0灯 奪われた
「【境界樹を巡る王竜脈】
ーー境界樹、それは森羅万象を通ずる神々の樹。
十の種をかの地《鍵界》に配りては座に還る。
故に王竜脈は……、災を取り、汝は鹿を切る。ーー
ーー著/ツリーノ・ドラモネ」
その高さ、数千メトプ(鍵界における長さの単位)もあろう大樹の幹に腰をかけて齢17歳に見える女の子がゆっくりと『あの本』の冒頭文を呟く。
彼女は美しく彩られる。
大樹から巡り流れて止まない神々しい『何か』によって。
それは、一種の聖域と錯覚してしまうような見えない魅力を醸し出していた。
呟き終えた女の子の背後で佇む複雑な角を生やした男、
チョープは呆れた風に女の子に問う。
「ドラモネ、また『その本』読んでるのか?
自分の作った本を読むのってそんなに面白いのか?」
女の子、ことドラモネはその男の発言が気に入らないのか頬をプクーッと可愛らしく膨らませて男にジト目を向ける。
「もぉ~、わかってないなチョープ君。
面白いに決まってんじゃん!」
「そうだな……
ーーってか、それよりもドラモネっ!」
「何っ!」
唐突に顔を近付けてくるチョープに思わずドラモネは後ずさりする。
「何故、この世界を行き来する『奴ら』をこの世界に閉じ込めた?」
「――ッ!」
「はぁ、図星かよ。
また『境界樹の異変』を起こして、
『その本』の真似事をする……
もう止めようぜこんなくだらねぇ事。
いいか?
ドラモネ、お前は一度、兄妹喧嘩で負けてるんだ。
今はそのリベンジに勝つためだけの事を考えろ。
真似事に時間を割くだけ無駄だ。
それはお互いに痛いほどわかっているはずだ。
俺の『この眼』が機能しなくなった今。
もう後戻りは出来ねぇんだぞ?」
チョープはいつになく真剣な眼差しをドラモネに向ける。
そんな彼の物言いたげな表情の意味を汲み取れないドラモネは首をかしげて応える。
彼女の頭の上には疑問符が浮いていそうだ。
「はぁ? この私が真似事?
チョープ君、寝言は寝ていうものよ!
それに、この本はこの世界の『シナリオ』なの。
だかrーー」
チョープはドラモネの言葉を遮断して嗤う。
そして、さりげなく手をさしのべる。
「ーーんじゃあ。
俺を切るヤツがそのうち現れるってか?
……くっ、面白ぇ!
ドラモネ、その本を俺に貸してくれねぇか?」
~とある戦場にて~
夜の闇を纏った武装兵らが兵長の指示により
シータレー海底国へと進軍。
ついに、シータレーの手先と思えるモノを発見した兵長は右手をサッと払い合図。兵らに、指示をあおる。
「目標、シータレー族一体!
一同、行けぇえええ!」
「「「ォオオオオオ!!」」」
兵らが掛け声をあげ。
目標に急速接近して数百メトプの間合いをとった
その時! ーーー
ーーカッーー
***
とある戦場から少し離れた場所で。
仲間が白い人形と化していく光景を見て絶望に顔を歪め。
緑肌の顔を青に染めつつある青年が一人。
凍てつく身体を引きずりながら背を向けて逃げる。
否、逃げることしか出来なかった。
「うっ、……嘘だろ?
何でこんなシータレー族一体に夜の俺らがこうも呆気なく負けるんだ?
俺らは祖国アンデッドの選ばれし上級兵士なんだぞ?
こんな、戦績で俺は英雄になれるのか? ちくしょう!」
青年は己の弱さに悔い、曇る夜空に自分への怒りを叫ぶ。
その叫びが響くことはない。
強烈な豪雨に掻き乱されて軽く流されるだけだった。
死ぬことを恐れ。
凍てつきつつある身体にも屈することなく立ち向かう仲間を見捨てて逃げていることに対する自分の弱さ。
祖国よりも、自分の命を優先してしまったという事実に対する怒り。
その悔いが自責となり、雨が傷口に染みるように心に消えない傷として浸入する……
それは彼を少しずつ蝕んでいくのであった。
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どうも、作者のboonです。
今回の一言。
○灯は○話の代わりみたいなものです!
次回はキャラ紹介しようと思います!
《作者の呟きコーナー》
【境界樹を巡る王竜脈】のルビ振りミスったので修正致しました。
ε- (´ー`*)