03 ミニエー銃
モケモケが去ってから数刻、我らの泊まっている部屋がノックされる。
「遅くなりました駆馬様」
「いや早かったぞ玄庵よ。まずは中に入れ」
玄庵は当然のように我等が泊まっている部屋を探り当てた。ステルスによりホテルの従業員にも気づかれていない。
「フィリシェ・オルフーレ。通告なしの彼女の帰還は議会を少々揺さぶったようであります。モケモケ嬢が色々聞かれてましたな。駆馬様のことはアギルスからの亡命者だと話しておりました」
うむ。モケモケはスピドール議長にもちゃんと我の正体を隠したようだ。バラしてしまった際の対応も考えていたが、モケモケに対する信頼度はもう少し上げても良いだろう。
「よし。とにかく一度屋敷に戻るか。ひよりやニコも寂しがっているだろうしな」
玄庵が合流した所で我らは転移で屋敷に戻った。ホテルの部屋にはどこにも入るなと伝えた上で盗聴器を残しているが、今の所入られる心配はそれほどしていない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ご主人様ぁ~」
結界をくぐるとすぐにひよりが抱き付いて来る。思えばこの異世界に来て二週間。最初の一週間の後すぐ家を空けてしまったからな。
ひよりには寂しい思いをさせてしまった。
「王子おひさー。結構早かったなー」
ニコはご覧の有り様だが。こいつに関しては部屋に籠ると日付の感覚から怪しくなるからな。一週間家を留守にしてもこれである。
「駆馬王子、付近の生物の遺伝子調査、及びこの世界の構造に関する調査が進んでいます。この世界の正確な時間も判明しました。一日約二十五時間です。モケモケ嬢の話によればここでも二十四等分と聞いてますので時計の調節だけで対処できます」
この世界の暦についてもだいたい分かった。一日の長さが地球と近かったのは幸いだな。というか全体的に地球と近い。
『一カ月が三十日に一年が三百六十日、地球より分かりやすくていいですよねー。なぜか一週間は地球と同じ七日だったけどこれも変更予定のようですし』
久しぶりに駄女神の声を聞いた気がする。意外とどうでもいい所で話しかけてくるな。
ちなみに曜日については革命政府で一週間を十日に変更する案が出てるらしい。これには我は反対している。モケモケにはやるなら六日か五日にしろと言っといた。本命は一週間六日だな。
曜日の数は出来るだけ大きく変えないべきなのだ。一週間が七日というのはこの世界でも宗教に根差しているそうだし、何より生活に根差しているからな。
そもそもこの国休みが週一らしいし。その休みを七日に一日から十日に一日に変えた日には市民の反発も強かろうに。
革命家は時々こういう馬鹿なことをしようとするから手におえん。
どうせ定着せぬだろうから放っておいても良かったのだがな。我がいる時にころころ暦を変えられてもたまらぬから一応意見は言っておいた。六なら二でも三でも割れて便利だし、日数も七日から一つしか変わらん。しかも一つ減るからな。休みまでの日時が短くなるのだ。
これなら市民にも受け入れやすいかも知れないからな。
まあそんなことより情報の整理である。我等は一週間別れて過ごしていた。情報の共有が必要だ。
まず屋敷側。こちらは特に問題ない。周りの生物に対する遺伝子検査の結果が出たが特に驚く物もなかった。
「魔力を吸収する器官がないかと期待していましたが、魔物も基本は地球の動物と同じでした」
これが遺伝子検査の結果である。新たな生物の遺伝子ではあるが、この世界ならではというのはなかった。魔法については我等も使えるわけであるしな。身体構造に特殊な違いはないようである。
もっとも新たなタンパク質など得られた物はかなりある。地球にはない薬品も開発出来るかも知れないから調査はもちろん継続だ。エリクサー開発計画にも役に立つかも知れぬしな。
後は星の大きさもだいたい分かった。地球よりわずかに大きいようだ。
我らの体重も地球の時より重くなっているらしい。もっとも身体能力の向上の方が大きいため逆に軽く感じるほどだが。
他にも色々調べているが、衛星の数も一つだし、驚くほど地球に似てると言う結論だった。
『私の言った通りですよね。ここと地球は近いんですよー。距離的にというより性質的に』
頭に女神のドヤ顔が浮かんで来る。実際に見えてはいないのだが。まあこの世界そのものについてはこんな所だ。
「あたしは銃を作ったぞー。こいつを見ろぉぉー」
ニコが銃を見せてくる。ミニエー銃だった。
ミニエー銃は前装式のライフル銃だ。銃身にライフリングが刻まれてる時点でマスケットの定義からは外れるがこれは特に問題ない。
我はニコへの指示として二つの定義を設けていた。一つが一体型薬莢を使わぬことで、もう一つが前装式であることだ。
一体型薬莢が開発されねば敵にマシンガンを開発される危険は減るし、銃身の先から球を詰める先込め式なら連射速度もたかが知れる。戦場での人死にが増えることはそれほどないという事だ。
ただしこのミニエー銃も性能はやばい代物だが。
「飛距離はマスケットの約五倍。命中率は三倍だー。さらに装弾もしやすくなるから発射速度も向上するぞー」
あらゆる面でマスケット銃を凌駕する。だが銃の設計図はマスケットとほぼ同じだ。銃身にライフリングの溝が刻んであるだけで発射の仕組みは変わらない。
特徴的なのは弾丸で、これがただの球体からドングリ型へと代わる。これがミニエー銃最大の特徴だな。だがこれも弾の形が変わるだけで構造は大して変わらぬ。これは採用しても良さそうだ。我が取る最初の特許はミニエー銃で決まりだな。
「フリパラにはライフルの工場も少数ながら存在する。我等が実際に作製するのは弾丸だけでも良いだろう。弾ならプレス機で大量生産できるしな。だが球形弾を製造する業者を一気に潰すのも問題だ。ミニエー弾は高値に設定した上で少しずつ生産量を増やせばよいだろう」
あまりに急激な改革は余計な反発を招くからな。球形弾の製造業者とは軋轢を避けられぬだろうが、彼らが転職するまでの時間的余裕くらいは与えてやるべきであるからな。
ニコからの報告は以上であった。そしてひよりからは要望が出る。
「食料の生産が不安定になっています。魔法でなんとか持たせてますが、やっぱり気候が違うみたいで。植物工場は大丈夫なんですけど家畜さん達の体調が悪いです」
こちらは中々深刻だ。植物工場は環境を完全にコントロールしているから問題ないが、家畜は外気にさらされている。日本とフリパラでは気候が違っているからな。家畜は長くは持たぬであろう。
「家畜については今いるものを処分した後はこの国の動物を買う必要があるか」
「はい。余裕が出来てからになると思いますけどひよりも首都に連れていって下さい。家畜の他に野菜なんかも日本にないのを見てみたいですし」
我が家の食料を管理する者として当然の申し出であった。首都の場所はもう覚えたしな。怪しまれぬよう注意は必要だが、ひよりやニコも転移で連れて行く用意は出来た。
街の治安なども確認が取れればひよりも首都に連れて行くべきであるな。




