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12 王室魔法

「勝負の方式は王室の作法にのっとって行わせて頂きますわ、あなたも貴族なら知ってますわよね?」


「悪いな、あいにく我は貴族じゃない。軽く説明してもらえるか?」


「なっ……まさか在野の魔法使い。いえ、今はそれはいいですわ。知らないのでしたら軽く説明しますわね」


 そうして我は魔法使い同士の決闘の作法を教えてもらう。特に難しいことはなかった。


 互いに百メートルほど離れた上で魔法を撃ちあうのだ。これにはいくつかバージョンがあり、相手が倒れるまで撃ち合うやり方以外に最大魔法の一発勝負の形式もある。


 今回採用するのは後者だ。というかこっちが主流だな。魔法の打ち合いはもれなく貴族同士の戦いなので相手を殺すのはご法度なのだ。殺すと相手の“家”との戦争になる。


「最初に注意しておきますが、これは早撃ちではないですからね。両者共に魔法の準備が出来た上で立会人が合図します。相手の準備が終わる前に攻撃すればその時点で負けになりますわよ」


「うむ。注意しよう」


 こうして我とフィリシェは互いに位置へと付き、魔法の詠唱を開始する。ちなみに立会人はモケモケだ。


「……どっちも死なないで」


「大丈夫ですわよ。魔法使いは全員が魔法障壁を持っていますわ。だから一撃で死ぬことはまずない。もっとも、正規の教育を受けてなさそうな彼がどうかは知りませんけど」


「大丈夫だ。それらしい魔法はリストにちゃんとある。そちらもバリアを張れるようで安心した。存分に最強魔法を使ってよいぞ」


「ふふっ。あなたは馬鹿ですわ。王族は各自がオリジナルの魔法を持ってますのよ。それが王室魔法(ロイヤル・マジック)。魔法院にある基本魔法とは違うのですわ。あなたがどうやって魔法を覚えたかは知りませんけど王室魔法(ロイヤル・マジック)には敵いませんわよ」


 戦いが始まるまでの短い間に王室魔法(ロイヤル・マジック)についてはモケモケから少し話を聞いた。


 魔法自体貴族しか使えぬ物だが王族はまた特別らしい。彼らは国ごとに特定属性の加護を受けており、その属性の強力なオリジナルスペルを使えるのだそうだ。


 つまり我が有する六属性のリストにはない魔法という事だ。実に興味深い。


「我がフリパラ王家の魔法属性は火属性。そして見なさい! これがわたくしの王室魔法(ロイヤル・マジック)、ゴッド・フェニックスですわ!」


 フィリシェの頭上に巨大な火の鳥が現れる。不死鳥、フェニックスだ。


 魔法リストにこんな複雑な形状をとる魔法はなかった。これだけでもこれが通常の魔法でないことがよく分かる。


 それに対する我であるが、我は詠唱するふりをして相手の様子を眺めていた。


「まさか本当は魔法が使えないなんてことはないですわよね? あまりにモタモタしてると撃ちますわよ!」


 フィリシェがしびれを切らしていた。魔法戦に時間制限はないそうだが、貴族同士の戦いとしてわざと遅らせたりはしないそうだからな。あんまり待たせると貴族にあるまじき行為として断罪される可能性もありそうだ。


 もちろん我もそんなくだらぬことをするつもりはない。我はフィリシェの魔法を観察していたのだ。フィリシェは良く通る声で魔法を詠唱してくれたので魔法式も解析出来た。


「なかなか複雑な魔法式であったな。だが覚えたぞ」


「な、一体何を言って――」


 相手を待たせるのも悪いので我は脳内のみで詠唱を済ませる。


「見た目も芸術的でなかなか悪くない魔法だ。気に入ったぞ。発動。王室魔法(ロイヤル・マジック)、ゴッド・フェニックス!」


「馬鹿な……! こ、こんなことはありえませんわ!」


 我が王室魔法(ロイヤル・マジック)を出すのを見てその場の全員が驚いていた。相手の詠唱を聞いただけで魔法は再現出来ぬので当然の反応とは言えるがな。


 魔法には魔法式が不可欠だ。だが魔法式と詠唱はイコールではない。詠唱はあくまで補助なのである。だからこそ口頭による詠唱は破棄出来る。


 そして魔法式そのものではないために、詠唱だけを真似しても魔法は発動出来ないのだ。


 だがこの二つに相関性はある。


 そもそも相関性がなければ補助にもならんのだからな。そして相関性がある以上、詠唱から魔法式本体を推測するのは可能だ。


 もちろん魔法式全ては再現出来ぬので足りない部分は補完が必要だがな。


 だが我が実際に耳で聞き、実際の魔法を目で見ているなら式の構築は造作もないのだ。


「あ、あなた一体何者ですの! 仮に魔法式を入手しても王室魔法(ロイヤル・マジック)には加護が必要ですわ! 火属性の絶大な加護を有するフリパラ王家の者以外にこの魔法は出せないはずですのよ!」


 式以外の問題もあったな。


 残念なことだが我に回復魔法は使えない。それは適性がないからだ。ひよりが使う聖女の魔法は解析してるが我が使うことは出来ない。


 だが属性魔法は別なのだよ。


 我の能力|《七 光》《セブンスライト》。切り札はあくまで無属性だが、他六属性に対する加護も伊達じゃない。


 この能力を与える時に女神が言った、全ての属性魔法が使い放題というのはけっして嘘ではないのである。


 基本魔法はもちろんのこと、オリジナルスペルにおいてさえ式さえ分かれば全て使える。それが我の能力なのだ。


「くっ! ……ですが、偽物などには負けませんわよ! 完全に再現出来てないのも分かってますわ! わたくしのオリジナルとあなたのパチモン。どちらが強いか見せて差し上げますわ。さあ、モケモケちゃん。合図して頂戴!」


「……!」


 モケモケが心配そうにこっちを見る。予想外の展開に驚いているようだ。だから我はモケモケを安心させるよう優しく伝えてやる。


「心配するなモケモケよ。二つの魔法はほぼ同威力。どちらが勝っても大したことにはならん」


「……うん、分かった。じゃあ……始めっ!」


「ゴッド・フェニックス! シュート!」


「同じくだ。シュート!」


 二つの魔法が激しくぶつかる。二匹の火の鳥が混ざり合い、巨大な炎の爆発となった。



 結果は……相殺。



 我ながらうまく調節出来たと言えるだろう。詠唱を省略しただけでは我の方がまだ強かったからな。式をいじって弱くした。


「相打ちだなんて……ありえませんわ。まさか、あなたの能力はコピーですの? もしくは能力簒奪者。……いえ、使徒でもない限りそんな力は、でも……」


「悪いが我の能力はそんな類の物ではないからな。単にあらゆる属性魔法が使えるだけだ」


「それこそありえない能力ですわ……」


 フィリシェは力なくうなだれていた。使徒など気になる言葉も言っているので聞きたい所ではあるな。素直に教えてくれるかは分からぬが。


「結局勝負はどうなるの?」


 モケモケが尋ねてきた。相打ちの場合を決めてなかったからな。だがまあ今回は問題ない。


「我から提案した上で勝てなかったのだ。勝負は我の負けでよいぞ。モケモケは今引き渡そう。だが我も首都に行く予定でな。モケモケの荷物も取ってくるから待っててくれるとありがたい」


「わ……分かりましたわ」


 フィリシェの目は強者を見る者のそれだった。


 我の方が強いことをきちんと理解しているようだな。まあ自分の最強魔法を真似され相打ちになったのだから当然か。



 我はモケモケをフィリシェに引き渡した上で一度屋敷へと戻った。


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