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メイド界からこんにちは!  作者: 柚堂ゆゆ
第7話「波乱!メイド失格の危機!」
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ポンコツぽぽちゃん

「たんぽぽちゃん、とりあえずこんにちは」


 ぽぽちゃんの放ったメガトンパンチに面食らい、まるで永遠のように感じた一瞬の静寂。

 なんとかそれをかき消したのは、俺の彼女(役)の瀬川さんだった。


「え、あ……、こんにちは部長。……じゃなくて、サスガノサンヲ、タラシコミヤガッタ、コノアクマメー」


 はは、なんて棒読み。

 手筈通りだよぽぽちゃん。でもな、タイミングも悪いし、何よりなんて大根役者だ。


「……佐須駕野くん。この子は一体誰だね? どうやら君にとても好意を寄せているように見えるが……」


 ヒューゲルさんは俺にそう問う。

 ほんとか? 本当にそう見えているのか?

 この三文芝居はさすがに無理があると俺は思うけど、ここは手筈通りいくしかない。


「ええと、この女の子は葵 蒲公英といって、その、僕の友人です」


「ハイ、ワタシハ、サッスガー……、サスガノサンノユウジンデ、サスガノサンヲ、アイシテイマス」


 頼む、そのロボットみたいな喋り方をやめてくれ。

 最初はもうちょいましだったのに、どんどん感情を失っている。

 そんなに嫌か? 俺に片思いしているという役は!

 ……嫌だよなあ。


「……失礼だが、本当に君は佐須賀野くんに好意があるのかね? 様子が変だが……」


 やばいよ。即効でばれ出してるよ。

 演技下手すぎだよぽぽちゃん。

 まず登場からおかしかったもんな。なんで今から映画を見るってこと知ってるの?

 しかも映画の種類までさ。

 確かにこの後そういう段取りだけどさ、もうちょい頭使ってくれよ!


◆◆◆

「絶対いやです! なんで私がサッスガーノを好きなんて振りをしなきゃいけないんですか!?」


 さて、時はまたまた巻き戻り、部室にて作戦会議の時。

 彼女役に瀬川さん、サポート役に香菜、そして足跡部最後の部員にも、もちろん役目が与えられた。

 ぽぽちゃんの役目は『俺に片思いする女の子』。しかし、当然ぽぽちゃんはそれを拒否。


「考えてもみてよたんぽぽちゃん。不登校から一転、彼女ができたっていうのはすごいけど、もしかしたらマグレでそうなるかもしれないよね? でも、さらにもう一人、さすがの君を思う女の子がいたとしたら? ……それはもう、さすがの君の実力と認めるしかないよね」


「……そうなんですか? 部長がそういうならそんな気がします」


「そうなんだよ。ぽぽちゃんの役目はこの作戦の言わば、ダメ押し! いっしょに香菜ちゃんのピンチを救うんだよ!」


「うう……、香菜さんのためならがんばるしかないです……」


 弱ェ! 簡単に瀬川さんに丸め込まれてやがる!

 いやならもっと抵抗しろよ! この狂った作戦を止める人間は誰もいないのか!

 ……しかたがない、ここは俺の出番のようだ。


「ちょっとまった瀬川さん。ぽぽちゃんが俺のことを好きなんて振りができると思うか? 絶対ボロがでる。危険だ」


「ムム! サッスガーノの癖に失礼ですね! できますよそのくらい。確かにサッスガーノのことなんてこれっぽっちも好きじゃありませんが、香菜さんのためならば、どんなこともできるのが私です!」


 おい、せっかく助け船をだしてやったのに、お前が突っかかって来るのかよ。

 これだから香菜狂は!


「たんぽぽさん、気持ちはうれしいですけど、何でもというのはさすがに申し訳ないです。本当に嫌なら無理しないでいただきたいのですが……」


「うう……香菜さん、なんて優しい。でも大丈夫です。私も香菜さんの役にたちたいんです!」


 なんなんだよこいつ。

 さっきまで絶対嫌とか言ってたくせに、その発言のほんの数分後には、絶対にやってやるぜ!みたいになってるよ。


「さすがだねたんぽぽちゃん。それでこそ足跡部の一員だよ。よし、じゃあ具体的にたんぽぽちゃんの役目を説明するね」


◆◆◆


 そのとき与えられた役目をぽぽちゃんは今こうして果たしている。

 果たしてはいるのだが……下手くそすぎだよ……。


「たんぽぽちゃん、部室で私がさすがの君と話してたデートプランを覚えてるなんてさすがだね」


 く、苦しい、苦しいがナイスフォロー瀬川さん。

 これで開口一番に、この後の俺と瀬川さんの予定を的中させるという、違和感バリバリな発言にも一応説明はつく。……つくけどさあ。

 部室で、片思いしてる女の子を目の前にして、カップル同士がデートプランを話してるって、それどんな状況?


