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12 バロスと一緒

 首都に来て三日目、我は葉月を連れてバロスの家を訪ねた。バロスは朝食を十人分用意しているとのことなので問題はないだろう。


 バロスの家に着くとさっそく中へと通される。ダイニングには長いテーブルがおいてあり上にごちそうが並んでいた。中にいるのはバロスを含めて四名。バロスと後一人は議員のようだが資産家も混じっているように見えるな。


 そうして我らが中に入るとすぐにバロスが話しかけてきた。


「おう、駆馬じゃねぇか。よく来たな。よし、まずは座ってとにかく食え。隣のべっぴんな姉ちゃんもな。でも名刺渡した次の日にさっそく来てくれるとは嬉しいねえ」


「シャトラの新駒の見本が出来たからな」


「マジかよ、仕事が早ぇな。見せてもらってもいいか?」


「もちろんだ」


 我はカード状のシャトラ駒をバロスに渡す。残り三人の男達も興味深げにそれを見ていた。


「これはまた随分綺麗な紙だな」


「手触りもいいし強度もありそうだ」


「っていうかこれ弾力すげぇぜ。紙なのに折れねぇ、しわにならねぇ。いやこれホントに紙か?」


「初めてみる素材だ」


 皆一様に驚いていた。ちなみにカードは透明にはしていない。普通のトランプと同じものだ。CNFなら透明シートの上に絵の部分だけ色を塗ることも可能だがシャトラの駒には適さぬからな。


「すげぇ、新しいシャトラの駒持ってきたと思ったら素材の方がとんでもねぇ。でも困るぜ駆馬さんよぉ。俺の知り合いにゃ製紙工場やってる奴もいるんだぜぇ。まさかカードの製造も全部自分でやる気じゃねぇよな?」


「もちろんこれはあくまで見本だ。このカードを大量生産するつもりはない。警戒させて悪かったな。だがこのカードの素材も見せたくてな。カードとして大量生産するつもりはないが、他の用途にこの素材を使うことを提案したい」


「他の用途ってなんだよ一体」


「紙幣だ」


 我が紙幣と発言したところで全員の動きが一瞬止まる。その後各々に考えるそぶりを見せていた。


「……偽造を防ぐ紙幣か」


「もしかしてこの紙防水性も高かったりするのか? 運搬性も上がるか」


「いや、やはり偽造防止が一番だろう。こんな素材は見たこともない。いくら技術力の高いアギルスでもこの紙幣なら偽札は作れないだろう」


「駆馬……てめぇすげえもん持ってきやがったな」


「ふふ、どうだ? 今のところこの素材を紙幣以外に使うつもりはない。製造法も当然秘匿、製造も全てこちらで行なわせてもらう。偽造を防ぐだけでインフレを抑えられるとは言わないが、この国には必要な技術だろう」


 我の言葉に四人の男達は互いに顔を見合わせる。しばらくしてバロスが話し始めた。


「この紙はすげえし偽造出来ねえ紙幣も確かに必要だ。でもこれは経済の根幹に関わる話だぜ。すぐに返事は出せねえぞ。つうかスピドールの許可がいる。議会にかけなきゃならねぇし議長は避けて通れねえぞ」


「ふむ。この話はモケモケを通した方が早かったか」


 シャトラカードのついでにバロスに提案してみたが、紙幣の話ならモケモケを通した方が早かったかも知れぬ。


「いやいや、俺様に持ってきて正解だぜぇ。今紙幣刷ってんのも俺様の知り合いだからよ。こっちの方は俺から説得できる。スピドールだってモケモケ通しゃ動かせるってわけでもねえからよ。議会で多数をとりゃいいんだ。この話は俺様で正解だぜぇ」


