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最終章 最愛のあなたが、おれより先に死にますように 1

 一月末の日曜日。

 定番中の定番、水族館デートに繰り出していた。

「見て見て!」

 今日の夏帆はいつも以上にテンション高めだ。

「ハシキンメ」

と、思いっきり口角を下げる。水槽のアクリルガラスの向こうに口角の下がりっぷりが特徴的な魚が泳いでいた。

「サギフエ」

 間髪入れず、今度は目をまん丸に見開いて唇を思いっきり突き出す。

「表情筋が豊かだこと」

「似てるでしょ」

「めちゃくちゃ似てる。ハシキンメやばい。角度おんなじ」

「サギフエは?」

「もうちょっと口突き出さないと。あと三十センチくらい」

「修業しときます。齋藤さんもやってよ、ハシキンメ」

「よしきた」

 頬の筋肉がピクピクするくらい口角を下げる。

「ハシキンメ」

「全然だめですね」

「マジかよ、ほっぺた攣りそうなんだけど」

「普段からもっと表情豊かにした方がいいですよ。そんなだから写真の時も下手な作り笑いしかできないんですよ」

「たまに鏡の前で練習してんだけどなあ」

「練習より実践あるのみですよ。ほら笑え!」

 夏帆はおれの頬を左右に引っ張った。

 夏帆はこの後も立て続けにウミガメやマンボウやワニの物真似を繰り出し、スマホの画像フォルダが充実していった。しまいにクラゲの物真似まで始めたが、もはや似ているかどうかさっぱりわからなかった。おれはワニの物真似だけかろうじて合格点をもらった。


「ハァイ、元気?」

 夏帆が手を振っている相手は水槽を気持ちよさそうに泳いでいるアザラシだった。

「あ、すごい、こっち来た!」

 一頭のアザラシが水槽を周回するのを止め、夏帆の手を追いかけるように頭を動かしている。

「写真撮って!」

 どこかに行ってしまう前に、素早く夏帆とアザラシのツーショットを収めた。

「この子エリーだって。懐っこいね」

 夏帆が人差し指をくるくると回すと、エリーはその場でくるくると体を回転させた。

「わー! お手軽にアザラシ使いになれる。いい水族館ですね」

「おれもやってみよ」

と、水槽に近づいてみると、エリーはぷいっとどこかに泳いで行ってしまった。夏帆は大はしゃぎだ。

「齋藤さんってアザラシにも人気ないんですね。かわいそう。人間にも人気ないのに」

「夏帆から人気あるからいいもんね」

「とんだ勘違いですね。おめでたい人だこと」

 夏帆は「あ、ペンギンだー!」っとスキップしながら先に進んで行ってしまった。

「おい、こけるなよ」

 今日は雪混じりの雨だったので床が濡れていた。夏帆は手をヒラヒラさせて応じた。


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