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06 シャトラゲームの問題点

「議長様相手に五戦全部引き分けかよ……駆馬、おめぇ本当にすげえな」


「さすがは駆馬様でございます。駆馬様と互角に戦うその男も凄まじいですが」


「……駆馬でも勝てないと思ったけれど、負けもしないとはわたしも予想出来なかった」


 皆が口々に感想を言ってくる。


 結果として、我は一度も負けなかった。だがこれは不本意な結果とも言える。


 我は一戦目でスピドールの実力を悟ったのだ。やはりスピドールは我よりシャトラが強かった。我は今日初めてシャトラを指すのだから当然だが。


 そこで我は、すかさず負けない戦いへとシフトしたのである。


 その結果がこれだった。五戦やって全て引き分け。世界最強のプレイヤーに引き分けまで持ち込めたのだ。これは悪い結果ではない。


 だが我はこの結果を出せたことでシャトラと言うゲームそのものに疑問を感じ始めていた。我は疑問を解決するための質問をスピドールに投げかける。


「議長スピドールよ、一つ質問してもいいか? このゲーム、もし議長が二人いて戦ったら結果はどうなる?」


「恐らく引き分けになるでしょうな」


 我の予想通りだった。


 このシャトラというゲーム、とにかく引き分けが多い。チェスや将棋の起源はチャトランガと言うゲームだがこれはチェスより引き分けが多かったと聞く。


 このシャトラも同じ問題を抱えているのだ。


 上手い者同士がやれば必ず引き分けに持ち込める。これではゲームがゲームとして成立せず衰退してしまうかも知れぬな。


 事実、このシャトラは人気に衰えが見え始めているらしい。ルールの改編が必要な時期に来ているのかも知れない。


「……駆馬君、君は一体何を考えているのだ?」


 スピドール議長が尋ねて来た。我はその質問に率直に答えた。


「このシャトラというゲームのルールの改編についてだ」


「なっ……」


 我の言葉にスピドールは驚きの表情を見せる。


「私は帰らせてもらうとしよう」


 どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。スピドールが席を立ちながら話かけて来る。


「駆馬君、君の人間性は概ね分かった。君は危険だ。シャトラをプレイしている間は実直な人間かとも思ったが、裏でそんなことを考えていたとは。君の発想は革新的すぎる。きっとこの国の行く末にも、私達が考えもしないようなとてつもないことを考えているのではないか? モケモケは君を議員にしたいと言っていたが、私は反対させてもらうよ」


 そう言ってスピドールはカフェから出て行った。


「駆馬……」


 場に重い空気が立ち込める。


「スピドールの野郎、自分がシャトラで勝てなかったからきっといじわるしてやがるんだぜ」


「それはない」


 バロスの言葉にすがさずモケモケが反論していた。我もモケモケの意見に賛成である。


 事実、ゲームをしている間はスピドールは我に好感を抱いていた。それが変わったのは、我がシャトラのルールそのものを変えることを提案したからだ。


「……市民スピドールは実直な人間。法律を利用することはしても法を変えたり破ったりすることは嫌う。……駆馬はそれをやると思ったのかも。でも駆馬はこの国に絶対必要。スピドールはもう一度わたしがちゃんと説得して――」


「いやいい」


 我はモケモケの好意を断った。モケモケが我を議員にしようとするのは良いのだが我はまだ議員になるつもりがないからな。フィリシェとスピドールの内ゲバに巻き込まれぬためにな!


 だからモケモケにはこう言っておいた。


「議員に薦めてくれるのは素直に嬉しい。だが我のためにモケモケが議長の不評を買うことはあるまい。議員にならずとも出来ることはたくさんあるしな」


「駆馬(わたしのために…… ポッ)」


「なんかいい感じのとこ悪いんだけどよ。シャトラのルール改変の話このバロス様に話してみねえか? 頭カチカチの議長は気に入らなかったみてえだが俺様はその話興味があるぜ」


 予想外の奴がつれたな。だが我はスピドールよりこのバロスと繋がりを持ちたかった。丁度良い機会であるしな。より我の存在をアピールしておくか。


「……バロスは消えればいいのに」


 モケモケがすごく嫌っているが。


 ともかく我はバロスに改変案を示してやった。


「……持ち駒ルールぅ?」


「そう、持ち駒。つまり駒の再利用のルールだ。シャトラは相手の駒を取ったらそれをゲームから除いてしまうだろう? だから引き分けが多くなる。終盤になるほど駒の数が減るからな。だが取った駒を再利用すればどうなる?」


「……! 終盤まで駒の総数はそのまま」


「そう、つまり引き分けが劇的に少なくなるのだよ」


「マジか! すげぇ……駆馬は本当に革新的すぎるぜ。取った駒を再利用するなんて一体どうしたらそんな革命的な考えが出来んだよ。信じられねぇ」


「実は我のいた国にそういうゲームがあったのだよ。ああ、アギルスじゃなくその前な。持ち駒はその我のいた国のみの非常に珍しいルールだ。ただこのルールを適用するには一つ問題があってな」


