第四総灯(15~19灯)
<TOKISDEO・RADIO>
「どうも、私、TSO宣伝部のゾン・クラヴィラです。
今回も前回のおさらいあらすじしていきましょう。」
A1:サンライトがやらかした!?
<15灯>
「まて、話をしよう。」
ナイス会長。
ここで、あの店主を説得してやれ。
「話ですか。
その前にやるべきことがあるのでは?」
話を持ちかけてくる会長を挑発する店主。
それの意味を知るのは数秒も要らなかった。
サンライトは一瞬で俺との間合いを詰めて壁ドンする。
その勢いで仮面は外れ、イケメン過ぎる顔が露に。
って、ん? 待てよ、サンライトってこんなにかっこたっけ?
なんだこれ?
心臓がすげぇバクバクして、自分でも身体中が火照ってるのが分かる。
特にお腹の奥? の方が疼いて……
……ってちょっ! 俺はノンケだッ!
うん! これは気のせい。
そう思考した瞬間。
あの『哲学者』の言葉が脳裏をよぎる。
ーー【男を公園に誘うの♂
何? 野獣なの? 先輩なの?】ーー
くっ!
俺は、断じて認めんぞ!
女体化モノの薄い本にでるTS娘じゃねぇんだよ。
落ち着け俺ー!
ヤクは自分の心を辛うじてキープしているが身体は素直に反応する。
ひきつった笑顔で目はぐるぐる状態。
乙女のような赤面はまさに恋愛漫画さながらの絵になっている。
と、そんなヤクの葛藤をよそにカエデは勝手に盛り上がっている。
ヤクの意外で面白い乙女な表情に。
カエデはあまりのギャップ萌え思わず応援の声をあげてしまう。
「いいぞー、サンライト。
もっとやrーーいだだだ!」
「かーえーでー?」
「すいません会長、今すぐあの二人止めますんでグリグリすんのやめて!」
会長のグリグリから解放されたカエデがサンライトを止めようと動いた矢先、店主による止めが入る。
「そこの幼女ちゃん、無駄だよ。
彼はインキュバス。
酔ってるせいか、インキュバスの力が全て聖獣のお嬢ちゃんに向いている。」
「そうなのかー(にやり)」
「でっ、でも!」
会長は反論しようとするが、何も言い出せずに押し黙ることしか出来ない。
オーナーの言っていることは本当なのだから。
「竜脈黒線拳」
ーーシュワッ
黒く蛇のうねりを見せる複数の『線』がカエデから放たれてサンライトの頭部へ迫り。
ーードバァン
見事命中、ヤクから離れるようにサンライトは吹き飛ぶ。
「会長、サンライトはこうやって起こすのが得策ですよね?」
「よくやったカエデ!」
危なかった。
ヤクとサンライトはキス寸前で間一髪カエデの攻撃によって阻止されたのだ。
***
カエデの技がヒットしてある程度時間がたったのでサンライトは酔いから醒め正気を取り戻した。
そのおかげでやっとの事、あの話題に戻る事に成功する。
会長が深々と頭を下げるのを合図に。
「すいません、今の拙者らはそれほどの金を持ち合わせておらぬ!
どうか、他の方法でーー」
「分かりました、今回は『これ』で許しましょう。」
<16灯>
~イムティール帝国市街地駄菓子屋にて~
「無理だ。」
駄菓子屋のオバサンから告げられた残酷な言葉に会長は諦めきれずにいた。
「何でですか? たかが煎餅でしょう?
……分かりました、せめて理由だけでも教えてください。」
***
「なぁ、本当にここに入るのか?」
場所は変わり、俺達一行はでかでかとした洞窟の入り口で立ち止まっていた。
「ヤク、仕方がねぇだろ。
シナムリア蜂蜜はこの迷宮の中にしかねぇんだ。」
***
ーー時は遡り。
オバサンは渋々と枯れるような声で
会長に答える。
「ーーしゃあないのう。
足りないんじゃよ、煎餅に必要な蜂蜜が。」
「待ってください!
蜂蜜なら近くの八百屋ですぐ持ってきますから!」
「シナムリア蜂蜜じゃなきゃあの煎餅を作ることなぞ不可能じゃ。」
オバサンは諦めたように口を開く。
「しっ、シナムリア蜂蜜だとぉ!」
おいおい、何でカエデがそこで驚く。
「ほう、若いお嬢ちゃん。 知っとるのかい?」
「今では『シナムリアギャング』に占領されていて入荷不可能となった話題の蜂蜜!」
「正解じゃ!
という訳でお主らはもう諦めい。」
「「諦めてたまるかよ!」」
すごい、サンライトと会長が初めて息を合わせた。
初酒場の時を振り返ると、なんか新鮮だ!
