06 少女とお風呂①
我はモケモケと二人で脱衣所へと入って行った。そこまで距離は歩いてないが、この道のりでもモケモケは色々と驚いている。
「本当にすごい。……どこも汚れ一つついてないし、一つもうんちが落ちてない。屋根も床も壁も窓も、みんな見たことないくらいに綺麗。装飾は貴族ほど豪華じゃないけど洗練されてて好感がもてる」
どうやら我が家を気に入ってはもらえたようだ。
そして脱衣所で電気をつけるとモケモケは再び驚いた。
「すごく明るい。一瞬でついたしロウソクの灯りとも全然違う。アギルスで実用化されたっていうガス灯とも違うし、これも駆馬の世界の魔法?」
「魔法とは少し違うな。LED電球だ。電気を使った照明なのだがこの説明で理解できるか?」
「電気。……電気でつく照明もアギルスで研究されてるとは聞いた。でも実用化はアギルスでもまだのはず。やっぱり駆馬達はすごい。本当に技術の進んだ異世界から来たんだ」
我が異世界から来たというのもだいぶ信じてきたようだ。
そしてここで、とどめとなる奴がやってくる。コネクトームだ。
「申し訳ありません駆馬王子。エリクサー計画のため席をはずしておりました。マスターが面白そうな銃を持って来ましたが。ああ、その少女が持ち主ですね。初めまして。私はコネクトームと申します」
「……は、はじめまして」
モケモケが完全に固まった。
やはり人型ロボットのインパクトは大きいな。マレゴンのように漏らしてしまうと困るので早めに説明してやるか。
「モケモケよ。こいつは機械人形だ。コネクトーム自身はAIだがその辺はまだ理解しなくてよい」
「う、うん。……すごいのだけは分かった。こんなに自然な動きする機械人形は生まれて初めて。ビスクドールとしてはデザインがどうかと思うけど。でも無駄のない洗練されてたデザインにも見える。……慣れるまで時間かかりそうだけど」
クラフトロイドの見た目は異世界人には刺激が強いらしい。日本の二足歩行型ロボットとしてはよくある見た目だが人とはだいぶ離れているからな。
だがまあ、異世界の証明としてはもっとも効果的だろう。
「その少女は服が汚れているようですね。お風呂に入るのでしたら洗濯もしておきましょうか? 替えの服がないですが」
「ああ。服についてはニコかひよりと相談してくれ。それと生地の強度に不安があるから洗濯は注意しておこなってくれよ」
「かしこまりました。洗濯ものはかごの中に入れておいてくださいね」
そう言ってコネクトームは離れていった。
「……今のは本当にすごかった。言葉も話すし歩いてるし。……あれで見た目が完璧なら人間と区別がつかないかも」
コネクトームは機械が知的かどうかを判定するチューリングテストもパスするからな。モケモケはある意味奴の本質を見たのかも知れぬ。
「さてと。我等が異世界人なのも十分理解出来ただろうし、風呂に入って綺麗になるか」
「う、うん……」
モケモケが少し恥ずかしそうだ。
男と一緒に入るのだからな。普通に葉月と入った方が良かったと思うのだが。だがもじもじしつつもモケモケは自ら服を脱いでいく。
うむ。モケモケは服の中身も素晴らしい。やはり汚れは目に付くが。
「素晴らしく綺麗だぞモケモケよ。これからさらに綺麗にしてやるがやはり素晴らしいものを持っている」
「……そんなに褒められると恥ずかしい」
やはりモケモケはもじもじしていた。一番大事な所はうんこの時すでに見ているのだが。だがあの時とは状況が違うからな。極限状態でなければやはりモケモケも恥ずかしいようだ。
恥ずかしがりつつも隠さない辺りは実に好感の持てるものだが。
そしてモケモケはもじもじしつつも我の体をじっと見ていた。
「駆馬の体……やっぱり本当に綺麗。少しも汚れがついてないし筋肉も引き締まってる。ご立派。他の男の人とは全然違う」
「どうやら我の裸体に見惚れてしまったようだな」
