「狂気のオーディション」
「それじゃあ、気をつけて帰るように」
帰りのホームルームが終わる。
本来であれば学校から解放される至福の瞬間。しかし今日は訳が違う。
地球上において、唯一俺が心から安息できる場所、その名も我が家。
一刻も早くその聖域に帰りたいが、それを阻む声が教室中に響く。
その綺麗で透き通った声の持ち主は瀬川夏芽、我らが部長である。
「はい、香菜ちゃんと、サスガノ君集合!」
「はい、はーい!」
「…………」
ノリノリの香菜。
トボトボ向かう俺。
「ほらサスガノ君、もっとやる気だす! そんなんじゃ足跡、残せないよ?」
「いいか、瀬川さんが残そうとしている足跡。それは何れの日か昇華するぞ……黒歴史にな」
「あはは、サスガノ君、セリフが中二病」
「一正さん言うと、説得力ありますね」
「…………」
散々馬鹿にしやがって。
こいつら覚えてろよ。いつか復讐してやる。
「場も和んだことだし、本題! 部活動作成申請書を貰ってきました。とりあえずここに二人とも記入して下さい」
「分かりました!」
そう言うと香菜は自分の名前と俺の名前を記入した。
しっかりと俺の名前は俺の筆跡で。
「一正さんが渋る前にさっさと書いちゃいました!」
「香菜ちゃん、ナイス!」
何だよその無駄スキル。
もう諦めてるから普通に書いたのに。
……ん?
「おい、ここに部活動作成を申請する場合は、四人以上が必要と書いてあるぞ!」
これは、もしかしたら突破口になるか……?
俺の平穏を間違いなく破壊する、足跡部とかいう怪しい団体の発足を止める突破口に!
「お、よく気づいたねサスガノ君!」
「どうします? 誰かに幽霊部員として名前貸してもらいます? ぼく、既に何人かの筆跡抑えてますよ」
「なにやってるんだよお前……」
「正直香菜ちゃんとサスガノ君が居ればそれでいいんだけど。せっかくだからやる気満々で面白い人がいいの。幽霊部員は士気が下がっちゃう」
「なるほど! 確かに活発な方が楽しいです!」
「ということで私は授業中に部員募集のポスターを作っておきました!」
「ちゃんと授業受けろよ……」
「一ヶ月も学校に来ない人に言われたくないな」
「ぐぬぬ……」
相変わらず痛いところを突いてきやがる。
「私が作ったポスターはこれ!」
足跡部『生きた証を残す部活』
私達は同士を後一人募集します!
自分の生きた証を何か形にしたい人。
三日後の放課後、オーディションを行うので105教室まで来て下さい!
これに俺達三人のイラストが描かれたポスターだった。
「わー! 瀬川さんイラスト上手ですね」
「ありがとう香菜ちゃん! 後香菜ちゃんは夏芽って呼んで」
「分かりました夏芽さん!」
「いちゃついてるところ申し訳ないけど、オーディションなんて誰もこないだろ」
誰がこんな怪しい部活に入ろうとするんだ。
こちらからお願いするならまだしも、向こうから頭を下げて入るような部活じゃないぞ。
「ふふ……それはどうかな」
なんだその不敵な笑みは……。
◆◆◆
そして三日後の放課後
「うそだろ……!?」
何が起きているんだ。
こんな怪しい部活のしょうもない一席を求めて、
「三十人近くいる……だと!?」
「ぼく達の部活、大人気です!」
何故、こんなに大人気なのだ。
この学校の奴らは頭大丈夫なのか?
いや、でもなんか、よく見ると男ばっかりだな。
「こいつらまさか……!?」
「ふふ、察しの通りだよ。香菜ちゃんと私、一年生の女の子の人気一位と二位らしいよ」
「まじかよ……。実態を知らないばかりに」
「むむ、失礼な!まあでも、この部活に入ればライバルは噂の変人のサスガノ君だけ。これだけ人が来るのは予想通りだよ」
お前こそ失礼だよ。
でもその通りだから何も言えない……。
「それでは皆さん、オーディションを開始します。今回進行役を務めさせて頂きます赤姫香菜です。どうぞよろしくお願い致します!」
「ふうううううう!」
会場は大盛り上がり。
本当にあいつ大人気なんだな……。
「それでは一人目の方、お願いします!」
「はい。僕が今までに懸けてきたことは数学です。円周率行きます!」
こうして狂気のオーディションの幕が上がった。