 必死にバロスが力説してくる。


 我としてもバロスで済むならその方がいい。議会への窓口がモケモケ一人に偏るのも問題だからな。


「俺様には銀行家の知り合いだっているしよぉ。金の話なら俺様だぜぇ」


 意地汚さ全開であるが。だが我も金の話ならこいつと思っていた。議会工作もやってくれるということなのでCNF紙幣の件はバロスに頼むことにする。


「さてと、ではついでにシャトラ新ルールの方も試してみるか?」


「ああ、それならオルフーレ公の城ん中にあるカフェでだな。今日は議会によるから午後からになるが先に行って待っててくれや」


「うむ、そうさせてもらうとしよう」


 今日はモケモケとも午後から合流予定だ。その待ち合わせも件のカフェである。ダブルブッキングになるがまあよいだろう。モケモケはまた嫌な顔をするだろうが。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 フィリシェの城内にある店を回って物色しつつ時間を潰す。今日はフィリシェも議会だな。葉月は議会が終わった後フィリシェのサロンに行く予定なのでモケモケ達との合流前に離れることとなる。


「先方を待たせるわけにはまいりませんので、わたくしは先に行ってまいります」


「うむ」


 サロンの主催者はフィリシェだが他のメンバーが先に話を始めているのが普通だ。そのため葉月もフィリシェが議会から帰る前に城の本館へと向かう。


 そうして葉月と別れてしばらく、バロスがカフェへとやってきた。


「すまねぇ、待たせちまったな。へへっ、俺様も一応議員だからよ、たまには議会に顔を出さなきゃなんねぇ」


 いや毎日行けよ。議員だろ。あまりの言い草に心で思わずつっこんでしまう。


 だが議員が毎日議会に行くかと言うとそうでもないからな。重要な法案が審議される時だけ出る者も多い。


 モケモケ、フィリシェ、バロス共に議会に出ていた今日はそれに当たるというわけだ。


「だがちくしょう。派遣議員の権限を制限たぁやってくれるぜ議長もよぉ。しかもモケモケの野郎が余計な仕事までつけやがった。農業指導だぁ? んな金にもならねぇことやってられっかよぉ。くそがっ、派遣議員は結構うまい商売だったのによぉ」


 すまんなバロス。それ多分半分は我の提案だ。


 あと派遣議員は商売じゃないからな。派遣先でどんなあくどい事やってたか知らないが少しは自重しろ。


 だがバロスはすぐに機嫌を直す。


「へへっ、でも内乱もだいぶ平定出来たし十分稼がせてもらったからな。しばらく派遣議員にゃ興味ねぇや。今はこの首都の方にこそチャンスが転がってるんだからなぁ」


「そうだな。しばらくは首都にいろ。少なくともシャトラのカード駒の製造とCNF紙幣の法案が軌道に乗るまではな」


「おうよ。じゃあさっそく新しいルールのシャトラってのをプレイさせてもらおうか。へへっ、駆馬にゃ昨日負けちまったが俺様だってシャトラは強えからよぉ」


 持ち駒ありのシャトラをプレイする。バロスは持ち駒ルールが初めてのため説明しながらプレイを進めた。


「マジかよ。取った駒どこにでもおけるルールなのか。駒の再利用云々よりへたすりゃこっちの方がやべぇ。シャトラは終盤単純になるゲームだったはずなのにこれじゃ全く逆転だぜぇ」


「ふふっ、これが持ち駒ルールの真髄だ。駒切れによる引き分けがなくなるから引き分けの確率も一気に減るし、どこにでも駒をおける攻撃力で相手のキングもはるかに詰めやすくなる。っと、チェックメイトだ」


「ぐひゃ。こりゃかなわねぇな。どこに持ち駒打たれるか分かんねぇから一瞬も気が抜けねぇぜ。でもよ……へへっ、こりゃすげぇ面白いぜ。ビショップを同じ筋に打てちまうしナイトもピンポイントで使えるしよ。駒同士の連携が遥かにやりやすくなってやがる」


 バロスは新ルールのシャトラを気に入ったようだ。ちなみに我はシャトラに持ち駒ルールを追加したが、このシャトラは地球のチェスよりも持ち駒ルールへの親和性が高かった。


 チェスより単純なのが効いているな。


 気付くと我とバロスの周りには人だかりが出来ていた。そしてその中には。


「これが駆馬君の言っていた新ルールのシャトラか。こうして実物を見てみると……くやしいが実に面白そうだ」


 スピドール議長その人もいた。


 ちなみに隣にはモケモケがいて、我がまたバロスと一緒にいるのをとても嫌そうな顔で見ていた。


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