4話 『二つ目の魔術』
4話 『二つ目の魔術』
ひづりの右手に輝く直径二十センチ程の小ぶりな《魔方陣》がどくんどくんと脈動するかのように緩やかな明滅を繰り返していた。
「良いぞ。その調子じゃ」
植木鉢の中でふるふると揺れるイモカタバミの紫色の花弁を見つめながら天井花イナリが言う。彼女から送られてくる《魔力》は《契約印》を通って二つに枝分かれし、一方は《魔方陣》を形作るインクとして用いられ、もう一方はその《魔方陣》を介して植木鉢内部に注がれ続けていた。
「上出来じゃ。よし、消せ」
終了の合図と共にぐっと右手を握り、ひづりは《魔方陣》を消した。交錯していた《魔力》にぴたりと栓がされ、右肩の《契約印》もゆっくりとその疼きを鎮めていった。
「……っはぁ。ふぅ、ふぅ……」
集中し過ぎていつの間にか浅くなってしまっていた呼吸を自覚し、ひづりは胸いっぱいに息を吸った。上がった体温で浮き出た汗がブラウスの生地を背中や肩にぴたりと貼り付けていた。
「もう少し手間は掛かろうと思うておったが、さすがはわしのひづりじゃ。実に運びが良い」
植木鉢を持ち上げて確かめるようにその葉や茎の色艶を眺めると、よくやった、という風に天井花イナリは目を細めて微笑んだ。ひづりも呼吸を整えながら頷いて見せた。
「良かったです。これで、《火庫》ちゃんにも、凍原坂さんにも、良い報告が出来ますね」
彼女の持つイモカタバミの植木鉢にひづりは改めて視線を戻し、数分前より僅かながら外側に拡がったその葉や花弁をなかなかに満足した気持ちで眺めた。