13 革命シャトラ
「またバロスが駆馬と一緒にいる。……バロス、ゴキブリみたいに何処にでもいる男」
「誰がゴキブリだぁっ」
相変わらず仲の悪い二人である。
それよりスピドールが気になるな。昨日はすぐに帰ったはずだが。
「硝石丘の話を聞いたのでね。それと……駆馬君は議員に興味がないとも聞いた」
ふむ。硝石丘の作成と派遣議員制度の改正案、モケモケに授けた二つの法案はスピドールへの印象も良かったようだな。我が議員になる気がないことと合わせて少しは印象が良くなったか。
「議長も一度指してみますか?」
せっかくなので誘ってみる。
「ああ。ルールは概ね把握した。昨日のリベンジマッチといかせてもらおう」
持ち駒に関してはスピドールは素人、今回は我の方に分がある。
そして対戦の結果だが。
「……二勝二敗。やっぱり二人共強い。シャトラ二日目の駆馬は相変わらずだけど、市民スピドールももう持ち駒ルールに対応してる」
さすがはシャトラのグランドマスター。持ち駒ルールへの適応も早い。
「この新しいルール、実に楽しませてくれる。ゲームの流れは大きく変わるのにその本質はあくまで一貫している。閉ざされていたシャトラの世界に新たな新風が舞い込んだようだ」
持ち駒ルールは好評そうで良かった。シャトラのグランドマスターであるスピドールが気に入ってくれれば新ルールの普及効果も大きい。
「だがこれはもはやシャトラではない。シャトラを越えたと言えるのではないか。新しい名前をつけるべきだ。駆馬君さえよければだが、私に名付けさせてはくれまいか?」
「もちろんいいとも」
嬉しい申し出である。これは新ルールにグランドマスターからお墨付きをもらうようなものだからな。
「革命シャトラでどうだろう。実にいい名前と思わないか。駆馬君の考えたルールはもはやシャトラの革命。君は革命の進むこのフリパラでシャトラにも革命をもたらしたのだ。是非この名前で新しいゲームの革命を広く世の中に広めてほしい」
革命シャトラ……正直ちょっとダサい。
というかフリパラでは色んなものに革命ってつけるのが流行っている。まあ日本でもなんたら革命とか良く聞いたが。
これはイメージ戦略も兼ねてるな。新しくいいものにとにかく革命と名付けることで革命が素晴らしいことだというイメージを作りたいのだ。ようは革命政府のプロパガンダである。
もちろん協力するのにやぶさかではない。名前は革命シャトラで良いだろう。
それに新ルールは考えるより普及させる方が大変だからな。その後ろ盾としてグランドマスターが名付け親というのは大きい。こちらも存分にスピドールのネームバリューを利用させてもらうとしよう。
「……ところで五戦目はやらないの?」
モケモケが尋ねてくる。
昨日は五戦やって全て引き分け。今日は四戦やって二勝二敗だ。だが革命シャトラに引き分けはほぼない。次の五戦目で我とスピドールの決着もつくが……。
「いや、今日はやめておくよ」
スピドールが辞退した。
「駆馬君との決着はいつかの日にとっておこう。今日は君に謝りに来ただけだからね。駆馬君、昨日は無礼な態度をとってしまいすまなかった。君を議員にするのは反対といったが、議員にならないのであれば君は実に優秀だ。この国に素晴らしい変化をもたらしてくれるだろう。あのアギルスからの亡命者でも君は素晴らしい逸材だ。わたしは君を歓迎するよ」
「ありがたいお言葉です」
そうしてスピドールは帰っていった。
革命シャトラにお墨付きを貰えたのも嬉しいが、スピドール議長との関係を早期に修復出来たのも良かったな。
一番効いたのは派遣議員制度の改正案か。モケモケに昨日話した案がもう議会に上がったようだし。元々のスピドールの案に近かったのも彼の印象を良くしたのだろう。
全て計画通りである。
これがCNF紙幣の話だと恐らく議長の反発を招いたからな。こっちは我の名はふせた上でバロス主導でやってもらおう。