「むむむ……君達一体どんな関係なんだ?」


 まあ、そう思うよね。違和感しかないよね。

 どうするんだ? このままだと、全てがばれそうだぞ。

 そうなったら、どうなるかなあ……やっぱり、アディオス香菜ということになるのかなあ?


「おっと一正さんに夏芽さんに、たんぽぽさん。それにヒューゲルさんまでいるじゃないですか。偶然ですね」

 

 ここまで来てしまったら、もうどうにでもなれということなのだろうか。

 事態はさらにカオスになっていく。

 登場したのはさっきのフードを深く被った女の子にして我がメイドの香菜だった。


「わあ、香菜さん! いつもと全然違う服装だったので、気づきませんでした! こんにちは!」


 さっきまで感情を失っていたのとは一転、ぱあっと明るい顔になって香菜の登場に喜ぶぽぽちゃん。

 お前の失態のせいでこんなことになってるのに呑気なもんだな!

 ……なんて突っ込みができるほど悠長な時ではない。

 ついに香菜まで出張って来たぞ。足跡部、全員集合じゃねえか。


「こんにちは、たんぽぽさん。たまたま買い物をしてたら皆さんに出会うなんて。何やってるんですかー?」


 急展開についていけない俺を差し置いて、香菜と瀬川さんの即興アドリブが開始する。


「えっとね、一正くんとデートしてたら丁度たんぽぽちゃんと出会ったところだよ。そうだ、せっかく香菜ちゃんとも合流できたことだし、こうなったら足跡部みんなで映画見ようか?」


「わあ、映画ですか? いいですね! 足跡部四人全員でなんて素晴らしいです」


「お、香菜ちゃんさすがノリがいいねー! たんぽぽちゃんと、一正くんもそれでいい?」


「お、おう……」


 突然の展開に俺は生返事で応えるしかなかった。


「もちろんですー! 香菜さんと……イッセイサントエイガミレルナンテ、ウレシイデス」


 ぽぽちゃん、急に役を思い出してロボットに戻るのやめてくれ。

 もうお前は無理するな。


「さあ、そういうことなんでヒューゲルさん。ぼく達は失礼させてもらいます。さあ皆さん行きましょう」


 そう言い残すと香菜は、俺達を急かしてさっさとヒューゲルさんの前から退散させた。

 ……なるほどなあ。香菜が出てきたときはやけくそかなと思った。

 そうじゃなくて、いくら考えてもやばい状況だったから、盤面をひっくり返しに来たわけか。

 

「ナイス香菜ちゃん。さすがに私も終わったかと思ったよ。ナイスフォロー!」


「いえいえ、夏芽さんのアドリブのおかげですよ。しかも私達が同じ部活ってことをさりげなくヒューゲルさんに伝える辺りさすがです」


「これで、たんぽぽちゃんの違和感マックスの発言に、少しはフォローできてればいいんだけど……」


「ヒューゲルさんは察しのいい人ですので、きっと大丈夫ですよ!」


 はー、やっぱりこの二人スペック高えなー。

 あんな混乱状態でそこまで考えて行動してたなんてな。

 

「いやいや、何かよく分かりませんが、何とかなんてよかったです!」


「よかったですじゃねえよぽぽちゃん! ほとんどお前がへましまくったせいだろ!」


 そもそもなんで、ヒューゲルさんがいるタイミングで出てきたんだよこのポンコツ!


「ふん、サッスガーノもほとんど何もしてなかったじゃないですか」


「う……まあそうだけど……」


 確かに俺もぽぽちゃんが出てきたあたりから、あわあわしてるだけだった……。

 この審査はあくまでも、俺がどれだけしっかりできているかを見ている。

 これ以上へましてる場合じゃない。

 ……そんなことより、全員集合で映画見に行くのかあ……。

 いつの間にか終わっちゃった俺の人生初デート……。

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