とおりゃんせ
通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細通じゃ
天神さまの 細道じゃ
ちっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お札を納めに まいります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ
今日は彼と付き合って三ヶ月の記念日
彼は三ヶ月記念ということで遊園地に連れていってくれると言ってくれた
「今日はいっぱい楽しもうね」
と彼が言った
私は
「うん!」
と、つい大きな声が出てしまった
しかも声が裏返っていた
「もー、緊張しすぎw リラックスして、ほら」
彼が笑いながら言った
「ごめんね...男の子とこういうところに来るの初めてだからさ」
彼は私にとって初めての彼氏
それどころか人生で一番仲がいい男の子
21年間の人生で初めて手を繋いだ男の子だった
彼とは高校からの同級生で、最初はしつこいと思っていたがなんだか放ってはおけないところと、時折見せる優しさに少しずつ惹かれていった。
高校卒業後、私は社会人 彼は大学生と全く違う道に進んでいたが、たまに遊びに行ったりしていた。もちろん友達として。
彼には私に触ることも、私とツーショット撮ることも禁じていた。
彼に辛く当たったり、時には自分でもビックリするほど彼に甘えてしまったりして、彼の心を振り回していた。
彼もきっと彼なりに優柔不断な私に悩まされていただろうし、振り回されるのも嫌だっただろうけれど、それでも一緒にいてくれた
「さ、早く回らないと日がくれてしまうよ」
と、彼が言う
むかつく、すごくムカつく私はこんだけ彼のこと思ってやってんのに彼はその事はわからない。
当たり前だ。私が彼に伝えてないからだ、心は言葉にしないと伝わらないのだろう。
私はとてもムカついた、素直になれない自分自身に腹をたてながら
「そうだね、あんた歩くの遅いもんね」
と、怒った口調で言った。
やってしまったと、後悔したが彼は
「そうだね、俺が歩くの遅いもんなw 足は俺の方が長いけどw」
などと言う
彼なりの優しさである 素直になれない私に気づいてくれている
こんな私を受け入れてくれている。
「...いつも一言多いんだよ」
と、私は言った。
「そんな怒んないでよ でもすこし顔赤いよ?照れた?それとも風邪かな?」
「次言ったら帰るから」
と、やりとりしながら歩いていると、おいしそうなアイスクリーム屋さんを見かけた。
彼は、
「おいしそうだね~ 俺は買うけど どうする?」
「私も買う」
彼は奢ろうという素振りは見せない。
「借りは作らない」
彼にはそう伝えてあるから。
「じゃあ、俺はいちごとチョコね」
「私は抹茶」
料金をバラバラに払う
「最初何乗る?」
「私は君に合わせるよ」
「なら、ジェットコースター乗ろうか」
と、喋りながらアイスを頬張る
暑い とても暑い 夏だから?真夏日だから?
違う こいつと一緒にいるからだ
「食べ終わったし行こうか」
ジェットコースターに向かう
「身長的に大丈夫かな?」
「あんた、デカいじゃん」
「...ごめん」
「うっさい」
私はとても身長が低い 小学生の時から特に男の子たちにからかわれてきた だから、私は自分の背の低さがとても気になっていた
しかし、今は気にならない
「並ぶ列短いね~ この分ならすぐ乗れそうだね~」
彼が言った
「そうだね ちょっと動くなよ?」
私はそう言いながら彼に抱きついた
私の身長的に、抱きつくと彼の胸に顔を埋めることができる
これがとても心地がいい
「寂しかったんなら言ってよね~w でも、ここだと恥ずかしいなほら、誰かに見られたら」
「別にいい」
「そっかw」
そういいながら、彼は私の頭を撫でてくれる
暫くして私たちはジェットコースターに乗った
ジェットコースターが上に上がって行くときに彼が言った
「実はさ、俺、ジェットコースター苦手なんだよね」
「え? じゃあなんで乗ったの?」
「なんとなく?」
「馬鹿じゃないの?」
「でも、君も震えてる」
「これはッ...違うし 怖くないし」
「目を瞑ってるから終わったら教えてね~」
「あ、ちょっと待って だめ」
コースターがレールの一番高いところに来た
とても景色が綺麗だ。
そして、コースターが高速で坂を下り始めた
私はガタガタ震えながら声を押さえた
「全然余裕ないじゃんw」
彼がこっちを見ながらいう
こいつのこういうところは素直に嫌いだ。
苦手なふりをして、私が怖がってるのを喜んで見ている。
腹立つ。ほんと腹立つ。
「あー、楽しかったねw」
「どこがだよ、楽しんでたのはあんただけでしょ」
私の膝はガクガク震えていた。
それを見て、彼は
「じゃ、手を繋ごっか」
手を繋ぐのは嬉しい反面、とても恥ずかしい
高校の時、彼と帰るときに初めて手を繋いだ
そのときとても恥ずかしかったので、それ以来彼と手を繋ぐのを遠慮していた。ほんとにたまに手を繋いでいたが。
手を繋ぐのは恥ずかしいので遠慮したかったが、足が震えて動けないので仕方なく手を繋いでやった。
弱々しい外見と違い 繋いだ手はしっかりと私の手を握り離さない
「あそこいかない?」
彼が指差した先、それはミラーハウスだった。
「あれって、ミラーハウスじゃん ん、ホラーって書いてあるじゃん」
「うん、そうだね」
「あんたお化け無理じゃん」
「え?別に大丈夫だよ?」
むかついた こいつと一番最初に一緒に行ったのは高校の文化祭のお化け屋敷だった そのときガクガク震えてたのはどこのどいつだよ...
