10 フリパラの食糧問題
硝石丘の作成によって一番の懸案だったうんこ問題はひとまず解決出来るだろう。
だがこの国はうんこ問題以上に深刻な問題を多数抱えている。
対外戦争、王党派による内乱、右派と左派による革命政府内の内ゲバ抗争。これらがその最たるものだが、市民にとってはそれ以上に深刻な問題が存在する。
「食料問題。これに対しても施策を講じねばな」
我の言葉にモケモケの表情も鋭くなる。
食糧問題、これはどの国どの時代においてももっとも大きな問題である。
もちろんこのフリパラも例外ではなく、この国の革命そものもがこの食糧問題に端を発して起きたとさえ言える。
この国はパンに飢えているのだ。
「食料問題は革命初期から最も大きな懸案事項。これは革命によって貴族を粛清した今も解決してない。……というかぶっちゃけ悪化している」
食糧問題と関連して、この国はもう一つ問題を抱えていた。それはインフレ、つまり通貨の下落である。
このフリパラ国の革命は主に二つの問題に端を発して勃発した。一つは食料不足であり、もう一つは国の借金だ。
市民にとっては前者の方が問題だが、革命の直接的な契機は後者にある。国自体が借金で首が回らなくなり、その解決のために王が議会を招集したのが発端となった。
その後の経緯は省略するが、要するにこの国は借金大国なのである。その借金返済策の一つとして、革命政府は教会の持つ莫大な資産の売却に踏み切った。
そして教会資産の買い取り証明として紙の証明書が発行された。これが現在紙幣として出回っている。
そして一番の問題は、その紙幣の価値がすごい勢いで下落し続けていることだ。
これは当然の帰結であった。紙幣の価値を担保する教会資産は増えないのに政府は紙幣を刷り続けたのだ。これでは価値が落ちない方がおかしい。
だが財政に窮する政府はこれをやめることが出来ずにいて、問題解決の糸口は見えていない。
そして困るのが市民である。
首都の経済はこの政府の紙幣で回っていた。その価値がどんどん下がるのだ。つまり物価は上昇する。
市民の給料も少しは上昇しているがそれ以上に物価が上昇している。市民はパン一つ買うのにさえ苦労しているのだ。
「いちおう今はある程度落ち着いている。議会が価格統制を行ったから。パンの最高価格を徹底してるから庶民はちゃんとパンを買える」
上がり続けるパン価格に対してスピドール達の出した解決策がこれだ。いちおう効果は出ているらしい。だが問題も起きていた。
「パンを高値で売れなくしたら、今度はパンを売り惜しみする連中が現れた。悪はどこからでも現れる。こういう悪徳商人は反革命分子として処分してるけど問題はなかなか解決しない」
なんでも殺せば解決すると思うなよ。
まあ要するにフリパラは地獄のようになっていた。
だが食料不足の原因は実は他にもあるのだよな。
「ここ数年冷害が続いてるから。あと食料をフリパラから盗む国もあるし」
この世界は一昨年から冷害に見舞われていた。これも革命の一つの原因である。
だが貴族を殺しても冷害が収まるわけはない。この冷害による小麦の不作は未だこの国を苦しめていた。
そしてこの国を苦しめるものがもう一つある。
それがアギルス連合王国。
冷害は周囲の国にとっても問題だったが、アギルス国の食糧難が実は一番ひどかった。これは麦の不作に加えじゃがいもの病気が原因だ。
「アギルスは不幸が重なってる。向こうは冷害による被害よりじゃがいも飢饉による影響が大きい。アギルスの女王はじゃがいもを普及させて人口を倍増させたけど、そのじゃがいもが牙をむいた。彼女は今、生まれて初めての危機に直面している」
他国がみんな元気なわけではないのだ。どの国もそれぞれ問題は抱えている。だが。
「このじゃがいも飢饉に対する女王の施策がゲスだった。アギルスはフリパラに食料を盗みにやってきている。フリパラ国内の王党派と結託してアギルスに食料を大量輸出。フリパラも飢餓が進行中なのに。アギルスもゲスだけど王党派も最低。あいつらは議会を弱らせるためにフリパラ自体を危機にさらしている」
