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冒険家 〜語り部がつむぐ英雄ならざる英雄達の物語〜  作者: 製本業者


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狩人の詩 (2)

 俗に大森林(樹海)とも呼ばれる森の奥は、一般人が『森の民(エルヴン)がすんでいる場所』として抱く場所(イメージ)に限りなく近い。

 そこは鬱蒼と茂る絡み合った樹木によって囲まれ、かといって木漏れ日のおかげで薄暗いと言うほどでも無い、落ち葉に覆われてこけ以外草もまばらな場所だった。つまり言い直せば、枝打ち等がなされずに樹木が生い茂ったせいで全体として薄暗く、そのため下草すら生えない場所。もっと露骨に言えば、荒れた密林。

 それが意味するところは、全く管理されていない(荒れ放題)状態以外の何でも無く、森の民とは全く相容れない場所であり、要するに弓を用いた狩りには向いていない場所と言える。

 ユウは、そんな場所で、それでも足跡を追いかける。

 どうやら、森の逆端から向かってきている様で、戻る方向にむしろ近い。まあ、しかしこれ自体はよくある話にすぎず、苦笑することすら必要も無い。

 初めて分け入った訳では無いが、起伏に富んだ地形なため何度も見失いかける。しかし、経験に基づく推測()からある程度歩幅を予測し、数歩先を当たりをつけた上で探し、見つけ出す。

 だがそれは、突然消えた。

 そう、全く予想された位置に見当たらない。

 意味することはいくつか考えられるが、その中で彼は躍りかかる(アタック)という言葉を真っ先に思いついた。いままでの、むしろ怠惰な(のっそりした)動きから一転、一気に引き絞られた弓が矢を放つがごとく、飛び出したとすれば、これまでの歩みから足跡を割り出そうとしても全く意味をなさない。

 だが、いきなり跳躍したのなら……何に対して。

 そんな不急不要な(詮無き)事を今考える必要は無いと断じ、彼は足跡確認のための範囲を広げる事にした。



 森の奥に向かって歩くうちに、明らかに周囲の風景が変わっていた。

 いままでの比較的歩きやすい獣道トレイルが無くなり、だんだん木々の枝葉を搔い潜って進むしかなくなってくる。踏み固められた足場と比べ、落ち葉の積もった場所は、落ち葉を踏むときの音以外はあまり立てずにすむという利点はさておく、実際脚絆付き長靴(サバトン)で進むには柔らかすぎて、なんとも歩きにくかった。

「やっぱり、この辺にはいないんじゃないのか」

 黄色の少年は、顔を打ち付けた柔らかな小枝を、さすがに切りつけるような馬鹿なまねこそしなかったが、それでも罵りながら手で払うと、前を行く少年に声をかけた。

「……ん。そうかも……」

 陣羽織(サーコート)にまとわりつくシダを払い落としながら青い方の少年がそういいかけた瞬間であった。

 突然、何物かが躍りかかってきた。

 黄色の少年は、反応する事も出来ずにその物体の質量ではじかれ、どさっと倒れてしまう。

 それは、大型の肉食動物であった。少年は、褐金色ブロンドのそれを目の端にそれをとらえる。ぱっと見、それは南方にいる虎のようである。悪魔の牙は虎だったのか、少年はどこか放心したままそう感じた。確かに虎は珍しいが、南方からごくまれに迷い現れ、そして人々に恐怖をまき散らしてく存在だ。珍しくはあるが、同時に納得も行く、恐るべき存在。そのため、襲われた場所の傷跡形状が異なると言うことに全くおもいが回らなかった。

 獣は、黄色い方が倒れるのを確認する事もなく強靭な前足、躍りかかった相手である青い衣の男を押し倒すと、今度は、がっと、口を大きく開けた。

 そこには、長大な二本の牙があった。

 その瞬間、彼は悟った。

 これが『悪魔の牙』の正体。

−−伝説の猛 獣、 剣歯虎サーベルタイガー −−

 黄色い衣の少年は、地べたに腰を落とし、なんとか抜放った剣を突き出し闇雲に振るうのが精一杯。仲間の方に近づくどころか立ち上がることすら出来ずにいた。むしろ、剣を抜放ったことすら奇跡と思えるほどの狼狽えぶりだった。

 剣歯虎は、そんなおびえる男を無視して、強力な前足で押さえつけた男に牙を振り下ろした。


 彼の使う狩猟用竪弓は、戦争用竪引長弓(ロングボウ)ほど射程を求めていないためさほど長くは無いが、それでもやはり森で使用するには石弩クロスボウよりも不向きだ。だが、彼はあえて竪弓にこだわった。一般(周囲)に思われているのとは逆に、彼は一発必中を求めていない。いくら動きを予測しても所詮は神様の思し召し。むしろ、外した後どうするか、それこそが大切だと考えていたが故。

 だが、そうはいっても、やはりこのような場所(森の奥)ともなると扱いの楽な石弩に心引かれてしまう。

「ぎゃぁぁぁぁ。」

 ユウは、少し離れたところから響く絶叫に反応し顔を上げる。

 明らかに、人間の声。『悪魔の牙』の犠牲者が発した絶望の声だと結論づける。

 そう判断するとユウは、弓に矢を番えると、絶叫の聞こえたのとは一見まるで違う(明後日の)方向へ駆け出した。

 逃げているのではない。

 森の中では、それもこのような管理されていない『森の奥』では、聞こえてくる音から実際に音のした方向を特定するのはそれなりに熟練が必要だ。森が音を響かせ、同時に曲げ、そして消し去ってしまう。遠くの音の場合、それこそ真逆の方向から聞こえてくる場合すらあるのだ。しかし、ユウは一瞬にして実際の音源を突き止め、其方へと駆け出した。


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