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02 首都テルティア

「ここがフリパラの首都テルティアですわ。活気に満ちているでしょう」


 首都につくとフィリシェが自慢げに案内してくれる。確かに活気に満ちていた。ヨーロッパ風の建物も軒並み四、五階建てで人口が多いことが窺える。


 だが我の感想で言えば、とにかく臭いの一言だった。


 我はここに来る前に匂いを遮断する魔法を開発している。これにより臭さは一割ほどに軽減している。にもかかわらずのこれである。魔法がなければ鼻が折れ曲がっていたかも知れぬ。


「この匂いは……本当に強烈でございますね」


 葉月も辛そうな顔をしていた。魔法がなければ葉月も倒れていたかも知れぬ。


 ちなみにモケモケには魔法をかけていないが平気そうな顔をしていた。ただし臭いことには同意していたが。


「首都には人が多いから。必然的に道に投げ捨てられるうんちの量も増える。発酵して独特の臭気を発するのはこの世の必然とも言える」


 うんこを道に投げ捨てるのが必然とは程遠いのだが。改めて我は公衆衛生の大切さを痛感する。


 我らは街中も馬車で移動したが道がうんこでぬかるんでたからな。泥ではなくうんこでである。降りる気にはとてもなれなかった。


 これにも魔法が必要そうだ。道に積み重なったうんこと空から降ってくる新たなうんこ。双方に対するバリアの開発が急務である。


「上からくるうんち対策としてフリパラでは日傘が売れている。後はシルクハットとかマントとか。駆馬達は靴もヒールじゃないしそのまま外に出るのは危険」


 仮にヒールを履いてたとしてもうんこの上を歩きたくはないのだが。


 フリパラの首都テルティア。あまりに危険な街であった。



 そうして馬車に乗ること数十分、我らは目的の場所へと着く。威厳を放つ大きな城だ。その城の庭園を囲むようにたくさんの建物が立っており、やはり活気に満ちていた。


「ここがわたくしの城ですわ。庭園含め周りも城の敷地内なのですけれど、今は商人に貸し出していますわ。不動産経営の一環ですわね。ここには商店、レストラン、他に本屋などもありますわ。宿泊施設もありますからしばらくはここに滞在するといいでしょう。わたくしも城の本館の中にいますしね」


 こうして我らはフィリシェと別れた。その後はモケモケの案内で施設を巡る。城の敷地内だけあってある程度は掃除が行きわたっているのが幸いだったと言えるだろう。


 ちなみにこの城は革命家のたまり場ともなっていた。それはフィリシェが城内への警察の立ち入りを禁じていたからだ。革命前から国王と対立していたフィリシェはこの城で革命家達を匿っていたのである。


 今はその革命家達が政府を動かしているが、この城は未だに革命家達の政治議論の中心地となっていた。もっとも最近は派閥が分かれており、ここにいるのはフィリシェに近い者達が多いそうだが。


「革命政府も一枚岩ではないから。わたしやスピドール議長が所属する政治組織はちょっと離れた修道院にある。そこにも駆馬は連れて行きたいけど、拠点はここがいいと思うから」


 モケモケなりの配慮であった。


 モケモケとフィリシェは共に革命政府の議員だが所属する政党は違っている。フィリシェは立憲君主制を目指す右派であり、モケモケは王政を廃しての共和国樹立を目指す左派である。


 今は絶対王政の復活を目指す極右勢力と戦っているが、いずれはモケモケとフィリシェも対立することになるだろう。


 つまりモケモケにとってフィリシェは将来的な敵であるのだ。


 フィリシェの方は気にしてないようだがあれは面の皮が厚すぎる。フリパラを立憲君主国にした上で自分が王位に就こうとしているような奴だからな。


 馬車でこの話を聞いた時には絶句した。それをモケモケの目の前で言ってしまう神経含めてである。我はモケモケの職能がテロリストに進化してないか思わず確認したほどだ。


 まだ職能が議員で安心したが、いつかモケモケがフィリシェにテロを仕掛けそうで恐ろしい。この国最強のフィリシェにモケモケが返り討ちに遭う絵しか浮かばぬが。


 まあそんな感じでモケモケとフィリシェの関係も複雑なのである。


 その上で我の拠点をここにするのは、我がフィリシェの勢力に呑まれる危険性が高くなることを意味する。それなのにモケモケがここへと連れて来たのは我等の身の安全を図ってのことだ。


