「部活をつくろう」
「ただの友達だよ。それだけだって」
「へ~。友達に、ご主人様って呼ばせているんだ~」
「うぐぐ……」
瀬川さんは一転して俺たちの関係を詮索する。
あんなに優しかったのに、厳しいところを突いてきやがる……。
「しかも、お弁当も作って貰っているんだって? 二人はもしかして付き合っているの?」
「つ、付き合ってないですよ! こんな人、好きになるはずないじゃないですか!」
香菜は顔を真っ赤にして否定する。
そんなに俺と付き合っているって思われるのが嫌なのか……。
「えー。怪しいなー。じゃあ、やっぱり本当に主従関係だったり~?」
うわー。
清々しいほどのゲス顔だ。あの優しかった姿は完全に偽りだったのだ。
「これはもう隠し通せないだろ」
「うう……。そうですね。あまりばれたくなかったのですが仕方ありません」
「え、まじなの? まじなの!?」
「ぼくの本当の名前はスカーレッド・プランセス・香菜と申します」
大学からメイド実習でやって来たこと。
本当の年齢は十四歳であること。
俺をリア充に導かないと大学に帰れないこと。
このような大体の事情を香菜は説明した。
「なんて、なんておいしい状況なの?」
「おいしくねえよ!見た目に騙されるな、香菜は悪魔だ」
「誰が悪魔ですか! 十四歳の女の子に使う言葉じゃないですよ!」
「……ていうか、その年でよく高校生できてるね」
「ぼくは天才メイドですから、書類改竄からの高校潜入なんてイージーです!」
そんなことやってたのかよ。
やべえなこいつ。
「へえー。赤姫ちゃん……は偽名だったんだっけ、香菜ちゃんはすごいんだね!」
「えへへ、ありがとうです」
やばい、調子に乗り出している。
こうなると香菜は面倒くさいぞ。
「おい、あんまり誉めるな。調子にのったら面倒だぞ」
香菜の暴走を止めるべく、瀬川さんに注意喚起を施した。
しかし、瀬川さんはそんな事など聞いておらず自分の世界に没頭していたのだ。
そして、訳の分からないことを言い出すのである。
「決めた!! 私、部活を作る!!」
唐突に、
瀬川夏芽は超真剣な表情でそう言った。
「……それは精々がんばってください」
「何言っているの。佐須駕野君も部員になるんだよ」
「はあ!?」
「もちろん、香菜ちゃんも!」
何言ってんだこいつ。部活だと、何故俺が関わらなければならないんだ。
香菜もなんか言ってやれ。
「いいですね! ぼく、中高は飛び級だったので部活したことなかったんです。
部活動、とても面白そうです。ご主人様と同じ部活なら問題もないですし!」
「まさかのノリノリかよ!」
「どんな部活を作るんですかー?」
香菜はめちゃくちゃ顔をキラキラさせてやがる。
だめだ。こいつは、完全にあっち側だ。
「私は二人を見ていてインスピレーションが止まらないの。
創作意欲が止まらい!」
なんだ、俺たちを見てインスピレーションが沸くだと?
瀬川さん、まさか変態なのか?
「だから、なるべくずっと一緒にいてマンガとか、小説とか、音楽とか何かに残していきたいと思うの」
「それは、それは欲張りなことで……。応援してるから、俺を巻き込まないでくれ」
頼むから一人でやってくれ。
俺にはなんのインスピレーションも湧かないんだよ。
「何言っているの! 一緒に生きた証を残していこうよ。それにどうせ暇でしょ?」
「確かに何もしてないけどさ……」
「そうなるとなんの部活になるんですかね。文芸部……でもカバーしきれませんね。」
香菜はもう入る気しかねえな……。
なんでそんなに興味津々なんだよ。
「そうだね~。よし、じゃあ足跡部だ! 生きた足跡を残すための部活!」
「何をするか部活名からはまったく謎だな。そんな部活に俺は入らないぞ!」
何が、足跡部だ。
俺には今まで負の足跡しかないし、きっと今後もそうだ。
そんな足跡残したくはないぞ。
「いいじゃないですか。ご主人様も中学に似たようなこと、してたじゃないですか」
「え、そうなの佐須駕野くん? もしかして同士?」
「うわあああ、その話はやめろ!」
「やりましょうよ。部活動」
香菜は悪い笑顔を浮かべている。
「断ったら、分かりますよね?」と脅しているような顔だ。
あれをばら撒かれる訳には……畜生が。
「……やれば、やればいいんだろ」
「いやったー!」
香菜と瀬川さんはハイタッチを交わす。
もう仲良しかよ。
「そうと決まったらさっそく書類作ってくる!
香菜ちゃんと佐須駕野君も授業遅れないようにね!」
そう言い残すと瀬川さんは階段に消えていった。
「楽しくなりそうですね。ご主人様!」
「まったくそう思えないんだが……。
変な部活にいれられて、これ以上変人扱いになっちゃうよ……」
「やってみないと分からないですよ! あ~、楽しくなってきました!」
香菜が家に襲来してきて俺の高校生活はどんどん変な方向へ向かっていく。
「どうなっちまうんだ……。俺の高校生活」