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和菓子屋たぬきつね  作者: ゆきかさね
《第4期》 ‐鏡面の花、水面の月、どうか、どうか、いつまでも。‐
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5話 『文化祭開幕』      1/4



 5話 『文化祭開幕』




「お早う御座います。皆様と未来を語り合う占いの星、《ラミラミフォーチュン》です。本日あたしは、日本のハイスクール、綾里高校の文化祭にお邪魔しています」

 十月二十六日、午前九時。特別に立ち入り許可を貰った校舎の屋上であたし達は撮影を開始した。

「ご覧の通り天気も良く、お越しになった地域の方々と交流を行う綾里高の生徒さん達の様子がここからよく見えますね。日本在住で来校の話をして下さっていた皆様も既にこの中にいらっしゃるのでしょうか? 本日のプログラムでは当チャンネルの占いコーナーも設けさせて頂いていますので、後ほどお会い出来るのを楽しみにしていますね。では、今回のタイアップでお手伝いをしてくれる、可愛い素敵なスタッフを紹介しましょう。アサカさん、来て下さい」

 如何にも「本物の《ラミラミフォーチュン》の撮影だ……!」という興奮した様子でカメラの画面を食い入るように見つめていたアサカは呼ばれると俄かにハッと緊張した顔になりそれから打ち合わせ通りカメラを《ボティス王》に一旦預けてすぐあたしの隣へ、リハーサルの時より更にぎくしゃくした動きでやって来た。

「み、味醂座アサカです……! 本日は撮影係として、ラミラミさんのお手伝いをさせて頂きます! 皆様、どうぞよろしくお願いします!」

「はい、ありがとうございますアサカさん。アサカさんはこの綾里高に通う二年生で、学業や文化祭の準備も忙しい中、たくさんあたしを助けてくれました。アサカさんのためにも今回のタイアップ、必ず成功させたいと思います。来校される皆さんも、もし校内で困ってる方を見かけたら、どうか声を掛けてあげて下さいね」

 そっとアサカの肩を抱き、視聴者に向けて仲良しアピールをする。これもリハの時アサカは顔を真っ赤にしていたが、さすがに二回目とあって慣れたのか幾らか落ち着いた様子だった。顔は依然真っ赤になっていたが。

 アサカと官舎ひづりのデートについては、結局文化祭の後に、それも《ボティス王》が提示した期日的に一回限り、という形になってしまった。関東周辺のデート候補地は三つにまで絞れていたが、先週の土日は演劇部の練習で潰れてしまったのだ。

 とはいえこれは仕方がなかった。急遽出演させてもらう事になった身である以上、あたしが練習に出ず足を引っ張る訳にはいかないし、それに綾里高の部員達の演技を観ていたらプライドに火がついてしまった。役者の端くれとして、高校の演劇だろうといい加減なものにはしたくない。

 という訳で、今は『最優先の任務』に意識を向ける。

「では続いてもう一人の出演者、イナリです。イナリ、こっちへ来て」

「うむ」

 一時的に任されていたカメラをアサカに返すと《ボティス王》は丁寧な足取りであたしの隣に並んだ。今にも心臓が凍りそうだったが、視聴者に感づかれないよう笑顔の維持に集中する。

「彼女はイナリ。東京の和菓子屋さんで看板娘をしてる、あたしの幼馴染です。イナリの務め先の和菓子屋さんはとってもお菓子が美味しくて、建物の雰囲気も素敵なんです。いずれそちらのお店の紹介動画も撮ろうと思っているので、彼女に一目惚れした方、是非チャンネル登録と配信告知のチェックをお願いしますね」

 かつて《ボティス王》と肩を組んでこんなふざけたセリフを吐けた《魔女》が居ただろうか。落ち着け心臓。平常心、平常心……。

「イナリじゃ。色々あって今回こやつの手伝いをする事になった。よろしく頼む」

 ここから撮影係はほぼアサカに任せ、《ボティス王》にはあたしと一緒に校内を回ってもらう手筈になっている。後はとにかく《ナベリウス王》と《その契約者》がこの配信をリアルタイム、あるいは配信終了後に観てくれる事を祈るばかりだ。

 傍らのスタンドに立てていたタブレット端末の配信画面にちらと目を向けると、平日だが事前に沢山告知しておいたのもあってだろう、時間を作ってくれたファンのコメントが矢継ぎ早に流れていた。いつも配信のURLを拡散してくれるファンのコメントもあった。初っ端あたしとアサカと《ボティス王》の美人三人を登場させた構成も初見で配信を観に来た人の足止めとしてそれなりに機能したらしく、同時視聴者数も悪くない。いいぞ。出だしは好調と考えて良さそうだ。

「本日文化祭一日目での《ラミラミフォーチュン》の行動予定は概要欄に書いてある通りです。あたし達はこのあと校内の出し物を見て回って、お昼には一度休憩を挟み、それから教室の一つをお借りして当チャンネルの占いコーナーをやらせて頂きます。明日にはあたしも出演します綾里高演劇部による《ロミオとジュリエット》もありますので、どうかお楽しみに。では、早速校内へ行きましょう。日本のハイスクールの素敵な催しが待っていますよ」

 アサカと《ボティス王》を連れ、あたし達は移動を開始した。







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