「……相手の駒を自分の物として使うとどっちが自分のか分からなくなりそう」


「そう、それが問題だ」


 将棋とチェス以外にもチャトランガ系と言われるゲームは世界に複数存在する。だがそれらのゲームの中で、持ち駒という駒の再利用ルールを採用しているのは日本の将棋一つだけであった。


 これには複数の理由が考えられる。その一つが駒の形状だ。


 日本の将棋は五角形の駒に漢字で文字が刻まれており、敵味方の判別は駒の向きで行っている。そのため駒そのものは敵味方同じ物を使っているのだ。


 だから取った相手の駒を向きを変えるだけで自分の駒として使える。


 だが世界に多くあるチャトランガ系ゲームはそうではない。代用例はチェスになるが、あれは駒が立体なのだ。立体的な造形で駒を区別しており、敵味方の判別は駒の向きではなく色で行っていた。


 それが持ち駒ルールを採用する際問題となる。


 つまり自分が白を持ってるとすると、相手の黒い駒を取った際色を変えねばならぬのだ。相手の駒をそのまま自駒として使えぬために実に面倒くさいことになる。


 この世界のシャトラの駒は形状までチェスとそっくりであった。だから持ち駒ルールを採用するには駒の形状も同時に変える必要が出る。


「持ち駒ルールを採用するには駒自体を変える必要があるな」


「革新的すぎるルールを採用するには一筋縄じゃいかねぇってわけか。でもおめぇのその口ぶりだと変更案ももうありそうだな」


 バロスの目が怪しく光る。その目の光は金に目のくらんだ野獣のようだった。


「もちろんだ。この国にトランプは存在するか?」


「ある。紙はそんなに安くないけどトランプは結構普及してる。一般兵の間とかではシャトラよりトランプの方が人気なくらい」


「なら決まりだな。駒の形状をカードに変更する。これで問題は解決できるはずだ。まずはこの国のトランプを見た後にデザインなどを詰めれば良いか」


「すげぇ、一気に金の匂いがしてきやがったぜ。なぁ駆馬、その話このバロス様にも一口噛ませちゃくれねぇか? 俺様の知り合いにはトランプを作ってる業者もいるぜ? あんたにとってもこれはいい話だと思うけどなぁ」


「ありがたい。是非お願いしよう。ああそうだ。我の名刺を渡しておこう。白鳥 駆馬。アギルスからの亡命者だ。我の発想はかの国でも斬新すぎてな。あの女王の手にも余ったようだ。この国でもさっそく議長に嫌われてしまったが協力してくれるのならありがたい」


「うへぇ、あのアギルスの歩く産業革命以上に斬新ってか? そりゃ色々期待しちまうな。この名刺一つとっても見たことねぇ品質だし。っと、少し汚ねえが俺様の名刺も渡しておくぜ。俺様はバロス。ニコランベール・バロスだ。まだ議長ほど有名じゃねえが顔の広さでいや右派のフィリシェにも負けはしねえぜ」


「あと下衆さでも」


「下衆は余計だぜモケモケよぉ。世の中綺麗ごとだけじゃ回らねえんだぜ。スピドール議長みてえのより意外と俺様見てえのが長期政権取ったりしてよぉ」


「ありえない……」


 モケモケとバロスの仲は本当に悪そうだな。右派と左派の仲も問題だが、左派政党の内部も一枚岩ではないということか。


 スピドール率いる左派についてはモケモケとバロス、二人を情報源にするのがいいかも知れぬな。


 だが仲の悪い者同士を一緒にいさせる必要もない。新型シャトラの作製には時間がかかるし、今日はバロスとは別れておくか。


「済まぬがバロス、今日はモケモケが先約なのでな。お前とはまた話がしたいが時間は取れるか?」


「ああ、俺ん家の住所もそこに書いてあっからよ、気が向いたらいつでも家にきなぁ。俺は毎日朝食は十人分用意してっからよ。あんたも朝食会に誘ってやるぜぇ」


「分かった。近い内に顔を出させてもらおう」


「おう、じゃあな駆馬。俺様も忙しいから今日は帰るが、俺ん家来るときには試作品でも見せてくれよぉ」


「うむ。楽しみに待っているが良い」


 こうして我等はバロスと別れた。


 モケモケは不機嫌そうな顔をしているな。モケモケは我をスピドールに近づけさせようとしていた。それが失敗に終わった上にバロスなんかと近づいたからな。モケモケの予定は大きく狂っているのだろう。


 それは悪いとは思いもするが、我にも計画があるからな。モケモケと友好関係は継続するが、全てモケモケの思惑通りに動いてやるわけにはいかぬのだよ。


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