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07 椎の実弾

「なかなか面白い見世物でしたわ」


 モケモケの思惑が狂っているところへ新たな来客が現れる。右派のフィリシェだ。


「あのスピドールにシャトラで引き分けに持ち込むなんて驚きでしたわ。白鳥 駆馬。あなたなんでも出来ますのね。でもスピドールに嫌われてしまったのはあなたにも想定外ではなくて? これでモケモケちゃん経由で議員になる道は消えましたわよ」


 フィリシェが嬉しそうな顔をしてるな。まあ何を考えてるかはすぐ分かるが。


「ふふふ、お困りでしたらこのわたくしが力になってあげてもいいですのよ。わたくしは議長ではないですけど大きな派閥を持っていますわ。わたくしは駆馬さんのこと気に入ってますし、スピドールの下に付くより全然いい待遇を用意できましてよ」


 まあそうなるよな。元々フィリシェは我を取り込みたいのだ。モケモケ側が我の取り込みに失敗したならこれほど嬉しいことはないだろう。だが。


「ありがたい申し出だが今は辞退させてもらおう。モケモケにも言ったが議員にならずとも出来ることはある。我の興味も別だしな。しばらくは発明に専念したいと思っておるのだ」


「発明……ねぇ」


 フィリシェの目が怪しく光る。それは野心を持つ者のそれだった。


 我はフィリシェにも用事がある。ここで会えたのは幸いであるし、フィリシェには例の物を見せてやろう。


「葉月」


「はっ」


 我は葉月に隠し持たせていたミニエー銃をフィリシェに見せてやった。


「これは……」


「新機軸のライフル銃だ。最初の発明品としてこれを見てもらいたいと思ってな。射撃に適した場所があれば教えて欲しいが」


「分かりましたわ。親衛隊の訓練場が近くにあります。そこまで案内しますわよ」


「うむ」


 こうして我と葉月はフィリシェと共に彼女が保有する訓練場へと向かうことになる。その様子を見てモケモケが落ち着かない顔をしているので聞いてみた。


「モケモケもついて来るか?」


「えっ? うん……わたしも付いてはいきたいけど」


 モケモケはフィリシェの顔色を窺っていた。


「わたくしは構いませんわよ。わたくしはいつでもモケモケちゃんと仲良くしたいと思ってるんですから。主義の違いはありこそすれ、共に国を憂える議員ですもの」


「うん……フィリシェがそう言うなら付いていく」


 モケモケとフィリシェのやりとりを見ているとやはりフィリシェの方が大人だな。フィリシェについて言うならモケモケをも取り込もうとしてる気もするが。


 まあそんな内ゲバは我には関係ないことだな。それよりまずは銃の試射である。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 フィリシェ御用達の馬車に乗り込み我らは郊外の訓練場へと足を運んだ。広い草原の中いくつか紙製の的が用意されており、何人かの兵士が訓練を行なっている。


「こういう訓練場も数は少ないのですけどね。フリパラはどこも戦争状態。訓練用の弾もほとんどない状況ですわ。でも熟練兵は必要ですからね。親衛隊には訓練もきちんとつませていますわ」


 フリパラは周りの国全てと戦う異常事態の中、兵士の強制徴募という荒業を繰り出している。その徴募自体も困難を極めているが、彼らの装備も問題だった。


 とにかく物資が足りていない。銃も弾も最低限の数しかなく、靴さえ足りない状況だそうだ。


 ミニエー銃などを支給するより物資の充実の方が彼らには必要かも知れないな。


 だがまずは我の顔を売るのが先である。フィリシェの親衛隊員を一人呼んでもらい、彼にミニエー銃を撃ってもらう。


「この弾、寸法が小さいですね。銃口からつめるのは楽になりますが周りからガスが漏れるのでは?」


「問題ない。コルクで埋めてあるが弾の底に窪みがあるのだ。発射時にはそこにガスが入って中から弾を押し広げる。実際には銃身内部のライフリングに食い込みながら発射されるから球形弾よりガス漏れはない。そのため連射速度だけでなく飛距離、精度も向上するのだ。まあ百聞は一見にしかずだ。とにかく一発撃ってみろ」


