4灯 それが全てのはじまり
「教えろ、鍵界のはじまりを!」
[私がそれを知ってるとでも?]
「お前はただの音声ナビじゃねえ。
俺の推測だが、お前はその世界の『哲学者』。
もし、そうでなくとも話して貰うぜ。
『約束』だからな。」
[仕方ないですね、お話致しまょう。]
▽▽▽
昔々、闇に包まれた灯されない岸から黒い亀が陸にあがりました。
陸には一匹の白い虎が『見えない何かに灯されている樹』の傍らで佇んでいました。
亀は陸を見て絶望しました。
陸には樹が一つしか存在しない。
闇に包まれていたのは海や岸だけではないようです。
亀は思います、何の為に陸へ? と。
外の世界は光に満ちている!
というその期待を裏切られたのです。
しかし、亀は絶望と同時にただひとつの希望を見つけました。
何故かはわかりませんが黒い亀はその樹に彩られた美しく気高き虎に憧れました。
それが全てのはじまりーー
△△△
「ほぅ、やっぱりお前は哲学者だな。
なぁ? もうひとつ聞いていいか?」
[なんです?]
「『樹』は嗤いますか?」
[岸を語れば嗤いますよ。]
「岸を語る? それってどういうーー」
[ーーおっと、残念な事に時間が来てしまったようです。
では、またの機会にお会いしましょう。]
「おい、勝手に逃げんじゃ……」
ーーパァッーー
くっ、眩しいッ!
ーーー。
光は数秒でおさまったので俺はゆっくりと目を開けた。
ってここはどこだ?
あ、そうか。
この見覚えのない部屋。
俺はアバター設定タイム制限を越えて強制転移されたのか。
この部屋、フルの木製だ!
木々の薫り、重厚感ッ!
ファンタジー心がくすぐられるぜ!
でも、不思議だ。
これ、完全に女の子の部屋だし……
俺、ゲームの世界に入ったと言うより
転生したって感じだな!
[正解です!]
「おっ、脳内に直接声が!
でも、コイツ。俺の知ってるナビと声が違う!」
[あぁ、すいません。
あのナビはとある事情で処分されました。
まぁ、その話は忘れましょう。
変わりに僕がこのゲームの仕様を教えます。
このゲームは自分の作ったアバターに
転生し、冒険家になるゲームです。
あなたの今の存在は貴方であって貴方ではない。
今の貴方はウッドマ連邦の村娘です。]
「じゃあ、どうやってplayerとncp見分けんの?」
[マップを参照して下さい。]
「マップよ開け!」
俺はお決まりの言葉を発して出るかも分からない表記を呼ぶように唱える。
ーープウンッーー
おぉすげぇ!
なんか村のマップが目の前に現れた。
液晶が召喚されたと思った俺は
気になって触れてみるが触れられない。
マップには青の丸マークと赤の丸マークがあるし、
……何だこれ?
マーク内に星マークが付いてる奴もある。
全くもって分からん。
[マップに映っている丸マークは生物です。青は男、赤は女。星マークはplayerです。
どう? 分かりやすいでしょう?]
「それな!
んで、俺これからどうすればいいの?」
[冒険者登録しに行ってください。
親が先導してくれるのでそこでじっとしていて下さい。]
「はいよ」
ーーバンッーー
返事をした途端に部屋のドアがおもいっきり開けられた。
親のお出ましか?
「ヤクちゃん、起きてる!
うん、起きてるわね?
ほら、身支度さっさとしなさい!
イムティール帝国ギルド行き十人馬車は
待ってくれないのよ!」
うわ、なんかめっちゃ世話焼きなオカン来た。
変に答えるとダルそうなのでここは大人しく頷いておこう。
「……うん」
「うんじゃないわよ!
女の子でしょ?
なんでそんなに寝巻き崩すの? はしたないわね。
可愛いいのにもったいないわ!
もういい、私が着替え手伝ってあげる。」
***
……そして、俺はギリギリで
十人馬車に間に合ったのであった。