「じゃあ、決定ね、レッツゴー」
「はあ...」
そんなわけでミラーハウスに来た
もうその時には足の震えは止まっていたので手を離した
そして、中に入る
長い通路だ、部屋に通じているのだろう
「別にホラーってわけでもないよね~ だってなんにもでてこないもの」
「油断してると腰抜かすよ」
「行きはよいよい 帰りは怖いってやつかな? お婆ちゃんがよく言ってたなぁ」
彼のお婆ちゃんとは付き合ってから一度会ったことがあるが、とても優しくいい人だった
「そうそう、お婆ちゃんの言ってる通りだよ 帰りにとても恐ろしいことが待ってるかもよ?」
私が脅かし半分で言う
「怖かったら抱きつくから大丈夫」
「意味わかんない」
と、いっていると
「うわあ!ビックリした!」
彼が叫んだのでふと見ると
彼の足元に子供がいた。泣いている少年だ
とっさに話しかける私
「どうしたの なにがあったの」
少年は
「お母さんに会いたい」
と泣きじゃくりながら答えたので、
「仕方ない一緒に出口まで行こうか」
と、彼に手を差し伸べる
少年は一緒についてきた
そして、鏡だらけの部屋に入った
「やべえ! 化け物が映ってら」
「それはあんた」
と、彼の言葉を流す
「出口はあっちみたいだね 大丈夫だよ すぐお母さんに会えるからね」
と、少年に言った
しかし、そこに少年はいなかった
彼も後ろを振り向いていた。そして、
「おいおい、一緒にいた女の子達はどこに行ったんだよ?」
「は? なにいってんの?男の子だったじゃん 男の子の声だったし」
私は、焦っていた。いつもなんとなく余裕ぶっている彼も今回ばかりはヤバいと言った感じに焦っていた。
「からかってんの?ねえ、からかってんの?」
彼が焦り気味に言う
「からかうわけないじゃんか! 馬鹿じゃないの!」
私は怒鳴ってしまった
「行きはよいよい 帰りは怖いなんてよく言ったもんだ 一番怖いのは道中だ」
彼は言った。
それは、現状?それとも私の事?
現状で何が起きてるのかわからずパニックと、彼の言葉が私の心のなかで様々な意味で回り続ける。
「帰りたい」
彼の声ではない
「帰りたい」 「帰りたい」 「帰りたい」 「帰りたい」
男の子、女の子の声が響く、そして鏡に一枚につき一人、子供が映る
みんな、歴史の教科書とか、時代劇でよく見る所謂「江戸時代の子供」という服装をしていた
「昔の子供達みたいだな」
彼が言った。私もそう思っているところだ。
「逃げなきゃヤバい 逃げるぞ!」
彼が私の手を取り、引っ張った
しかし、私の体は彼の方には動かなかった。
足を掴まれていた
「帰りたくても帰れないよ だから、一緒にいようよ」
鏡の向こうの子供がそう言った
「だめ、私は帰るの だから、離して」
引っ張る力が強くなる
「お姉ちゃんは僕たちを見捨てないよね?」
子供がそう言った
「なんの話をしているの? 離してッ...!」
「僕たちはお札の代わりに連れてこられたんだ お札を納めないと連れてかれるって知ってたのに納めなかった 僕たちは見捨てられたんだ」
私の足が鏡に触れる 柔らかいぐにゃぐにゃした不思議な感覚
彼は手の力を弱めずしっかりと握っている 私は彼の手をふりほどいた
「君は私の分も生きてね」
そう言って私は鏡に引きずりこまれた
鏡の中の世界 神社のような場所だった
子供達はどこかに消えていた
すると、誰かがやってきた
「あなたはまだ、見捨てられてないよ あなたは彼のために彼を見捨てた だけど、ここは見捨てられたものがくる世界 彼はあなたを見捨ててない あなたはまだ帰ることができる」
私はその人の方を向いた
知っている老年の女性...
