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09 硝石丘

「モケモケちゃんと二人でニコちゃん綺麗にしてきましたー」


「めっちゃもみくちゃにされたぞー」


「……新しい体験」


 三人とも仲が良いようで何よりである。


「うむ、では体も綺麗になったところでモケモケには口述筆記でもしてもらうか」


 まずはミニエー銃の特許申請の書類を書く。モケモケに書式を教えてもらいつつ書類を書いてもらうのだ。


 我が口頭で述べた言葉をモケモケに文字にしてもらい、その様子をそばでコネクトームに見せる。


 書類を書きつつ文字も覚えられて一石二鳥の作戦である。


「つける絵はどんな感じだ」


「……結構みんな書き込んでる。正式な書類だから駆馬も書き込んだ方がいい」


 特許の申請書類には図面をつける必要があった。ミニエー銃の説明をするにも図面はあった方が便利だしな。


 そこでコネクトームに設計図を書かせるが、これでは味気ないとモケモケに言われた。現代の感覚で言えば特許の図面に味気ないも何もないわけだが。だが郷に入れば郷に従えというものだ。


 コネクトームが書いた設計図を元に我がそれを絵画に仕上げる。陰影、遠近法、質感など、芸術的工夫を凝らした特許図面を作成した。


「駆馬は絵の才能もあるんだ……素敵」


「ご主人様の絵はいつ見ても素晴らしいです」


「なんで特許の書類にこんな絵つける必要があるんだー」


「ここまで書き込む意味がさっぱり理解できません」


 はっきり言えば意味はない。だが地球でも昔の特許図面はこうだった。これはこれで中々味があるものなのだ。


 ともかくこれでミニエー銃の申請書類は完成である。



 次に本題へと移る。我としては一番の懸念であるこの国のうんこ問題だ。


「フリパラの街を綺麗にする。が、まずは問題を整理しなくてはな」


「うん。まず勘違いしてはいけないのが、フリパラにもちゃんとうんちに関する法律はある。フリパラ法令第五条『全ての者において昼夜にかかわらず家の窓からの糞尿の投げ捨てを禁止する』実はうんちを窓から投げ捨てるのは違法。でも誰も守らない」


 そう、フリパラに住む人々も、うんこを投げ捨てるのは問題だと思っていたのだ。このうんこに関する法案は、なんと二百年にも渡って歴代の王が何度も出していたらしい。だが一向に解決しなかった。


 フリパラには五階建ての建物なども多い。その五階からおまるを持って上り下りするのも大変だろう。だから犯罪と知りつつも窓からうんこをポイ捨てしてしまうのだ。


 これを抜本的に解決するには下水道を整備するしかない。


 その上で各自の家に水洗トイレを設置する必要があるだろう。おまるを持って上り下りする手間さえなければ、誰もうんちを窓から投げ捨てたりなどしないのだ。


 だがこの施策を実施するにはあまりにも莫大な費用がかかる。


「都市そのものの大改造が必要になる。……革命中のフリパラにはとても出来ることじゃない」


 モケモケの言う通りであった。


 この案は一旦保留である。次善策を考えねばな。



 ところでこの世界は十八~十九世紀レベルの文化があるが、地球ではその当時非常に優れた公衆衛生を達成していた国がある。


 それは日本の首都、江戸だ。


 江戸は糞尿を肥料へと活用することによりリサイクルのシステムを確立させ公衆衛生を達成するのに成功していた。


 これは十八世紀当時の日本で実際に成し得ていたことである。


 ならこの国にも応用できるかと言えば話はそう簡単ではない。うんこの発酵にも技術がいる。それにこれは食べ物の問題だ。


 野菜にうんこを撒くのである。加熱調理するからといってうんこをかけた作物をこの国の人間が食べたいと思うかということだ。さらに言えば、うんこを肥料に使う以上寄生虫も発生する。


 糞尿の肥料利用を実現するには、高い技術とそれを許容する文化が必要なのだ。


 一応モケモケにも聞いてみたが駄目だった。


「……野菜にうんちかけるなんて信じられない。駆馬は食べられるのかも知れないけど、わたしはうんちは食べられない」


 誰もうんちを食べろと言ってるわけではないのだが。


 しかしこの国の人間にとってうんちで野菜を育てるというのはうんちを食べるのと同義なのだ。この意識を変えるのは難しい。


 ならもう手はないかと言うとそうではない。


 うんこには他にも使い道があるのである。それも常時戦闘状態のこのフリパラにこそうってつけの方法が。


「硝石丘を作成する」


「……硝石丘?」


「そう。硝石の丘だ。我はうんこを硝石に変える。うんこから火薬を生み出すのだ」


 さて、この世界では現在銃砲が大活躍している。それには大量の火薬が必要だがその原料となる硝石はどうやって調達されているのか?


 フリパラでは輸入もしているが現地でも硝石は生産されている。それは古土法と呼ばれる方法だ。この国には硝石採取人と呼ばれる職業があり、あらゆる家に立ち入って床下や穴蔵の土を採取する特権が与えられている。


「確かに硝石は家畜小屋とかからよく取れる。硝石採取人からの報告でもうんちと硝石の関連性は指摘されてた。……でも古土法自体あまり効率のいい方法じゃない。外国では鉱物として硝石を採取できる地域がある。質もそっちの方が高い」


 確かに古土法は効率の良い方法ではない。地球でもチリで大規模な鉱床が発見されてからはチリ硝石が火薬の重要な原料となっていた。


 だがそんな鉱床はフリパラにはない。海上輸入も行っているが、その輸入も減少傾向だ。


「……これは全てアギルスが悪い。あの国はフリパラに海上封鎖をしかけてる。北西の港は全て使えない。南側はまだ使えるけど、こっちは海の先の植民地がオルコストン帝国と戦闘中。本国に硝石を送る余裕がない」


 そう、フリパラは硝石不足に陥っているのだ。この状況も地球ではナポレオン戦争時に実際フランスが経験している。


 その危機的状況で開発されたのが硝石丘なのである。開発から採取までに五年余りの期間を要するが、硝石丘からは土の二~三%の硝石を得られる。


 そして何よりである。そんな年月を待たずともすぐに効果が出ることがある。それが原料となるうんちの回収だ。


「硝石丘はフリパラの火薬不足を解消する切り札となり得る。だがこれはあくまで福次効果。一番はうんこ問題の解決である。硝石丘は土に草と糞尿を混ぜて作るのだ。この原料として首都中の民家から糞尿を全て集め尽くす」


「……すごい。二百年の懸案だったうんち問題と一緒に火薬不足も解消される。……駆馬の発想は本当に革新的」


「ああ。だが実現には議会の協力がいる。元より硝石の採取までに数年かかる事業なのだ。この方法の利点は当然論文に書くが、議会の協力なくして実現は不可能」


「大丈夫。わたしが全力で議員達を説得する。火薬ももちろん大事だけど、街からうんちを一掃すればそれも市民からの支持に繋がる。みんなも好きでうんちの上を歩いてるわけじゃないから」


 モケモケがやる気に満ちた顔をしていた。


 これは議会においてモケモケの影響力を上げる効果もあるだろう。それも大事なことである。スピドール派の内部においてモケモケの力が強くなるのはモケモケとつながりのある我にとってもメリットだからな。



 これで議会に対する我の影響力も派閥に偏らずにバランス良く増大させられるわけである。


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