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今夜は、大学時代のサークルの後輩である、幸太の家に泊めてもらうことになっていた。幸太のアパートと夏帆のアパートは方向が同じらしく、おれたちは途中まで一緒に帰ることになった。
至福の時だ。……竹内さえいなければ。
「さぁいとおさぁん」
「なに? 水飲む?」
「見てくださいよお、このシャツ! いっつもおれ、イヌコロでしか服買わないんですけどぉ、ちょっと、あのぉぉ、良いところで買ってえぇ。いいでしょ、このチェックのシャツ」
……全然会話になっていない。イヌコロってなんだ? 犬?
「イヌコロはイヌコロですよぉ、知らないんすかあ? あそっか、さいとうさんおしゃれだからイヌコロなんか行かないんすね。さすがっす!」
竹内を根岸さんたちのテーブルに送りこんだ結果、こんなことになって返ってきた。明日、朝から大事な実験があると言っていたような気がするが、この調子だと昼過ぎまで起きないだろう。
「夏帆ちゃん、通訳して」
「竹内さーん、いつもどこで服買ってるって?」
夏帆はすっかり面白がっている。
「だからイヌコロだって。ごめんなぁぁ、ださい先輩で。でも、ほらこれ」
竹内は、着ているチェックのシャツの胸元を引っ張った。
「これはちゃんとしたとこで買ったから!」
「どこで買ったんですか?」
「忘れた!」
きりっとした表情でこう言い放ったか思うと、またすぐにふにゃふにゃと力が抜けていった。
「多分、ユニクロって言ってます」
「イヌコロとしか聞こえなかった」
夏帆と顔を見合わせて苦笑した。
「おーい竹内、寝るな。ユニクロはユニクロでそんな悪くないと思うぞ。でも、いいじゃんそのチェックのシャツ。だから、もうちょっとしっかり立ってくれ」
肩を貸している竹内がずり落ちそうになったので、再度しっかりと支え直した。
「マジでこいつ、一ミリも自分で体重支える気がないわ」
「齋藤さん、頑張ってください!」
夏帆は両手で小さくガッツポーズをした。かわいい。
「こいつ家まで送る。そのあと、夏帆ちゃん家行っていい?」
「警察呼びます」
やっぱりかわいい