私は訪ねた
「彼らはなぜここに?」
「あの子供達は当時の親達が見捨てざるを得なかった お札が高く、お札を納めていたら生活することもままならないそんな時代が存在していた だけど、その親たちを責めてはいけない その親たちは涙を呑み込みながら連れていかれるのを見ているしかなかった」
私はその話を聞いて少しモヤっとしていたが、
「戻りなさい、今なら戻れる あの子は手を離してない」
そう言うと、私の肩に手を置いて深呼吸させた
「目を瞑ってあの子との思い出をあなたが振りほどいたあの子のいる場所を思い描きなさい」
目を瞑り思い浮かべる ムカついたこと 嫌いなところ そして好きなところそして最愛の人が今いる場所を
私の手を誰かが握っている 彼だった
「おかえりなさいませ お姫さま 鏡の中の世界はどうだった?」
「君がいなくて退屈だったよ」
そういって出口を探し求める
もう、足を掴むものはいない
しかし、少年達は語りかけてくる
「出口なんてないんだよ」「入口だけ」「帰りは怖くないよ 帰れないから」
などといってくる
私は彼に訪ねた
「ねえ、帰れないの?私達。」
すると彼は
「ミラーハウスに感謝だな 君のこんな顔が見れるなんて ジェットコースターの時とは比べ物にならないくらいかわいいよ」
と、言った
私はムカついたがそれ以上に彼の言葉には余裕ができていることそして私をしっかり見ていることその二つが含まれていた。
そして彼は、
「お婆ちゃんの教えてくれたことは正しかった だから帰れる。安心しろ こうやって手を握りあっていることがその証拠だ」
そう言って何かを呟いた
すると、出口らしきものが出てきたというか、見えてきたというかとにかく現れた
「さ、走るよ」
彼と一緒に走った
「今日一日楽しかったね 俺はとても楽しかったよ」
と言ってきた
「今聞くのかよ 私も楽しかったよ」
「やっと素直に言ってくれた 顔を赤くして照れ気味の君の顔可愛いよ」
気がついたら外に出れた
外に出れていた
外は少し寒かった けれど手と心の中は暖かい
私は彼に聞いた
「私の事見捨てなかったの?」
と、すると
「君ってときどきドストレートに聞くときあるよねそういうことを まあ、帰ってきてくれるって思ってたし」
「どうして?」
「俺が散々情けないこととか酷いこと言っても一緒にいてくれるし、お腹すいたら帰りたいって思うだろうって」
「一言多いんだよいつもいつも...」
そういいながら私は泣いていた 彼はずっと私を見ていただからこそ一言多かったそう思った
「いやー、でもビックリしたよ俺も鏡に飛び込もうとしたらいきなり呼び止められてさ、言われたんだよね」
「何を言われたの?」
『あの子はあんたを道標にして戻ってくるだからその離してない手をもっと強く握って引き上げてあげなさい』
「って、言われたんだよね」
「お礼を言わないとね」
私が元のせかいに戻れたこと、そして私が素直になれたことのお礼をしなくちゃ
「うん帰ろうか そして行こう」
私達は遊園地を後にして帰ることにした
そして、後日花を手向けに彼の祖母のお墓へと向かった
後に知ったことだが、この遊園地は元々神社があった山に作られていたこと、ミラーハウスがあった場所が神社の跡地であったということ、彼の祖母が子供の時似たような経験をしていたということが彼の祖父から聞くことができた。
夏ということでホラー
そして私の恋事情を絡めて出来たのがこの作品です。
お婆ちゃん編も考えておりますのでまた、後日