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傷だらけのパラノイア  作者: 藤一左
cage in the princess
17/30

ツキヒ

 僕はサッカーをやっていた。小学校の時、親に勧められて始めたサッカーなのだけれど、僕は自分ではっきりと、自分は類稀なる才能の無さを持ち合わせているなと自覚していた。


 割りと早い時期に始めたはずなのに、僕より一年以上後に入ってきた同級生に実力で負けた。確かそれがきっかけだったと思う。今までも好きになれず嫌々やっていたサッカーが、改めて嫌いになった。


 辞めたい。そう思うのは自然な事だと、今なら言える。でも、当時の僕はそう考えなかった。チームに最低限の人数しか居なかったというのもあると思うけれど、辞める事がこの上なく卑怯な事だと思った。


 だって、僕が辞めたらチームが試合に出れなくなるから。試合でどんな惨めを味わっても、言葉通り土の味をかみ締める事になっても、周りにどんな迷惑をかけても、チームが試合に出るためには僕が必要だった。所謂人数合わせだ。


 歯を食いしばって頑張って六年生になり、いざ、正式に辞めるとなった時、僕の心が抱いた開放感は尋常じゃなかった。やっと逃げれる。そう思った。


 しかし、一緒にチームをやっていた同級生が「中学でも一緒にやろうな」と言ってきた。


 そして僕は情け無い事に、それを断る事が出来なかった。


 中学でもサッカーを続けて、どうせまた、中学から始めたやつらに抜かされていくんだろうな、と思いながらも、それでも僕は頑張った。少しずつ、本当に少しずつだけれど、上手くなっていた気がしたから。


 練習試合に出してもらえるようになったのは二年生になってからで、その頃には彼女も出来た。


 ああ、報われている。そう感じていた。


 頑張ってきた甲斐があった。努力は報われる。


 頑張る事は無意味じゃない。逃げ出さなかったのは正解だったんだ。


 こんな調子で、毎日、起きるのが楽しみになっていた。


 某日。


 僕は足の腱を切った。


 医師曰く、練習のしすぎらしい。でもきっかけは、練習中に起きたただの衝突だった。


 こうして、僕のサッカー人生は終わった。


 程なくして彼女にも振られてしまったのだけれど、この世界は理不尽なもので、何故か彼女は同級生達から糾弾きゅうだんされてしまった。


 僕はそれをなんとかしようと同級生の皆に、彼女は悪くないのだと言って回った。それが正しい事だと思っていた。


 しかし、ある時僕は、同級生に言われた。


 お前は優しいな。


 ――優しすぎて、気持ち悪い。


 と。


 その時初めて、僕は自分の心が壊れていた事を自覚した。

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