2灯 VRと約束
ードドォン―
ありえないはやさでドアが開かれた。
「ただいま―っ! おい! 親父ィ!
ゲーム届いているか?」
「あぁ、届いたぞい、ほらよっとその前に……」
「勿体ぶるな! はやくくれよ!」
俺が恐喝混じりに声を荒げているにも関わらず、
親父は大人しく渡そうとする素振りすら見せない。
それどころか、余裕の笑みを浮かべながらゲーム機を抱き抱えて椅子に腰をかける始末。
その様はまるでどこぞの女王様だ。
「息子よ、このゲームを買ったのは誰と心得る?」
「ーーッ!」
そう、親父の言う通りだ。
俺は予約こそしたものの、このゲームは良心的な給料のバイトを週3入れて半年かけた俺でさえも買えるほどの金額ではないので。
誕生日プレゼントという名目で親父に頼んでおごってもらったのだ。
ただし条件付きだ。
ーーって、俺!
今、取り返しの付かないことしたんじゃ?
いや、まだ間に合う!
「生意気な口きいてすいませんでしたぁあ!」
俺の帰宅部技【バク宙土下座】が炸裂!
これで何とかなるはず……
「わかれば良いのじゃわかれば。
条件を忘れたとは言わせないぞ?」
親父は余裕の笑みから一転。
黒い笑みへと瞬時に変えた。
「学年テストランキングTop10入りなんて楽勝だぁああ!」
俺は今日一番の元気でそう言い放ち。
少し強引に親父からゲーム機を取り上げ、またもや帰宅部技を使い自室へ軽やかなステップを踏んで向かった。
帰宅部技の前では親父の足止めも全くの無力であった。
ーバタアンッー
家のドアを開いた時と同じ様な早さで俺の自室のドアが閉まった。
否、俺が閉めた。
そのおかげか、あの親父も3回ノックした後に俺の自室の前を去っていった。
当然、このチャンスを俺は見逃さない。
俺は欲望のままにゲーム機を包むものを破壊する。
それほどまでに、俺は今すぐ遊びたいのだ。
最初に目に入ったのは説明書だ。
まぁ、初めて使う機器だし、読んでおくに越したことはないだろう。
俺はゲームの説明書を注意深く読んでみることにした。
まずは最新のゲーム機VRの説明を黙読する。
ーー商品を御購入戴き誠に感謝致します。
この機器は脳を催眠状態にすることでまるで仮想世界に行ったような体験を五感をもってお楽しみいただけます。
使用して一時間以上経ちますと自動的に
電源をOffにしますーー
成る程、流石は[TOKISDEO]がつくった専用VRだ!
ゲームによる廃人化を防げるではないかッ!
更にこの機器は電源を切ると12時間は機能しないという徹底ぶり……
そこに痺れるし憧れるぜ!
あぁもっとだ。
もっとTSOについて知りたい!
俺は更に黙読を続けるのであった。