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冒険家 〜語り部がつむぐ英雄ならざる英雄達の物語〜  作者: 製本業者


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ですぺら〜と☆くわく 聖杯探索のその横で (終)

三人は肩で息をしながら、その場にへたり込んだ。


「……やっと倒した」

ボガートが槍を地面に突き立て、背中を反らせながら言った。


「ほんと、もう二度とこんな厄介なのは御免だわ」

ニーアも槍を脇に置き、草の上にどさりと腰を下ろした。汗ばんだ額を腕で拭い、ため息を漏らす。


ホッブは大剣を脇に立てかけ、静かにあたりを見渡す。弾け散ったメタルスライムの残骸が、周囲に銀色の微粒子となって散らばっている。


「これで、村にはもう脅威はないな」

低く呟くホッブの声に、三人はそれぞれ小さく頷いた。


森の中は静寂に包まれていた。風の音が微かに葉を揺らし、どこかで鳥が囀る。ついさっきまでの激しい戦闘が嘘のような、穏やかな空気が漂っている。


「なんだか、肩透かしね」

ニーアが苦笑しながら、ポケットから水筒を取り出し、一口飲んだ。


「そうっすね。でも、終わったならそれでいいんじゃないですか」

ボガートも草の上に寝転び、片手で顔を覆いながら答える。


ホッブは口を閉ざしたまま、ただ静かに剣の刃先を布で拭いていた。


だが、そのとき――


森の静けさの中で、微かな音がした。水滴が地面に落ちるような、静かで控えめな音。


「……?」

ニーアが耳を澄ませ、周囲を見回す。


「どうした、姐さん」

ボガートが顔を覆った手をどけて尋ねるが、ニーアは答えず、銀色の粒子が散ったあたりをじっと見つめていた。


その粒子が、ほんの少しだけ動いているように見えたからだ。


「待って……これ、動いてる?」


それは確かに動いていた。

銀色の微粒子が、まるで意志を持つかのように地面を這い、徐々に一か所に集まっていく。まるで、見えない手に操られるように――。


「おい、冗談だろ」

ボガートが寝転んでいた体を跳ね起こし、言葉を失った。


集まった粒子は徐々に形を成していく。やがてそれは、小さな銀色の球体へと変わり――跳ねた。


「嘘でしょ……!」

ニーアが声を上げ、槍を急いで構える。


跳ねた球体――いや、再び姿を現した メタルスライム は、不気味な輝きを放ちながら三人をじっと見つめた。


「こいつ……まだ死んでなかったのかよ!」

ホッブが即座に大剣を掴むが、スライムは一切の隙を与えず、勢いよく飛び上がった。そして――


「伏せろ!」

ボガートの叫びと同時に、メタルスライムが三人に襲いかかった。




「村人たちが心配して森に向かったとき、洞窟の入り口から少し入った広場に、金属の粒が一面に散らばり、まるで静かに眠る銀色の絨毯のように見えたそうだ。

その真ん中には一本の槍が、そう村の宝だった槍が突き立てられていた。風に揺れる草の中で、それだけが堂々と立ち、どこか凛とした佇まいだった。

そして、その槍の前には果物が置かれていたんだ。まるで供物のようにね」


店主は少し遠くを見るような目で続けた。


「けれど、いくら探しても……三人の姿はどこにも見当たらなかった。村人たちは、彼らがあの森で何をしたのか、どこへ行ったのか、結局わからずじまいだったそうだ」


店の中にはしんとした静寂が広がった。誰も言葉を発しない中、店主は懐かしむような口調で語り続ける。


「後になって、あれは“勇者の影”と呼ばれた人たちだったんじゃないか、ちょうど勇者達が聖杯を巡る戦いを繰り広げてたタイミングだから、その補佐としてやってきたんじゃ無いか

ってね。

そんな話を訳知り顔の吟遊詩人が村に伝えたんだ。

そうしたら村人たちは、『私たちはあの影に守られたんだ』って。あの槍を村の守護の象徴として、大事に祀るようになった。今でも、村の中心にあの槍が飾られてるんだそうだよ」


店主は言葉を区切ると、ゆっくりと最後のエールを飲み干した。その音が、小さく響く。


「……そういう話だ」


語り終えた店主の顔には、一瞬の哀愁が漂っていた。だが、それは長く続かず、すぐに軽く笑みを浮かべて、空になったジョッキを机に置いた。店内に漂う余韻が、静かに心に染み込むようだった。


「さて、今日の話はこれでお終いだ。さあ、みんな、どんどん食ってくれ。豚に羊、まだまだ焼きたてだぞ!」


店主が声を張り上げると、客たちがさっきまでに空気と打って変わって、焼き上がった豚や羊を注文し始めた。さらに、空になったジョッキを掲げて酒のお代わりを頼む声も次々に上がる。店内は一気に賑やかな雰囲気に包まれた。


少女が笑顔を浮かべながら注文を運び、女将が丁寧な仕草で客席を回り始めると、店主は客室の奥に向かって穏やかな声を投げかけた。

「いかがでしたか、奥様?」

少し間を置いて、奥から落ち着いた声が返ってくる。

「ええ、大変素敵でしたわ」

店主はにこりと微笑み、軽く頭を下げた。その仕草にはどこか洗練された落ち着きがあり、粗野な印象は少しも見られない。

「それは何よりです。楽しんでいただけたのなら、こちらとしても光栄ですよ」

そのやり取りを聞きながら、ちょっとだけ起きた嫉妬心とともに女将がそっと視線を奥の客室に向ける。そこに座っているのは、優雅な金髪を結い上げた貴婦人だった。微笑みながら小さな杯を傾けるその姿には、どことなく華やかな気品が漂っている。

「ですが、やはり明日の余興と比べると……」

「あら、軽業とはまた違った面白さでしてよ。むしろ明日の余興がかすまないか心配なくらい。

でも、子供達が参加していないのは残念ですね」

心底残念そうに彼女は言った。

「まあ、流石によるのこの時間ともなると」

男爵夫人は、そうだ、と軽く手をたたく。

「だったら、明日はサーカスでお菓子を配りますわ」

「きっと子供達も喜びますわ」

いつの間にか、少女とともに近づいてきた女将が、そういいながら注文を聞く。

しかし、彼女がふと顔を上げた瞬間、何かが胸をざわつかせる――どこかで見たことがあるような、だが、はっきりと思い出せない面差し。

「あなたも、是非いらっしゃいね」

男爵夫人は少女にそう言うと、最後の甘味を注文する。

「はい、絶対」

そう、愛らしく答える少女に優しい笑みを浮かべながら呟いた。

「……こんなことで喜ぶんだから、子供って本当に単純ね」

「相変わらずですね、マムさんは」

そんな言葉が、厨房に向かう店主の方から聞こえてきた。



サーカスも素敵だが、月に一度の楽しみは別腹だ。前座扱いするには美味しすぎるってもんだ。次はどんな話だろう。宮廷の話も騎士の話も冒険の話も素敵だが、血湧き肉躍る戦争の話も久々に良いものだ。

何しろ、月に一度のお楽しみ。

そう、安息日前の満月ともなれば、小鬼どもすら騒ぎ出すのだから。


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