12灯 サンライトの飲酒
~鍛治屋にて~
ーーカランカランッ
「いらっしゃい!」
来店を告げる音をいち早く察知して出迎えるオジサン。
通称、鍛治屋の店主は3人の客を元気に迎え入れる。
八百屋と錯覚するほどまでの大声で。
「あれ? サンライトは?」
「ヤク、サンライトはもうとっくに武器を持ってるよ。用が済んだら酒場に来いだって。」
あぁ、成る程。ナイス会長。
確かにあの時は飲めなかったもんな。
これは会長なりの償いなのだろう。
その同時刻。
~とある酒場にて~
ーーチリンッ
酒場に鈴音が優しく響く。
そう、来客の合図だ。
「いらっしゃいませ、
ーーってまた仮面の兄貴かい?」
「兄貴兄貴うっせーよ。
俺はこの店の常連客になるから
名前くらい覚えとけ。
俺の名は『サンライト』だ。」
「ほう、そういやこの酒場の名前をいい忘れてました。
ようこそ、鹿木酒場へ。
店主の私が心から歓迎しよう。
よろしく。
《殿鬼》の第19代目継承者、夜豪族インキュバス科のサンライト君」
「てめぇ、『継承者』の情報を何処で拾った?」
「私も継承者と言えばわかるかい?」
「チッ! そう言うことかよ。」
***
ーーカランッ
サンライトはあの時の梅酒を
懐かしみながら優しくグラスを揺らす。
すると、あの時は不快でしかなかった氷の音が癒しの奏で音へと変化した。
前回の経験を元にバトルテーブルを座る事を諦めたサンライトに邪魔する者はいない。
ゆっくり堪能出来るのだ。
ふと、店主に目を向けるとバトルテーブルの静かな戦慄を目の当たりにする。
……もう、思い出すのは止めよう。
サンライトは梅酒を顔に近づけてまたグラスを揺らす。
先程とは違いこの距離だと梅酒の上品な香りまでもが店主同様にサンライトを迎え入れる。
堪能せよと。
サンライトはずっとこれに憧れていた。
前回の活気とは真逆かつ美しい酒場の場景。
静かなる余興に染まりて大人の対談が
酒と共に始まるのだ。
リアルでは『太陽寺ちゃん』としてじっくり警察のお世話になるのだがこの世界、鍵界ならば成人を越えているので合法的に、リアルよりも一足先に大人の味覚世界へと躊躇することなくその足を踏み出せるのだ。
いざ、実食!
サンライトは仮面を外して梅酒を一飲みする。
ゴクンッという音が喉から伝い、首がひんやりとする。
「ーーッ!?」
サンライトの口内に大人の感覚、感動が広がる。
梅の上品な旨味とジャスミンのような爽快な香りが喉を通る。
後味は思いの外、すっきりしていた。
だが、梅酒の余韻は確実にサンライトの心を緩めていた。
ゲーム内では荒々しく振る舞って強張っていた表情や声も露になるが今やその見知った面影すら消えていた。
「よっ! サンライトいい飲みっぷりじゃねぇか!」
「……るせぇよ。この酒なんて名前だ。」
そのサンライトの言葉に一切の覇気は感じられない。
「『ザスミン梅酒』というビートット民主国の梅酒に鹿木酒場特製酒を割った酒。
名付けて『ザスシカ梅酒』でございます。」
店主はサンライトの意志そっちのけで自慢気に酒語りをはじめるのであった。
その後、店主の酒武勇伝にわずか10分で飽きて寝たのは言うまでもない。
《作者の呟きコーナー》
ポイントゲットしてること最近知りました!
なんだかやる気が出てきました!
マイペースな投稿速度ですが今後とも宜しくお願いします!