 フィリシェの城内であるこの場所は警察も入れぬ治外法権を持つからな。我の拠点としてだけ考えれば、この国で住むのに一番適した場所なのである。


「……駆馬は拠点がどこだろうとこの国にいいことをしてくれると思うから」


 モケモケの信頼通りであるわけだしな。そもそもしばらくは特許の取得と学術論文の執筆で忙殺される。政党同士のいざこざに構う暇などないのだ。


 ともかくここが我らの拠点となる。まずは資金を得る為手持ちの貴金属を換金した。大量に換金すると怪しまれるため生活に必要な分だけだが。


 用途は主に本の代金だな。ホテル代もかかりはするが食事は屋敷に帰ってするしそこまで金は使わない。


 換金を終えた後は高級ホテルを三フロア借り切る。


「なんで上下の階まで貸し切り」


「習慣と言ってしまえばそれまでだが一応テロ対策だな。部屋を多くとれば銃で狙われる確率も減るだろう?」


「……駆馬の金銭感覚がおかしいことだけは分かった。じゃあこれで、わたしも一度帰るけど明日にはまた来るから。待ち合わせは中庭のカフェで」


 そうしてモケモケも去っていった。


 モケモケとフィリシェは議員だからな。勝手に任地を離れた釈明含め、議会に報告する義務がある。



 そうして我は葉月と二人、ホテルの一室へと入っていった。


「一週間に及ぶ馬車の旅、苦労をかけたな葉月よ」


「いえ滅相もございません。わたくしとしては駆馬様に最低限のお世話も出来ず、我が身の未熟を恥じるばかりです」


 一週間に及ぶ馬車の度はさすがに快適とは言いづらかった。馬車の乗り心地も悪かったが、一番の問題は風呂である。


 我らはこの一週間一度も転移を使っていない。つまり屋敷に戻ってないのだ。そのため用を足すのも屋外だし、暖かい風呂にも入っていない。


 この辺も護衛に葉月を選んだ理由だな。我と玄庵、そして葉月はアマゾンでのサバイバルを経験済みであるからな。


「あの時の密林生活に比べれば生活そのものは楽でした。ですが馬車ではわたくしは何も出来ず、あまつさえ駆馬様に水の世話までしてもらい、申し訳なさでこの身が裂ける思いです」


 一週間体を洗わないのはありえぬため我等はタオルで体を拭いていた。その時使う水は我が魔法で出したのだが。葉月がそれをここまで気にしていたのは予想外のことだった。


「護衛を務めるどころか駆馬様の荷物になってしまうなど。これでは駆馬様おひとりの方が良かったとさえ思ってしまいます」


 相当へこんでいたようだ。


 確かに馬車での行軍は安全で護衛はなくても良かった。街で活動させる分には転移で連れてくれば良い。だが我には別の目的があったのだ。ここへと向かう一週間の間に、葉月とフィリシェは仲良くなっていたのである。


 ここで我は葉月に目的を告げた。


「葉月よ。この一週間はいわば布石だ。お前を連れて来たのはフィリシェと接触させるため。お前には彼女と懇意にしてもらう。我はモケモケ側になるだろうからな」


 これが我の目的だった。


 我はモケモケのいる政治組織だけに肩入れするつもりはない。情報源としても不足だ。左派のモケモケ達だけでなく、右派のフィリシェ達からも情報は得ねばならない。


 そのための足がかりが葉月なのだ。


 モケモケは葉月を怖がっていたがフィリシェは葉月を気に入った。強い者同士に通じる何かがあったのだろう。


 馬車での旅の終わりには、葉月はフィリシェが主催するサロンに誘われていたほどなのだ。葉月にはそこへと入ってもらう。


 フィリシェのサロンには貴族の他に多くの知識人も出入りしている。そこでの人脈は今後大きく役立つだろう。


「さすがは駆馬様でございます。そこまでのお考えがあるとはつゆ知らず、わたくしはただあの場にいただけで」


 確かに葉月は普段通りであった。だがそれがフィリシェに気に入られた理由でもあろう。


 我自身も葉月をフィリシェ側に送り込む素振りは一切見せなかったしな。


 フィリシェは自分が葉月を取り込んだと思うはずだ。フィリシェからすれば葉月は我を取り込むための足掛かりとなるのであるからな。



 これでフィリシェ側への工作準備は整った。後はモケモケ側、議長のスピドールに対してだが、こちらは玄庵の報告を聞くのが先であろう。


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