09 先行する第一転生者
その後もモケモケからは様々な話を聞いた。
ファンタジー的な話で言えば職能の話が興味深い。
「……職能って言葉は確かにある。けど最近はほとんど死語。戦闘職とかは今もいるけど大抵は貴族だしわたし達には関係ない。これは銃の発達が大きく関係している」
「銃があれば例え職能が村人でも騎士を倒せるという事か」
「そう。銃が出る以前は戦争は戦闘職が行うものだった。当時は人口の約一割が戦闘系の職能を持ってたみたい。剣などで戦う分には市民は彼らに太刀打ち出来なかった。でも銃が出て世界は変わった。剣技を極めた戦闘職でも銃で武装したただの村人に倒される時代がやってくる」
「職能が関係なくなっちゃったんですか?」
「そう。完全に無意味になったわけじゃないけど。銃の登場で戦闘職以外の者も戦争に加われるようになった。今では兵士の九割が非戦闘職。逆に元々の戦闘職は特権階級化が進んで多くは貴族になっている」
「魔法は貴族にしか使えないというあれか」
「うん。魔法職は特に特権化が進んだ部類。他にも戦士系の職能で貴族になってる人もいる。市民でこれらの職能を持つ者はいないわけじゃないけどすごくレア。特に魔法は特殊な教育が必要だから。……駆馬は本当に例外中の例外」
我は異世界人だからな。
だがこの世界のことはよく分かった。戦争の主役が銃に代わった時点で職能は無意味になってるわけだ。
ただ騎兵には戦闘職しかなれないそうだし指揮官もほぼ戦闘職だそうだが。まあそれも普通の国家の話でフリパラは事情が違うそうだがな。
「フリパラは貴族を殺し過ぎた。これは革命のためにはどうしても必要だったけど。でも結果として今フリパラは指揮官不足に陥っている。戦闘職はすでに尽きてて、最近は医者とか画家とか色々な人が指揮官をやってる」
「冗談にしてもひどい話です」
葉月が絶句していた。現代人の感覚からするとありえない話だからな。だがこれがフリパラの実情なのだ。これもある種当然の帰結と言えた。
絶対王政を打倒するには反対する貴族を倒さねばならないが、軍の指揮官も貴族だったのだ。それらを殺せば指揮官が足りなくなるのはむしろ必然。後はそれをどう補うかだが。
フリパラには士官学校もあるそうだからそれをメインにきちんとした補充体制を整える必要があるだろう。数少ない市民の卒業生を指揮官に使うのはもちろん、新たな指揮官の養成も急務だろうな。
他にモケモケのような議員が現場に出向いて指揮官の尻を叩いているそうなのだが、そっちも問題が多すぎる。指揮官をなんだと思っているのか。
聞くほどにフリパラの内情は問題だらけであった。
フリパラの話が端から問題しかなかったので他の話も聞いてみる。その中ではアギルスの話が興味を引いた。
アギルスは産業革命の真っただ中だがその中でも女王が異彩を放っているらしい。アギルスは立憲君主国のため王権は強くないのだが、それとは関係なしに女王が優秀らしいのだ。
「アギルスの女王エリザリアは歩く産業革命って言われてる。すごい神童で三歳から内政を始めたという逸話持ち。あと幼いころに自分は異世界から来たとか言ってて悪魔憑きとして教会に連れて行かれたらしい。その後はおかしなこと言わなくなったそうだけど。でも神童っぷりは継続してて十七歳の今では国民から神のごとく崇められているみたい」
どこをどう見ても転生者だな。ちょっと女神に確認してみる。
『確かに地球から攫われた犠牲者の一人かも知れないですね。転移じゃなくて転生な面とか駆馬さんとは違いますけど。でも駆馬さん以前にも攫われてた人がいたのは心外です』
相変わらずの駄目っぷりだった。
一応詳細の予測は出来たみたいで、エリザリアは地球で死んだ際に魂を掠め取られたのだろうということだ。生きた人間を攫うよりも発覚しづらく、それで女神も気付かなかったとのこと。
またこの場合の利点として、奪った魂をすぐ世界に吸収出来るメリットもあるそうだ。そのためこの方法で攫われた地球人はそのまま世界に吸収されるはずとのこと。
だから本来転生はありえず、その点でエリザリアは例外だろうという話しだった。地球からの転生者は他にはいないだろうという見解である。
『もしいたら彼女みたく有名になっているはずですしね』
駄女神らしからぬもっともな意見である。
だが女王エリザリアが転生者なのはほぼ確実。彼女の動向には今後注意する必要がありそうだ。
もっともエリザリアの存在はすでにやっかいなのだがな。
「……女王エリザリアの改革は本当に多岐に渡ってる。農業分野では四輪作法の採用にじゃがいもの普及、流通では蒸気機関車と自転車を発明している。自転車に使われてる丈夫なゴムも女王の勅命で開発されたって聞いてるし。彼女の功績は本当に枚挙に暇がない。……駆馬達を見た今なら確信できる。彼女はきっと駆馬達と同じ世界から来た」
「だろうな。転移と転生で事情は違うが彼女も地球出身だろう。そして思いつくことは端から実践しているようだな。女王の権力でそれをされては後から来た人間に出来ることは限られるだろう」
「……異世界からやってきても、二人目じゃもうやることがない?」
「普通ならな」
モケモケが心配そうな顔をしていた。
フリパラとアギルスは戦争中だ。つまり第一転生者の女王エリザリアは敵である。そしてエリザリアは女王の権力を最大限に使い、思いつく内政は端からこなしているようだ。
普通ならこれに対抗するのは至難だろう。
だが我らは別である。
エリザリアの改革はどれもすごいが技術的には十九世紀だ。二十世紀以降の発明は再現していない。
電気でつく照明も研究しているそうだから二十世紀を知らぬわけではないだろう。だが奴には知識が足りない。
例え二十一世紀から転生しようと一般人の持てる知識には限りがある。テレビやパソコン、自動車を異世界で再現できる人間はそう多くはないのだ。
だが我らは全てを再現できる。
我が屋敷と優秀な従者たちの力ならこの世に再現出来ぬ技術はない。最先端のロボット含めあらゆるものが製造可能だ。
先行する転生者が存在しようと我の覇道に問題はないのである。