ーーという事情があって今に至る。
俺達が訪れたのは言うまでもなく、シナムリア蜂蜜が在るとされる地下迷宮『シナムリア』。
カエデによる話だとシナムリアギャングとやらはこの地下迷宮の第一階層から第三階層を占領している。
シナムリアは476階層まであって、階層が深くなるにつれて強力な魔物族が住まうとか。
んで、シナムリア蜂蜜は第三階層の最深部で採取できる特産品。
貴族が躊躇う程の値段でシナムリアギャングが売り出したので駄菓子屋の素材としては出回ることがなくなった。
その物価はサンライトが飲みまくった梅酒の合計金額を遥かに上回っていて現在のシナムリア煎餅は王族、上級貴族や大富豪の三大珍味として重宝されているらしい。
オーナーが赤字を叩いてでも欲しくなる理由も何となく分かる。
『これ』で許しましょうとか言っていたが明らかに対価としては不釣り合いだ。
でも、会長が承諾した以上この契約を断ることはできない。
さて、シナムリアギャング。
どれ程の数かな?
「マップよ開け」
まず知るべきはシナムリアギャングの勢力。
数によっちゃ撤退も考えておこう。
ーープウンッーー
久々にマップウィンドウを眺める。
そのマップに映る真実にヤクは驚愕を溢してしまった。
「……何だよ、これ。」
<17灯>
「おい、どうしたんだヤク君?」
心配して俺の肩を揺さぶったのは会長だった。
これだけは伝えておかねば。
「なぁ、皆。
マップウィンドウを開いてくれ。」
「「「ーーッ!」」」
予想通りの反応だ。
シナムリアギャング、その実態は全員がplayerということだ。
ここからは俺の推測だが
彼等、シナムリアギャングはこの世界を認められない小心者の集い。
だからこそ独立した団体。
人間界のルールなど一切通用しない異世界ではそうせざるえないだろう。
淡水魚を海へ放り込むようなもんだ。
大抵の異世界転生or転移モノでは神様から貰ったチート能力とやらで無双&美少女ハーレム等々。
色々な対処法が神により準備されているのだろうがこの世界にそんな生易しい仕様はない。
種族と容姿の選択だけが救いである。
と、思いきや。
説明書に種族の事については詳しく説明されていなかった。
説明されていたのは種族名と、○○科という謎の選択肢と各種族の属性紹介だけ。
よりにもよって十の種族の1つで最も強そうな魔物族が選択不可能と最早入れるべきなのか分からない種族まで用意されている始末。
……そりゃグレるわな。
まぁ、お前らには悪いがこっちにもこっちの事情があるんだ。
「おーい、ヤク。
ボサッとしてねぇで早くいくぞ。」
「あぁ、悪いなカエデ。
ーーって、あの二人どこ行った?」
「もう先行っちゃたよ。」
マジかよ。
***
「はぁ……はぁ。」
「あの二人仕事が早いな!」
嘘だろ?
第一階層、かなりの人数が床に突っ伏してやがる。
これをあの二人が、いや、あの二人なら朝飯前か。
ーーズカッ
コロコロと転がって来たplayerをカエデは踏んで受け止める。
カエデは自分の踏んでいる足を離して
そのplayerを顔を確認。
数秒間をおいて口を開く。
「どうしたんだ会長!」
「大丈夫だ心配ない。」
会長はヨロヨロとしながらも必死に立ち上がる。
まるで状況が掴めない。
あの頑丈な会長がボロボロになるまでの相手が奥にいるのか?
サンライトは無事なのか?
「……サンライトはおそらく第二階層の番人と交戦中、第一階層の番人は拙者が相手するで候。
先にサンライトの援護に向かってくれないか?」
頼み事をしながら会長は武器屋で購入したという中古片手剣を構え直す。
コツコツと鳴る不気味な足音が俺達に迫る。
こいつが間違いなく第一階層の番人だろう。
「おーっと、これはこれは……お仲間さんかな?」
<18灯>
「チッ…時間がないな。
ヤク、カエデこれを使ってくれで候!」
会長は懐から謎の言語が記された怪しい石を取り出してカエデに手渡す。
カエデは成る程ねと言って俺と手を繋ぐ。
そして、カエデは怪しい石に何かを流す。
怪しい石はそれに呼応するかのように淡く光り、オレとカエデをその光で包む。
と、そのタイミングで第一階層の番人が視認できる距離まで近寄っていた。
「あっれ~? お仲間さんは何処かな~?」
彼は不気味な笑いで辺りを見回す。
明らかに俺達は見つかる距離なのだが気づかれていない。
怪しい石の力なのだろうか?
