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和菓子屋たぬきつね  作者: ゆきかさね
《第4期》 ‐鏡面の花、水面の月、どうか、どうか、いつまでも。‐
217/259

   『ラミラミフォーチュン』  5/6



「うええお! ひっぐ、ありがどうございます! ありがどうございまず、ひづりざん! 何度も助けでぐれで、本当にっ、おえっ……」

 ひづりが天井花イナリをどうにか宥めて《剣》をしまわせた頃には、ロミアはもうお座敷席で小さく小さく体を丸めてえずきながらひづりの腕に縋り付くようになってしまっていた。暗色系の服を身に纏いどことなくミステリアスな雰囲気を放っていた彼女の姿をこれまで見てきたし、また恐らく相手の方が年上であろう事もあって、ひづりは何だかちょっと申し訳ないような気持ちになっていた。

「それは良いんですけど、そろそろ離れて頂けると……。あとこの子も回収して頂けると……うち飲食店ですし……」

 ロミアが抱き着いて来たのと同じくらいのタイミングで彼女の懐から飛び出して来て一緒になって腕にくっついていたそのデグーと思しき小動物をひづりは指差した。

「あ、あぁっ、す、すみません、すみません。メル、隠れていてね……」

 体を起こしながらロミアがそう言うとデグーはすぐにひづりから離れてロミアの服の中にすっぽりと隠れていった。

 それを見てひづりはハッとした。

「もしかしてその子、《使い魔》、ってやつですか? 人の言葉が分かるんですか?」

 ロミアは肩を竦めた。

「そ、そうです。前にこちらのお客さんのハムスターちゃんを捜した時も、メルに手伝ってもらって……。メルも、あたしを庇ってくれたひづりさんにお礼を言いたいみたいです」

 メルはロミアの胸元からひょっこりと顔を覗かせ、ちゅう、と鳴きながらお辞儀をして見せた。そのまるで児童向けアニメのような動きに、おお、とひづりは感動した。と同時に、面接の日に《使い魔》呼ばわりして怒らせてしまった事をふと思い出して隣の天井花イナリに対しちょっと気まずい気持ちになった。

「お主の畜生の話なぞどうでもよい。それよりさっさと《イオフィエル》の言っておった《役に立つもの》とやらについて話さんか」

 不機嫌そうな態度を隠す様子もなく天井花イナリは強めの語気で問うた。

「は、はい! あたし、じ、実は配信者をやってましてぇ! 《ラミラミフォーチュン》っていう占いのチャンネルなんですけど、その、登録者さんも結構居まして! あ、えっとちょっと待ってください……この……はい! チャンネルこれです!」

 ロミアは姿勢を正し必死な様子でほとんど叫ぶように言いながら先ほどの通信端末を焦った手つきで操作して画面をひづり達に見せた。

「《ラミラミフォーチュン》……?」

 ひづりはそこに表示されたチャンネル名を読み上げた。

 そして、えっ、と思わず声が出た。

「《ラミラミフォーチュン》!?」

 ぱっと顔を上げ、ひづりはロミアの顔を改めて凝視した。

「ひづり、何か知っておるのか?」

 首を傾げた天井花イナリにひづりはなんと答えたものかと困った。

「ええと、はい、この《ラミラミフォーチュン》って、アサカが好きな動画チャンネルなんです。前に見せてもらったことがあって。でも……あぁ、やっぱりそうです、どうして今まで気づかなかったんだろ……本物のラミラミさんだ……」

 涙で化粧はぼろぼろになっているし、頭からは和鼓たぬこより小さいくらいの二本の《角》がひょこっと生えてはいるが、しかし先端を巻いた赤っぽい茶髪や美しい金と青のオッドアイは間違いなくアサカのスマホで観たあの占い師ラミラミの特徴そのものだった。

 ロミアは気まずそうに髪の毛を触った。

「今はもう《イオフィエル様》が解いてくださったんですけど、あたし、《アウナス》たちに捕まった時、潜入のためにってあいつらから高位の《認識阻害》をいくつも掛けられまして……それで多分皆さん今まであたしの顔を知っててもあたしだと分からなかったり、《魔女》だって事にも気づかなかったんだと思います」

 なるほど、とひづりは腑に落ちた。彼女はこれまで客として見てきた状態と今日の姿とで明らかに雰囲気が違っていた。小さな角が生えている、とか、化粧の具合が、とか、その程度の外見的な差から来るものではない、同一人物かどうかさえ怪しいと感じるほどの強烈な違和感がそこにはあった。それらはどうやら《アウナス一派》によるものだったらしい。

「それで? その動画撮りが一体わしらの何の役に立つと?」

「は、はい!! これ、《イオフィエル様》がご提案なさったことなんですけど、あたし今日綾里高校に行って来まして、それで文化祭で《ラミラミフォーチュン》とのコラボ企画を提案させてもらって来たんです!!」

「へ?」

 予想外の単語が飛び出し、ひづりはぱちりと瞬きをした。何でうちの学校……?