「うん……」
まったく正直な少女である。モケモケのこういう所は実に好感の持てるところだな。我もはりきってモケモケを綺麗にしてやろう。
いよいよ風呂場の中へと入っていく。
「お風呂も綺麗。タイルが敷き詰められててすごく清潔。ここで駆馬に洗われると思うと少し恥ずかしい」
我に洗われること前提なのか。まあ我もそのつもりであるのだが。
そもそもモケモケは冷水浴といっていたのでこういう風呂は初めてだろうからな。洗い方から教えてやる必要があるのだ。
というわけでまずはシャワーからなのだが、当てる前にどういう物か見せてやらねばな。
我は蛇口をひねってシャワーからお湯を出しモケモケへと見せてやる。が、モケモケもシャワーの存在は知っていたようだ。
「知識でだけど。アギルスで女王が発明したって聞いてる。アギルスの女王は革新的な発明をたくさんしてるけど、お風呂とトイレには特にこだわりがあるみたい。少し駆馬達と似てるかも知れない」
モケモケと話して感じることだがやはりアギルスの進歩はすごいようだな。これについては後でくわしく聞くとしよう。
「でも本物は見るの初めてだから、使い方を教えて欲しい」
シャワーに使い方も何もないような物だが。まあ実践形式で一緒に入ってやるとする。
「あったかい。シャワーは生まれて初めてだけどこれは気持ちいいかも知れない。でもあたたかい水は毛穴が開くから有害物質が心配だけど」
やはり有害物質か。衛生観念の差を感じるな。だがモケモケにはこれに慣れてもらいたいものだ。
「確かに毛穴が開けばそこから水も入るだろう。だがモケモケよ。この水に有害物質が含まれていると思うか? 我らの技術は衛生面で特に優れている。この水は飲んでも問題ないものだ。つまり毛穴から侵入しても問題ない」
我が説明するとモケモケはすぐに納得した。あとシャワーのお湯を舐めている。
「うん……この水もおいしい。本当に駆馬達は違う。こんな綺麗な水だったら浴びてもいいのもよく分かる。わたし達もこんな綺麗な水使える日がくるといいけれど」
モケモケは少し寂しそうな顔をしていた。
清潔な水をシャワーに使うこと自体、モケモケから見れば非常に贅沢なことなのだろう。
「我はこの世界に来たばかりだが技術を出す用意はあるぞ。どう出すかは我が決めるがな。そしてこと衛生面に関しては出し惜しみするつもりはない。この国が我を受け入れるのならば、清潔な水を使える環境をこの国にももたらしてやろう」
「!! ……本当に?」
モケモケが驚いた顔で我を見る。その目は期待に満ちていた。
もちろん嘘など言っていない。綺麗な水さえない世界での生活など我自身が我慢出来ないからな。
ただ我が技術を放出する段階でこの国が誰のものになっているかは分からぬが。
「駆馬がわたし達の国もこんな風にしてくれるのなら、わたしはすごく、すごく嬉しい。……わたし達の国は駆馬から見れば遅れてると思うけど、わたし達は革命をしてるから。この革命さえ終わったら、わたし達の国も駆馬のいた国みたく民主国家に生まれ変わる。……だから駆馬がもし嫌じゃなかったら、わたし達の革命を手伝って欲しい」
「そうだな。考えてやらぬこともない」
「うん……いい返事を期待してる」
モケモケは……悪い娘ではないのだろう。国を憂える志士と言える。絶対王政を倒すこと自体悪いことではないわけだしな。
ただし、その結果幸せな未来が待ってるとは限らないのが世の常なのだが。
まあその辺りについては今後の動静次第だろう。このフリパラの状況を我自身が知らぬのだから今どうこう言う話でもない。
そしてそれらを知るためにもモケモケと行動を共にするのは良さそうだ。
そうした未来を見据えたうえでも、やはりモケモケとは友好的な関係を築くべきだろう。
というわけで、今はお風呂でもっと気持ちよくなってもらうべきであるな。




