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08 救世主

「……胸の部分だけあまってる」


 着替えの服はひよりのものが用意されていたが、局所的にモケモケとはサイズが合わなかった。


 ひよりはEカップあるからな。モケモケはニコほどぺったんこなわけではないが膨らみかけのBカップといったところだ。


 ひよりとの間には超えられない壁があった。


 まあこの辺は仕方がない。ニコの服だと逆に胸がきついというのもありえたかも知れぬしな。


 下半身は長いスカートを用意させている。この国の女性が着る服としてはスカート丈の長い物が一般的なのだそうだ。残る問題は下着だが、こちらはつける習慣がないらしい。


「こんなのつけたらうんちの時困る」


 モケモケは一言でそう言い切った。確かに野糞の時には困るわな。そもそも野糞をするなという話だが。


 そんなごたごたがありはしたが、モケモケはひよりの服も気に入ったようだ。


「デザイン可愛いし何より縫製技術がすごい。生地も何を使ってるのか分からないくらいだし、すべすべ。すごいすべすべしてる。とにかくもうすごいと思う」


 モケモケはひよりの服を触りまくっていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 モケモケを風呂に入れたところでいよいよ事情聴取である。だがモケモケとは友好を築きたいので食事会という形を取った。


 これは異世界人とのファーストコンタクトでもあるからな。今後の外交効果を測ると言う目的もある。


 現代にも言えることだが、外交において食事は大切だ。


 これはひよりにも伝えてあり、本人も元気にはりきっていた。


 ちなみに料理はフランス料理をベースにしてある。それはこの国の気候に合わせたものだ。というかぶっちゃけるとこの国色々とフランスめいてるからな。


 少なくとも気候はほぼフランスなのでそれに合わせるのが無難だろうと言う判断だ。


「出来ました! ハムとチーズのサンドイッチに野菜のテリーヌと舌平目のムニエル、スープはブイヤベースです」


 過不足ない料理と言えるだろう。時間があればひよりはコース料理もこなせるが今は無難さの方が優先だ。


 食事は特に慣れない物に対する抵抗が大きいからな。知った味と似た物の方が良いはずなのだ。そしてその成果だが。


「おいしい。わたしはフィリシェのご飯も食べてたけどこの料理はそれに匹敵するかも知れない。……フィリシェ王族なのに。やっぱり駆馬達はすごい。野菜は食べたことない味だしムニエルもすごくおいしく出来てる」


 好評なようで何よりだ。というかモケモケ王族ともつながりがあるのか。まあその王族の料理に匹敵するならこの国でもひよりの腕は充分通用しそうだな。


 国によっては味覚が違う心配もあったがフランス料理を出せばまず問題はなさそうだ。


 そして王族の話が出たところで色々モケモケに聞いてみる。


 モケモケもうまい食事に気を良くしてか素直に話をしてくれた。内容はマレゴンの物とも合致したし事実と見てよいだろう。そして馬であるマレゴンよりモケモケの話はくわしかった。


 そのモケモケの話を総合すると、この国の深刻さがまざまざと伝わってくる。


「わたし達の敵はまず国外。いまだ王権にしがみつく六つの旧国家達。北西の島国アギルスに南西の山を越えた先にあるポスペガル王国、南の海を越えた先にある帝国オルコストンに王妃の実家でもある南東のスターリア、遠い北東の雪国ビロアに北のイセプロン。フリパラは今この六か国から包囲されてて滅亡の危機に瀕してる」


 国自体が包囲殲滅されかけてるとか前代未聞だぞ。革命の結果仕方がないとはいえ周りの国全てが敵と言うのはこれだけでもう詰んでいるとも言える。


「でも全ての国と全面戦争してるわけではない。アギルスとオルコストンはフリパラとの間に海が存在するし、山向こうのポスペガルもそこまで攻めて来てはいない。北東のビロアは単純に距離が遠すぎるし。だから今進攻が激しいのは北のイセプロンと南東のスターリア。特にスターリアは王妃の実家だから。彼女の引き渡しを強く要求してきてる。自分の娘が嫁いだ先で革命が起きたのだから彼らが一番必死かも」


 全ての国が全力で攻めて来ているわけではないようだ。モケモケの言葉通りなら目下の一番の敵はスターリアか。


 フリパラにはまだ王も王妃も残っているが、彼らは革命家達の手によって半幽閉状態にあるらしい。周り全ての国と戦うこの異常な状況もそれに端を発している。


 特にスターリアに関しては王妃が実家に助けを求めたという噂まであるらしいからな。この国の王と人民との間にはもはや修復しがたい溝が出来つつあるようだ。


「フリパラが立憲君主制に落ち着けば戦争も終わると言う人もいる。でも革命が始まってから王様とも色々あったから。王政自体がもう無理かも。わたし個人の意見で言えば苦しくてもこの国は共和国になるべき」


 モケモケの意見はフリパラの一般市民と似た物だろう。順当にいけばフリパラでは王政自体がなくなるわけだ。そしてその際には各王国との対外戦争もより激しくなることが予想される。


 だが逆に言えば今はまだ最悪ではないということだ。状況はかなり絶望的だがこれだけならまだなんとかなるが。


「次に国内の王党派。本気で来てない外国の軍隊よりある意味こっちの方がやばい。彼らは絶対王政の復活を求めて各地で反乱を起こしてる。さらにアギルスを筆頭に外国もこれを支援している。これを鎮圧しないと対外戦争もままならない」


 泣きっ面に蜂と言ったところだな。だがこれは不思議じゃない。周りの国全てと交戦状態にあって今にも滅びそうな国なのだ。国内が不安定になるのも当然である。


 しかも革命によって政変が起きてる真っ最中であるからな。これで内戦が起きない方が無理がある。


 ただ状況としては最悪だ。このフリパラは正に絶体絶命の危機に瀕している。


「……この国は救世主を必要としている。革命政府には優れた人が大勢いるけど、この国は議会でさえ混乱している。……議長のスピドールは清廉潔白な人物だけどやり方が甘い。今のこの国には……もっと強い人が要る。わたしは駆馬が……フリパラの救世主になってくれたらって思う」


 モケモケの籠絡は完遂したと言えるだろう。だがこれは我やモケモケがどうこうよりこの国の状況による所が大きい。


 国家が滅亡の危機に瀕している今、モケモケ達は藁にもすがりたい思いなのだ。だから異世界から来た我にさえ国の未来を夢見てしまう。


 今のこの国の状況はフランス革命に酷似してると言えるだろう。


 だがフランス革命は結果として失敗に終わった。最後にはナポレオンという皇帝、独裁者を生んだのだ。この国もこのまま行けばそうなる確率が非常に高い。


 そしてその事実は我にとって実に好都合なことだった。


 つまり我がナポレオンになってしまえばいい。そうすれば国を丸ごととれる。


 それが成った時モケモケには辛い思いをさせるだろうがな。


 だが我は誰かの下に甘んじる人間ではないのだ。そもそもそんな状況で出来ることなどたかが知れてる。


 地球の技術を持っていれば異世界でなんでも出来るわけではない。異世界でことを成すには多くの条件が必要となる。そしてその条件にもっとも合致するのが、悲しいが独裁者となることであるのだ。


 だから我はこの道を突き進む。


 モケモケ達が望むなら我は喜んで救世主となろう。ナポレオンもある面では革命の救世主であったのだからな。


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