その後はしばらく話をしてモケモケとも別れた。
モケモケの方が先客だったので悪い気はするが、今日はバロスと一緒にトランプ工場にもよるからな。
モケモケ、フィリシェのところには付いてきたがバロスのところにはいきたくないらしい。
バロスとは政党も一緒だろうに。モケモケは政党の違うフィリシェよりもバロスの方が嫌いなようだ。
「……だってバロス下品だし」
否定はせんがな。
そうして我はモケモケと別れ、バロスの知り合いがやっているというトランプ工場を見せてもらう。
印刷の様子を見せてもらった後シャトラカードの話をしたが、評判は概ね好評だった。相手側の関心ごとは主に税に対してだったが。
「いえね、トランプには税がつくんでさぁ。人を堕落させるとか言われてね。でもシャトラには税がつかねぇ。これは不公平だってあたしゃずっと思ってたんですよ。そこでこの革命シャトラだ。こいつはトランプなのかシャトラなのか。もちろん答えは後者でしょう。スピドール議長自ら革命シャトラなんて名付けたんだ。これに税をかけたらシャトラにも税をかけなきゃおかしくなる」
トランプ税、日本でも消費税導入時まであった税法だ。トランプの他に麻雀や花札などギャンブル性の高いものに税金がかかっていた。
ただしゲームに運の要素が絡まない将棋は除外、その基準でいっても将棋系ゲームの革命シャトラに税金はかからないだろう。
革命シャトラは製造の方もシャトラと同じか安値で製造できるとのこと。
革命シャトラのカード駒はいざとなったら元のシャトラの駒としても使える。食いっぱぐれもないだろう。
もちろん初めは少量生産からだが。革命シャトラは順調に普及しそうだな。
そうして工場を出たところでバロスが話しかけてくる。
「でもよ駆馬。本当に特許取らねえのか? いやゲームの特許なんて聞いたことねえから取れるかどうかも怪しいけどよ」
日本だとゲームで特許を取るのは難しい。ゲームのルール、遊び方自体では特許が取れないとなってるからな。ただしボードゲームで専用のボードなどを開発した場合、そのボードについては特許を取れる場合がある。
革命シャトラで言えばカード状の駒で特許を取るのは可能かも知れない。
だが我はあえて特許を取らないことに決めた。なにせ名付け親がスピドールだからな。これで我が金を稼げばせっかくの印象が悪くなる。
そもそもミニエー銃の製造と比べれば大したことない事業なのだ。革命シャトラでまで金を稼ぐ必要はない。
「革命シャトラについてはスピドールからの好印象が報酬でよいだろう。バロスに頼みたいことも本命はこっちではないわけだしな」
我の言葉にバロスの目が鋭くなる。
「ああ、あんたの用意した新素材による紙幣の製造。こっちの方が遥かに金になるわな。でもよ駆馬、新素材は紙幣にしか使ねえって言うけどよ、紙幣だけでも量はすげえぜ。全部印刷できんのか?」
「さすがに全部は難しいな。高額紙幣だけになるだろう。お前の知り合いに製紙工場をやってる者もいることだしな。低額紙幣にまでは手を出さんよ」
「おう、アギルスの連中が偽造してたのも高額紙幣がほとんどだからな。それなら製紙業界への影響もそんなに出ねえ。へたすりゃ革命シャトラとどっこいだ。革命がつかねぇ方のシャトラの駒作ってた連中が一番割を食うかも知れねえな」
新技術を世に出す以上、割を食う人間が出るのは必然である。ミニエー銃の製造でも球形弾の製造業者が割を食う。失業者は必ず出るだろう。
失業者を吸収する事業も考える必要があるかも知れぬな。
硝石丘の方は輸入硝石の代替なので失業者を吸収する効果があるが。こっちは逆に人手を集めるのが大変そうだ。うんこの回収業者だからな。
まあ失業者は我が来る前からフリパラに多数あふれている。楽な仕事とは言えないが、うんこの回収は彼らにやってもらうことになるだろう。




