86灯 生命の選択と逃亡
<TOKISDEO・RADIO>
「どうも、私、TSO宣伝部のゾン・クラヴィラです。
今回も前回のおさらいあらすじしていきましょう。」
A1:語られるノジヤ皇子の過去
A2:完璧貴族の筈の父が、息子に対して謝罪をする。
「何で……何で父さんが謝るんだよ!」
「何で、貴族に落ちこぼれの灯術使いが。
何で、平凡な灯術使いが居ないか分かるか?」
「??」
「貴族の恥となる存在は存在してはならないんだよ。
学力や運動神経じゃない。この世界は灯素量が強さの指数、そのままの存在価値になってるんだ。
馬鹿みたいだろ?」
「もっと早くに気がつけば、俺は妹を救えたかも知れないのに……」
言ってはいけない。分かってるのに。
だが、僕は言わずにはいられなかった。
「妹は死んだんですか?」
「あぁそうだよ! 俺が、俺が殺したんだよ!
いいか? 貴族に劣等生なんか存在しないんだよ。
そりゃそうだ。劣等生は都合良く存在ごと社会から抹消されてるんだからなぁ!」
「もしかして、父さんの妹や僕も……。」
「あぁ。でも、シュガーノ。
お前の命はまだ間に合う。」
父は立ち上がって部屋に仕舞われた二つの灯素石を取り出して、僕の両手に置く。
二つの灯素石は境界樹を巡る王竜脈に伝わる伝説の石だった。
一つはたれぞうの灯素石。二つ目はGOの灯素石。
人間界を監視する最高位の二大神が
この世界に与えた賜物。
「これを闇商人に売って資金にするんだ。
生きるには十分な資金が得られる。
これから会えなくなるだろうが新たな仲間を見つけて強く生きろ。」
父はさらに僕の手に灯素石を置く。
ワープの灯素石だ。
「城下町をイメージするんだ。いいか。
ハッキリとイメージが出来たらそのタイミングでワープの灯素石に灯素を流し込んで発動する。」
「……以上だ。やれるか?」
「うん。」
「んじゃ、やってみろ。」
「発動せよ! 《ワープの灯素石》!」
「楽しく生きろよ。シュガーノ。」
瞬間、ワープの灯素石から眩い閃光が放たれ。
視界がその光に支配される。
その時、影しか姿を確認できない父が。
最後に僕に対して言った言葉は、
灯素石から発せられる高音が邪魔してうまく聞き取れなかった。
……。
…………。
***
耳には、普段僕が暮らしている敷地内からは
絶対聞こえないような騒音が入ってくる。
わーわーと木霊する庶民達の会話。
元気よく商品の宣伝を行う八百屋の大将の豪快な大声。
瞼を開けばいつの日か家族と行った商店街が
久々に僕を迎えてくれた。
ーー移動は、成功したようだ。
「そこの青年。どこみてつっ立ってるんだい?」
耳元に迫る急な渋声に僕はビクッとして声をかけるオジサンに目を向ける。
「そんな驚くこたぁねぇって!
俺ぁこんななりでも一応優しい奴なんだからよ。」
自分を優しいと言う人にはまともな奴はいない。
「っつーか、お前さんを俺ぁどっかで見かけたんだけどなぁ。ん~。」
オジサンは手を組んで首を左右に振りながら懸命に思い出そうとしてる。
その動作を続けること数秒後、彼は広げた掌に握り拳をポンと叩く。
「お前さんはあの時のーー」