「《イオフィエル様》が言うには、あたしが綾里高校の文化祭を配信で中継して、そこへ何か理由をつけて《ボティス王》にも来て頂いて、画面に映ってもらって《和菓子屋たぬきつね》の住所を言ってもらえれば……ネット上で、特に綾里高校の関係者やその周辺の人達に《ボティス王》の顔を見てもらえるはずなので……そうすれば、この辺りに居るっていう《ナベリウス王》とその《契約者》ももしかしたら見るんじゃないか、って……。あ、学校さんからはもう許可はもらえてます」

「…………!」

 そうか、その手があったか、とひづりはぽんと手を打った。

 《和菓子屋たぬきつね》周辺に《ナベリウス王》が居るのだとすれば、確率は低いが、それでもその《契約者》が綾里高校の関係者である可能性は決してゼロではない。もし《ナベリウス王》の《契約者》が綾里高の生徒と家族関係や親しい間柄であればきっと文化祭の様子を撮影したその動画を閲覧するだろう。そこで天井花イナリの顔と《和菓子屋たぬきつね》の住所を《ナベリウス王》と共に確認すれば、《ナベリウス王》の方から《和菓子屋たぬきつね》を訪ねて来てくれるかもしれない。たとえ当てが外れて《契約者》が綾里高校と無関係だったとしても、《ラミラミフォーチュン》というインフルエンサーの動画であればやはり閲覧数はそれなりに伸び、サイト内のおすすめ動画の欄などにも載るはずなので、そうすれば《ナベリウス王》の《契約者》の目に留まる可能性もやはり高くなる。こちらがやる事と言えばただ天井花イナリを《ラミラミフォーチュン》の配信画面に登場させるだけなのだから、やって損になる事は何もない。

 ……しかし。

「ふむ……。《アウナス》と《イオフィエル》が組んでおるなら、奴らとしてはわしらが《ナベリウス》と接触するのはどうあっても避けたいはずじゃが……。《魔女》を使った程度では《ナベリウス》は見つけられんと高を括っておるのか? それとも何か別の……」

 天井花イナリは口元に手を当てて考え込むようにした。

 そうなのだ。確かに《イオフィエル》がこちらを騙す気ならこんな案を差し出して来るのはおかしい。だが、だからといってこちらに都合が良すぎるこんな提案にやすやすと乗ってもいいものだろうか。《主天使》が《火庫》を利用して《フラウ》の行動を制限しようとしたように、この話にも何かこちらを今後動きにくくするための策が隠されているかもしれないのだ。

「私は賛成かな。だって《ラミラミフォーチュン》って有名なチャンネルなんでしょう? うちの名前を出してもらえればそれだけでお客さんも増えるだろうから、全然オッケーだわ」

 ちよこは両手でお金のジェスチャーをして見せた。ついさっき《イオフィエル》に集ったばかりだろうに……とひづりはまた呆れるようだった。

「それはそうだけどさ……でももし今後それが原因で私たちが《アウナス》やあの《イオフィエル》との交渉や戦いで不利になったりしたらどうするの? ……天井花さん、どう思いますか?」

 訊ねると天井花イナリはひづりの方を向いてそれからロミアを横目に見た。

「最初に言うた通りわしは《イオフィエル》を信じておらんし、当然この《魔女》も殺すべきと考えておる。こやつを殺して中からわしの臣下を取り出せれば、こやつよりははるかに役に立つであろうからのう。しかしちよこは反対意見であると。ひづり、お主は話を全て聞いてそれから話し合うて決めればどうか、と言うたな。であれば、後はお主の意見で方針は決まるのではないか?」

 彼女は突き放すようにそう言った。

「…………」

 天井花イナリの言う通りだった。しかし話を全て聴いても尚ひづりには《イオフィエル》やロミアの事をどう判じていいかまるで分からなかった。どちらかと言えば、信じるべきではない、という気持ちの方が強い。だがロミアを死なせたくない気持ちも同じくらいあった。

 ひづりは向かいに座るちよこを見た。先日彼女と交わした約束を思い出していた。《天界》や《アウナス一派》に対し、ちよこを納得させられるだけの抑止力を得られなければ、彼女はまた凍原坂や夜不寝リコを利用したようなやり方で天井花イナリの排除に動き出してしまう。

 ロミアを殺し、彼女の中から《ヒガンバナ》のような《ボティス国の悪魔》を取り出すという戦力増強を選ぶか。

 それとも《イオフィエル》やロミアの言葉を信じ、文化祭で《ラミラミフォーチュン》と協力し、《ナベリウス王》との接触確率を少しでも上げる方を選ぶか。

 しばらく悩んで、ようやくひづりは気持ちが固まった。

「……決めました。天井花さん、文化祭の撮影に出て下さい。それでもしロミアさんが何か嘘を言っていたと分かった時は、彼女をどうするかは、私が責任を持ちます」

「ふむ。良かろう」

 天井花イナリは仄かな笑みを浮かべて頷いた。

「え、う、うそですよねひづりさん……? あたし悪い《魔女》じゃないんです、信じてください本当なんです……!」

 ロミアはまた死の宣告を受けたような青い顔でひづりの腕に縋り付いてきた。

 ひづりとしてもたとえ相手が《魔女》であろうと絶対に人殺しなんてしたくはない。しかし、今回敵か味方か分からないロミア・ラサルハグェの処遇で最初に口を挟んだのは他でもないひづり自身であった。この方針を選び、そしてこれからも《悪魔》と《契約者》という間柄に対等を望むのであれば、やりたくない事や汚い事も今後ひづりは自分の手でやっていかなくてはいけない。

 ロミアの細い手をやんわりと解きながらひづりは「そうである事を願ってます」と心からの本音を返した。








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