 まずはいつもと同じ距離から。この時点で銃の精度を確認してもらう。


「……すごい。弾が全部真っ直ぐ飛んでる」


「本当ですわ。マスケットは弾がどこに飛ぶか分からないのが特徴なのに。これは敵を狙えるのですわね」


「うむ。ライフリングによって弾に回転を与えているからな」


「フィリシェ様の私兵の練度も高いようですが」


 モケモケとフィリシェが驚いている。葉月の方はフィリシェの親衛隊の方に関心してるな。



 続いて飛距離の長さも披露する。次は普段の五倍の距離から撃ってもらった。


「……当たった」


「この飛距離……想像を超える凄さですわね。一方的に敵を倒せてしまいますわ。アギルスの新型弾丸、椎の実弾。まさかこれほどの性能だったとは」


「椎の実弾?」


 モケモケ、フィリシェ共に驚いていたがここでフィリシェが気になることを言う。すかさずモケモケが問いただしていた。


「モケモケちゃんはこの銃について聞いてませんでしたの? 駆馬さんはアギルスから来たのですわよね。わたくしは半信半疑でしたけどこの銃を見て確信しましたわ。椎の実弾はアギルスで極秘に開発中の次世代弾。わたくしも調査はしていましたけど、まさかこのような形で実物を見られるとは思いませんでしたわ」


 ……既にアギルスで開発中であったか。


 ミニエー銃の特徴は弾丸の形にある。それまでのマスケット銃の球形弾からドングリ型になっているのが特徴だ。神髄は底部の空洞でそれが精度と飛距離の向上に役立っているのだが、形だけなら真似できるからな。


 アギルスの女王はほぼ間違いなく転生者。ミニエー銃どころか現代の銃を知ってるはずだ。くわしい仕組みは知らぬだろうが、現代の銃の弾の形がドングリ型なのくらいは分かるだろう。


 それを部下に作らせていたか。


 底部の空洞の有無を含め、アギルスで開発中の椎の実弾がこのミニエー銃と同レベルかは分からない。だがやはりアギルスの女王。あなどれない相手と言えるな。


 というかマシンガンの開発とかもやっていそうだ。一度会って全力で製造を中止させたい。


「……駆馬がすごい複雑な顔してる」


「おっと。わたくし口がすべってしまいましたわ。モケモケちゃんにも話してないならこの椎の実弾はサプライズ。私達を驚かせるつもりだったのでしょう。アギルスでも極秘の新技術を持ってる時点で十分驚きましたが、わたくしがそれを知ってた事実に駆馬さんの方もどうやら驚いてしまったようですわね」


「……そうだな。この話はモケモケからも聞いてなかったからな」


「……わたしが一番驚いてるし」


 アギルスの技術についてはモケモケから話を聞いていた。だがそれが全てではないということだ。アギルスは極秘ですでにミニエー銃に近い技術を開発していた。これ自体も決して驚くことではない。


 ここで一番驚くべきは、そのアギルスの極秘情報をフィリシェが入手していることか。


 実物を見たことはなかったそうだが、このフィリシェ、相当広範囲の情報網を持っている。


「でもわたくしも驚きましたわ。わたくしが聞いたのは弾の形状くらいですもの。くわしい設計図はおろか、製造方法も謎でしたから。……その完成品を駆馬さんは持って来た。それはつまり、この発明品をフリパラに提供する用意があるということですわよね」


 フィリシェの情報網には驚いたが逆に食いつきは良くなったな。これは結果オーライと言えるだろう。


「ああ、我はこの技術を提供する用意がある。輸入特許権。まずはこの銃の製法を特許してもらおう。後は工場の設立だな。まずは工場一つで良い。あまり大量に作るとこの国の職人も困るだろうしな。場所の確保を仲介してくれると助かるが」


「もちろんわたくしが頼まれましてよ。でもそれだけで宜しいかしら? 資金提供は必要じゃなくて? まあこれだけのものが造れるのだから資金があっても不思議ではないですけれど」


 正直言うと資金は十分にある。貴金属で十兆円があるからな。だが大量の金属を換金して目立つも良くはない。援助を受けれるならそれに越したことはないのだ。


「うむ。資金のあてはあるのだが、もし援助をもらえるならありがたい。その場合相応の見返りを出す必要があるだろうが」


「それなら銃の納入をお願いしますわ。最初に出来た完成品はぜひわたくしの親衛隊にくださいな。それをしてもらえるなら銃のデモンストレーションも親衛隊で請け負って差し上げますわよ」


「ありがたい申し出だな。受けた援助はもちろん利息をつけて返させてもらう。製造は弾丸をメインに行うつもりだが親衛隊には銃もつけよう。工場建設から製造までに時間はかかるだろうが、そなたにも利益を約束する」


「ええ、性能のいいものが完成するのを期待しておりますわ」


 こうして工場建設の話はまとまった。


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