづりは急遽天井花イナリに《転移魔術》による長距離移動をお願いした。

 行き先は神奈川県の四保ダム周辺に残る月縄総合病院跡地という場所だった。ロミアから連絡をもらってすぐにひづりはその病院跡地についてネットで調べたが、手に入ったのは「周辺の山間集落を中心に利用されていた大きな病院だったが五十年前のダム建設に伴い閉院したこと」や「当時の医療機関は移転先の南足柄で現在も経営を続けている」といった情報のみで、施設までの詳しい道のりや建物の内装までは分からなかった。

 加えて、今の天井花イナリは《千里眼》が使えないため一回の《転移》では病院跡地にたどり着けず、ひづりは彼女に背負われたまま数十回、目視で周りを何度も確認しながら《転移》する事になり、そうした移動に時間が掛かった結果、父親を人質に高見沢達に呼び出されたというアサカはもう廃病院内部へと入ってしまっており、ひづり達は院内に到着するなり各所で待ち構えていた元同級生らの対処に息をつく間もなく駆けずり回る事になった。

「うっ!?」

「ぐおっ!?」

 《認識阻害魔術》で姿を見えなくした天井花イナリに不意打ちされた男子生徒二人が、どさっ、と床に転がる。ここで三部屋目だったが、この二人もやはりひづりが中学時代に見た記憶のある顔ぶれだった。

「天井花さん、アサカは今どの辺りですか?」

「まだ玄関からあまり離れておらん。警戒しておるのじゃろう、歩みは遅い。じゃが急ぐぞ」

「はい!」

 天井花イナリは気絶している元同級生の一人を《転移魔術の蔵》の中へ、ぽい、と放り込んだ。ひづりとロミアも同じくもう一人の男子生徒を急いで担ぎ上げ、天井花イナリと同じようにした。これは最初にひづりがお願いした事だった。この廃病院に到着し熱源探知を行った際、天井花イナリは「人里近くの山にしてはやけに獣が多いな」と言い、実際廃病院の施設内も野生動物が住み着いた痕跡が幾つも確認出来たため、たとえ因縁のある大嫌いな相手とはいえそんな危険な場所に彼らを気絶させたまま放置するのはさすがにひづりも少々気が引けたのだった。とはいえ、誘拐された頼朝が無事であること、アサカが怪我をせず帰れること、の二つが満たされない場合、今後気持ちの変化はあるかもしれなかったが。

「すみません天井花さん、ロミアさん、私のせいで起きたこんな面倒事に巻き込んでしまって……」

 走りながら改めてひづりは二人に謝った。これは中学時代に感情を制御できなかった自分が招いた結果だとひづりは重く受け止めていた。アサカも、彼女の父親も、天井花イナリもロミアも、こんな事に巻き込まれる筋合いは無かったのだ。

「巻き込む、という話をするなら、わしの方がよほどお主らを巻き込んでおる。気にするな。それにこの件、《アウナス》や《イオフィエル》が関わっておらんとも言い切れんしの」

 そう答えた天井花イナリにひづりは目を見開いた。

「《アウナス》達があいつらを利用して私達をここへおびき寄せたのかも、って言うんですか……?」

 アサカの事が心配で頭がいっぱいで今の今までそうした考えに至らなかったが、確かに今の自分たちの状況を考えればどんなトラブルもそこに繋がっていると警戒するべきなのかもしれない、とひづりは気づいた。

「今のところそれらしい痕跡は無いがの。しかしここからでは電波が通じず《フラウロス》への援軍の要請が出来ん。もし戦うとなれば、今の戦力はわしとお主と《魔女》だけじゃ。あぁまったく、電波が通じん場所であるなら最初にそう言えというのじゃ、役に立たん《魔女》め」

 天井花イナリはちらりと振り向いてロミアに舌打ちした。

「す、すみません、慌てていて……」

 ロミアは瞬く間に顔を青くして謝った。

「気にしないで下さい、ロミアさん」

 ひづりはそうフォローした。ロミアは天井花イナリの《千里眼》の不調について知らなかったのだからこればかりは仕方ないのだ。

 それにひづりは、実際天井花さんは事前にこの病院跡地周辺の電波状況について聞かされていても《フラウ》さんには連絡しなかったかもしれないし、彼女がそうした判断をした場合きっと自分も同意していただろう、とも思っていた。というのも訳があって、実は昨日のメル捜索の折、ひづりは天井花イナリに『フラウさんに電話して、千里眼でメルちゃんを捜してもらえないでしょうか』とお願いして、そして実際に《フラウ》にメルの居場所を見つけてもらっていたのだ。けれどその時にはすでにアサカがメルを咥えたテトを追い掛けていたため、ほとんど意味はなくなっていた。

 なので、ネズミ捜しの次は子供の喧嘩の助っ人、なんて二日連続でお願いをしたら、さすがの《フラウロス王》も呆れるかもしれないし、ひづりとしても凍原坂に申し訳が立たない。だからひづりはこの事でロミアを責めるつもりは毛頭無かった。

 むしろひづりは今回ロミアに対し大いに感謝していた。彼女は何も言わず走り去ってしまったアサカを自分の代わりに追いかけて捕まえて事情を聞き出し、こうして居場所を連絡してくれたのだ。礼は言っても恨みなど言えようはずがない。

「言うのが遅くなってしまいましたが、アサカの事を心配してくれて本当にありがとうございます」

 お礼を伝えるとロミアは困ったような焦ったような顔をしたが、やがてまた前を向き、「あたしも、アサカさんには危険な目に遭って欲しくないですから」と真っ直ぐな声でそう言ってくれた。

「話は後にせよ。次の標的じゃ」

 暗い廊下の突き当りの部屋を指差して天井花イナリが言った。ひづりもロミアも「はい!」と頷いた。








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