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07 少女とお風呂②

 我はモケモケと二人でゆっくりとシャワーを浴び、湯船の中へと体を沈める。


 モケモケの汚れは石鹸を使ってないため全て落ちたわけではないが、それは湯船に浸かった後で綺麗に落としてやればよい。


「……湯船の中もあったかい」


 モケモケもすごく気持ちが良さそうだ。


 我が家の湯船は広いためモケモケは我と向かい合って湯船に浸かっている。鼻から上だけを水面から出しており可愛い感じになっていた。


「もっと熱いのかとも思ったけどこのお湯はちょうどいいくらい。冷水浴は心身が引き締まるけど、このお風呂は心も体もとろけそう」


 生まれて初めての温浴はそうとう気持ちが良いようだ。


「健康には二、三十分浸かっていた方が良いのだが熱くなったら言ってくれ。無理する必要はないからな」


「うん」


 我はモケモケが無理しないよう注意深く見つめていた。モケモケも真っ直ぐに我を見つめ頬を赤く染めている。


「……ちょっと熱くなって来たかも」


 湯船に入ったのは十分程度だが初めてにしては十分だろう。我は先に湯船を上がりモケモケの手を引いてやる。


「ふらつかないよう気を付けてな」


「うん」


 初めての湯船でぽーっとしているモケモケを引っ張り椅子の上へと座らせた。


「?」


 モケモケはボーっとした顔で我を眺めている。状況が分かってないのだろう。多分モケモケは体を洗い終わっていると勘違いしている。


「これからが本番だぞモケモケよ」


「……本番?」


 やはり頭が回ってないようだ。仕方ないので実際に石鹸を見せてやる。ボディーソープもあるがこちらの方が分かりやすいだろう。


「石鹸」


「そうだ。石鹸はやはりあるようだな。問題なければこれで洗うぞ」


「うん」


 モケモケの前で石鹸を泡立ててやる。モケモケは熱心にその様子を眺めていた。


「すごくいい香りがする。石鹸に関してはフリパラも進んでると思ってたけど、その石鹸はフリパラが誇る王家の石鹸に匹敵するかも知れない」


 聞くとこの国における石鹸の品質は高いようだ。オリーブオイルを使った無添加石鹸があるらしい。実物を見なくては分からぬが地球の物と比べても遜色ないものやも知れぬ。


 もっとも手作りの為値段は高く、普段体を洗うのに石鹸を使う人間はほとんどいないそうだが。


「わたし達にはそもそも入浴する習慣がないから。この国で毎日お風呂に入ってたのは隣国から嫁いできた王妃くらい。……他国だとアギルスの女王も同じくらい入ってるそうだけど。わたし達の国では浪費家としてどちらもすごく嫌われてる」


 この国の民にとって贅沢な入浴は敵視されてるようだ。一般庶民に入浴の習慣をつけさせるのには苦労するかも知れないな。


 体を洗う気持ち良さを知ってもらえればよいのだが。


 まあまずは出来るところからだ。第一号としてまずモケモケに風呂の良さを教えてやらねばな。



 我は泡立てた石鹸を両手につけ、丁寧にモケモケの体を洗ってやる。


「……ん。すごい……気持ちいい。暖かいお風呂に入るのも、石鹸で体洗われるのも……こんなに気持ちがいいとは知らなかった」


「ふふふ。もっと気持ち良くなって良いのだぞモケモケよ」


 体を洗うついでにマッサージ的なものも施しているからな。今まで経験したこともない気持ち良さであろう。



 我が丁寧に全身を洗ってやると、モケモケはくてっとなってしまっていた。


「男の人とお風呂に入って……すごく気持ちよくなってしまった。……わたしはもう革命になれない」


 訳のわからないことを言っている。


 だがモケモケはすぐに気を持ち直し、今度は我を洗ってくれるというので全身くまなく洗ってもらった。


 なかなか良い手つきだったと言っておこう。



 その後脱衣所で体を拭きながらモケモケに感想を聞いてみた。


「すごく体がポカポカしてる。温浴は体に悪いとか贅沢の極みとか言われてるけど、綺麗な水で出来るなら悪くないのかも知れない。……駆馬達がこんな綺麗な水を大量に消費しているのは気になるけれど」


 この国には石鹸があっても入浴の習慣がない。それはやはり水に関係しているようだ。


 川で洗濯する習慣はあるそうだが、その川の水を風呂に使うことはないという。みんなが洗濯に使っている水で風呂に入るのはどうかという話であるしな。それこそ有害物質が皮膚から浸透しそうな物だ。


 王妃の方は当然飲めるくらいの水で風呂に入っていたそうだが、そういう水はこの国ではとても貴重らしい。


 つまりこの国には綺麗な水が圧倒的に足りないということだ。この辺はモケモケにも説明が必要だろう。


「先に種明かししておくと我らは水を捨ててはいない。水を浄化するすべを持っているのだ。この技術により我々は清潔な水を大量に使えるようになっている。大規模な設備が必要ではあるが、この国が我の提案を受け入れるなら川の水を飲めるほど綺麗にするのも不可能なことではない」


「……本当に駆馬は夢のような話をする。駆馬と話すと心に希望が満ちてくる」


 モケモケは尊敬の眼差しで我を見つめていた。



 この国の革命は決してうまくいってはいないらしい。苦しい戦いが続く中、精神的な疲労もかなりたまっているのだろう。人間、覚悟や信念だけで戦うには限度というのがある。生きるには希望が必要なのだ。


 その希望をモケモケは我に見い出し始めているようだった。



 おおむね我の計画通りである。


 モケモケはこの国の国会議員にあたる地位を持っている。政界とのパイプとして有用だ。


 絶対王政を打破すれば権力はモケモケ達議員が握ることとなる。その議員とつながりを持っておくことは、我が表舞台へと出る役に立つであろう。


 我はモケモケからの好意に大きな満足を感じていた。


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