「ヤク、早く奥へ進むぞ。」
「お、おう。」
俺は小声で指示するカエデにぎこちなく返事を返して第二階層へと向かった。
***
そして、第一階層に残る決意を固めなおした会長は冷や汗を流しながら彼を見る。
彼は余裕そうにこちらを見下してるで候。
「なぁに、すました顔してんだよ雑魚。
しゃあねぇ、冥土の土産に名前だけでも覚えとけ。
俺はシナムリアギャング第一階層番人の『デンキ』だ。」
「そうかい。」
拙者は正直コイツを侮ってたで候。
あの斧の纏っている電気は何でござるか?
どうゆう仕組みなので候!
会長は焦っていた。
他のplayerが自分達の知らない技を習得していることに。
彼がこれ見よがしに見せびらかす斧は凶器の象徴、ビリビリと轟く電気が斧から溢れている。
先ほどの戦いで斧による攻撃は盾で防いだが盾から猛烈な電撃をくらう。
それにより体勢を崩した隙に腹蹴りをくらって拙者はスーパーボールのようにみっともなく吹き飛んでしまったで候。
もし、蹴りでなかったなら死んでいたかもしれない。
そもそも、斧と片手剣は相性が悪い、リーチ的に。
片手剣の間合いに詰めるまえにあちらが先に攻撃を入れるだろう。
ならどうする?
他の仲間達はどうやって攻略する?
ーー地の利を生かす。
会長の勝利の方程式はそんな単純なものしか思い浮かばなかった。
カエデなら得意の早撃ちで瞬殺、サンライトなら持ち前の怪力でごり押し。
ヤクなら十神器の加護で。
……きっと勝っているだろう。
だが、自分にはこれが精一杯だ。
会長は地面を見渡して、ある異変に気づく。
……カエデめ、どこまで『甘い』つもりで候!
「「ふはははーっ!」」
会長とデンキの笑いが重なる。
「俺に合わせんじゃねーよ雑魚が!
殺されてぇのか?」
「いいや、形勢逆転の悦びを知ってしまったで候。」
「形勢逆転? ついに錯乱したか?
まぁいい、雑魚は雑魚らしくくたばれ。」
ーービリリリッ
デンキの持つ斧はありったけの放電を放ち死の宣告を謳うように輝きを魅せるのであった。
<19灯>
第一階層の奥へ奥へと俺とカエデは足を走らせる。
早く降りれば早く降りるほどサンライトや会長の為になるんだ。
と決意に拳を強く握った背後で、雷の『猛き声』が暴れだす。
……帰ってこいよ会長。
ーープウンッ
「「ーー!?」」
急に足元から効果音が発せられる。
下を見ると謎の文字が記された魔法陣らしきものが光を放つ。
ヤバい、もう手遅れだ。
ーー俺の視界は白に支配された。
***
ん? ここは何処だ?
視界が白から黒に染まり変わる。
「何なんだここは……?」
「よぉ、ヤク。僕もここがよくわからん。嫌な予感がするね。」
ーーカッ
くっ、眩しい!
「ようこそ! 急にライトを照らしてすまない。俺はシナムリアギャングの頭、リュウだ。
君らの目的は知っている。
シナムリア蜂蜜だろう?」
「知ってるならさっさと寄越せ!」
「口が悪いぞ、『project:Dragoon』初の成功例。柔智楓君?
いや、今は楓ちゃんか?」
「ツナミィイイイイイ!」
「あらあら、いいよその表情!
戻ってきてくれたんだね!」
「ーー【竜脈黒線拳】」
カエデは憎悪と怒りを込めた黒き線を唸らせる。
心なしかその線は数や太さがサンライトの時と比べものにならないほど進化している。
黒き線は一斉にリュウへと襲いかかるが……
「ーー【竜脈青舞脚】」
リュウの足は蒼い光を帯びる、その足は複数の黒き線を防ぐ。
黒き線は弾かれて消滅する。
それと同時に強烈な衝撃波が発生し風圧が俺の金髪を吹き飛ばす勢いで迫る。
っておいおい、冗談だろ?
……どうしよう、この戦いついていけないや。
「ツナミ! 何故お前が竜脈を使える?」
「簡単なことさ、俺は竜の民『皇竜』だからだ!」
「……???」
カエデ、そこでトリプル疑問符浮かべないでくれ。
お前が仕上げたシリアス台無しだろうが。
ほら、リュウさんも呆れて溜め息溢してるよ。
「はぁ、カエデちゃん。
見損なったよ、皇竜族も知らないなんてな。
おかげで戦意喪失だ。ほら、やるよ。」
リュウはあっさりと鍵と地図を手渡した。
地図には第三階層シナムリア蜂蜜養蜂場の位置が示されていて親切な事に扉までかかれている。
今貰った鍵はその用途だろう。
「こんなに、あっさりと渡していいのかよ?」
カエデ、俺の代わりに言ってくれて有り難う。
「いいよ、その代わり。
第二階層の番人貰ってくれ。」
「「は?」」