ちなみに輸出代金としてアギルスは偽札を撒いてるそうだ。これはフリパラのインフレをさらに深刻にする効果もある。
フリパラ国を包囲する反革命同盟の中、アギルスは大規模な軍事行動は起こしていない。だが被害に置いてはこいつらが一番やばい。
フリパラに偽札攻撃をしかけつつ食料を奪い去っているのだ。アギルス国内の飢餓問題を解決しつつ敵対国を弱らせる。まさに一石二鳥の策略だった。
「でもこの問題はもうすぐ解決する。国内の王党派はだいぶ駆逐出来てるから。……フィリシェは本当に強かった。国内各所を走り回って主な王党派は今回の遠征で全て潰し終えたから」
フィリシェ・オルフーレ。何気にこの国の英雄じゃないかな。さすがは右派の筆頭である。あれだけ偉そうなのもうなずける。
だがまあ、今回の主題はここではないな。あくまで食糧問題だ。
「冷害も少しずつ収まってはきてるから、来年には食糧問題も解決するかも知れない。でも駆馬には秘策があるんだよね?」
「いや、秘策というほどではないな。そもそも食糧問題は一朝一夕では解決出来ぬだろう」
本当は秘策もあるのだがな。だがそれはまだ出すつもりはない。
「まずはフリパラの現状を知りたい。アギルスでは四輪作法とじゃがいもの生産が普及していると聞いたがフリパラの方はどうなってる?」
「当然フリパラにも四輪作の情報は入ってきてる。フリパラでも北部の一部では四輪作が行われてる。でも三圃制の地域が多いし南部ではまだ二圃式が行われてる地域もある」
こういう問題が現実にはある。
技術は勝手に広まる物ではないのだ。技術を持つ者が秘匿することもあれば、技術を持たない側が学べないこともある。
フリパラの農業については後者だな。
フリパラ北部は貴族やブルジョワが土地を所有していた。彼等は横のつながりも大きく新農法の技術も得られる。
逆に南部は農民自身が土地を持っていた。農民自体が大規模農業を経営する富農と小作人とに別れているわけだな。
だが残念なことに、大規模農業を経営する富農も農民に過ぎなかったのだ。
彼等には貴族やブルジョワとの横のつながりも存在せず、何より識字率が低かった。そのためアギルスの新農法はおろか、フリパラ北部の三圃性さえ導入出来ていない地域があるのだ。
「まずはこれらの不均衡を解決するのが先だろう。丁度この国にはそれに使える制度がある。中央の議員をフリパラ全土に送り込む派遣議員制度。これを有効活用すれば良い。国内の王党派もちょうど駆逐出来てるようだしな。この機会に派遣議員の制度を作り変えるべきだ」
フリパラ議会は全国に広がる内乱を鎮圧するために各地に議員を送っていた。これは一定の効果を上げており、フィリシェのように英雄的な活躍を見せる者もいる。
だが一方で指揮系統の混乱など様々な問題を起こしていた。
反乱を鎮圧する部隊には元々将軍がいるのだが、派遣議員の方が偉かったのである。そのため馬鹿な議員がついたために戦局が混乱することも良くあった。
この機会にその問題点も解消する。
国内の内乱も収まりつつある状況なのだ。派遣議員の権限には一定の制限を加える必要があるだろう。
そして今後は技術の拡散を任せるのだ。内乱平定後の行政の一環として、農業技術の伝播も担わせることにする。
「分かった。派遣議員の権限に制限を加える案は議長も既に考えてた。制度改革は近く行われる予定。議員の仕事に技術指導を加える案もわたしから議会に提案してみる」
一つ付け加えるとすれば、派遣議員の技術指導には生産を監視する意味もある。価格統制の弊害である売り惜しみへの対策だな。技術指導と共に生産量もチェックするのである。
指導の効果を確認するためにもチェックは必須だが、これで国内農産物の生産量を把握できる。それを元に各段階で流通量をチェックしていけば売り惜しみもある程度は防げるだろう。
派遣議員制度の改正案にはもちろんこのことも明記する。
この施策がうまく機能すれば、冷害の終焉や内乱の平定と合わせて食糧問題は少しずつ改善されていくだろう。




