05 議長スピドール
翌朝、我等はテルティアの高級ホテルへと戻る。盗聴器も全部屋確認したがどれも全く問題なかった。
「ではこれで。じいはまた潜ってまいります」
「うむ」
玄庵とは再び別れた。次は極右の王党派や国外勢力などについて広範囲に調べさせる。部屋の屋根に中継装置もセットしたのでこれからは無線連絡をするのも可能だ。
こうして玄庵と別れた後は葉月とともにカフェへと向かった。モケモケとの待ち合わせがあるからな。
カフェへと入ると中々豪華な造りになっている。シャンデリアと鏡で彩られた店内に大理石のテーブルが並んでいた。
だがこの店最大の特徴はテーブルゲームが出来ることだな。大理石のテーブルの上で皆がチェスのような物をやっている。
モケモケが来るまで時間があったので我はその様子をコーヒーを飲みつつ眺めていた。
「基本はチェスと同じか。当然持ち駒ルールはなし。盤面も8×8マスでルーク、ビショップ、ナイト、キングの動きもチェスと同じ。だがポーンとクイーンの動きが違うな」
「見ただけでゲームルールを理解なされるとは、さすがは駆馬様でございます」
葉月が感心していたが我にとっては造作もなかった。というか本当にチェスと似ているからな。チェスを知っていればすぐにルールくらいは読める。
「だがクイーンがキングと同じ動きだしポーンの動きも将棋の歩と同じだ。チェスと比べると多少単純なゲームであるな」
我は思わず感想をつぶやく。だがそれに反応を示した男がいた。
「単純だとぉ? このくそ難しいシャトラがか? 本当に単純だと思うならこのバロス様と勝負するかぁ?」
見るからにガラの悪い男である。ちょっと気になるので鑑定してみた。
【ニコランベール・バロス 三十五歳 男】
職能(メイン):悪徳の士
職能(サブ):国民公会議員、人材コンサルタント
……こいつも議員だったか。
だがメインジョブがひどすぎる。悪徳の士って。せめて議員の方をメインにしろよ。
これはあれだな。元々は普通の議員だったが腐って悪徳の士と化してしまったと。ろくでもない人間なのが確定である。
だがもう一つのサブ職能、人材コンサルタントは面白い。
人同士を仲介するのは実に難しい職業だ。交渉、分析、コミュニケーションの能力など総合的な人間力が問われてくる。
それに人材紹介は今の我にも必要な力だ。このバロスと言う男、下衆なのは確実だが人材としては使えるやもしれぬ。
我はバロスの提案を飲み勝負をしてやることにした。
「シャトラは至高の頭脳ゲームだぜぇ。俺様にコテンパにやられた後にじっくりとその奥深さを思い知りなぁ」
しかし我も口がすべったものだ。
人が遊ぶゲームにおいてはそもそも単純だから程度が低いなどということはない。チェスは難しすぎて敬遠されるし将棋もそうだ。むしろ大衆向けにはこのシャトラくらいが面白いやも知れぬとすら考えていたのだが。
まあこのバロスに我の知能を見せるのはよいだろう。ゲームが強ければ頭が良いなどということもないが比例しやすいのは事実であるしな。
そうして我は勝負をする。
結果はバロスの駒を全取りしての我の圧倒的勝利であった。
「うげぇー! 馬鹿なぁ。このバロス様がスピドール以外に負けるなんてあり得ねぇ。てめぇ一体何者だぁー?」
「ふふ。我の名は白鳥 駆馬。このフリパラ王国に舞い降りた革命の擁護者とでも言っておこうか」
「か……革命の擁護者だと。なんてかっけぇ響きなんだ。……あんた輝いていやがるぜ」
我の輝きを早くも見抜いてしまったか。やはりこのバロス、人を見る目は持ってるようだ。
やはり使えそうな男だな。もう少し話して交流を深めておきたいが。
「あ、ゲスがいる。……なんで駆馬も一緒に?」
モケモケがカフェに辿り着いてしまった。このバロス、悪徳の士とか言うくらいだ。利権の多いフィリシェ側の人間だろう。となるとモケモケの前で友好を深めるのは問題か?
「こいつはバロス。残念なことにわたしと同じ政党だけど駆馬はこいつに近づいちゃ駄目。魂が穢れる」
ひどい言われ様だ。だがこいつスピドール側の人間なのか。潔癖らしいスピドールと仲がいいとは思えぬが左右のバランスを取るにはいいかも知れぬ。
こいつのコンサルティング能力でスピドール側の人材を紹介してもらうのも良さそうだしな。モケモケには悪いが後で名刺を渡しておこう。
「ちっ、うるさい奴がきちまった。って、げげっ、スピドールまで来てやがる!」
バロスの言葉にその場の全員が驚きを見せた。
確かにモケモケの後ろにいかつい男が立っている。こいつがこの国の議会のトップ、フランミリアン・スピドールか。
我はすかさずスピドールのことも鑑定した。
【フランミリアン・スピドール 三十二歳 男】
職能(メイン):革命
職能(サブ):国民公会議長、精錬の士、グランドマスター、童帝
……童帝だと? いや童貞はどうでもいい。
こいつ……メインジョブが革命そのものになっていやがる。もはや人間じゃない。
『大変ですよ駆馬さん! この人三十超えて童貞です!』
だまれ駄女神。
『いえそれより見て下さい! 彼の職能は本物ですよ! 彼のメインジョブ:革命。これはただの革命家とは一線を画した能力です。童帝もただの童貞とは違うんですけどとにかくこの人本物ですよ! 革命の指導者として凄すぎてもはや彼自身が革命そのものと化してるんですよー!』
女神の言葉が支離滅裂だが言いたいことだけは分かる。
国民公会議長、スピドール。こいつは確かに本物だ。まるで世紀末覇者の漫画にでも出てきそうな独特の迫力を持っている。
こいつはやばいと我の本能が告げていた。
「君が白鳥 駆馬君だね」
品定めをするかのようにスピドールが我を眺めている。だがしばらくして彼は視線をシャトラに移した。
「ふむ、シャトラか。私は久しくやってなかったが……市民バロス、席を代わってくれるかね?」
「もちろんでさぁ議長様。ささっ、どうぞ座ってくだせぇ」
バロスに代わってスピドールが我の対面に座った。
「シャトラは盤上の格闘技。一局指せば相手のことも見えてくる。どうだね駆馬君。私とも一局指してくれるかね?」
「……待って。駆馬はシャトラをほとんど知らないはず。スピドールはグランドマスターなのに。いくら駆馬でもこれじゃ勝負にならない」
スピドールのサブ職能、グランドマスター。これはシャトラのグランドマスターか。
チェスにおけるグランドマスターは世界チャンピオンに次ぐ最高位のタイトルだ。だがこいつの場合は。
「……駆馬もやめておいた方がいい。スピドールは今は一線を退いてるけど議員になる前は世界一のシャトラプレイヤーって言われてた。今も実力は世界一のはず。……つまり駆馬でも絶対勝てない」
やはりな。この世界最強のシャトラプレイヤーと言うわけだ。
我は天才で最強ではあるが、地球で最もチェスが強かったわけではない。まずチェスより将棋を指してたし、チェスではグランドマスターに勝てなかったのだ。
もともとゲームと割り切っているしな。
だからスピドールにも勝てぬだろうが、別に勝つ必要もない。それより彼を知ることだ。
「勝てる自信はさすがにないが似たゲームなら故郷にもあった。我も議長には興味がある。我からも対局をお願いしよう」
こうしてモケモケ、葉月、バロス達が見つめる中、我とスピドール議長の対局が始まった。




