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02 うんちと少女

「違う……わたしはやってない」


 すかさず少女が反撃してくる。だが我は追撃をやめなかった。


「ほう、あくまでしらを切り通すのか。ではまずその場で立ってみろ」


 我が命じると少女は一瞬躊躇する。だが観念したのかその場でゆっくりと立ち上がった。


 少女の下に液状のうんちが広がっている。出したてであることを主張するようにかすかに湯気まで立っていた。


 下痢だな。


「……勘違いをしてはいけない」


 再び少女が反論してきた。


「確かにここにうんちはあった。でもこれがわたしの物とは確定してない。この状況だけでわたしが犯人だと決め付けるのは時期尚早」


 あくまで反論する気のようだ。だがこのほかほかうんちが少女の物でないのなら、彼女は他人のほかほかうんちの上に座り込んでいたことになる。


「……ごめんやっぱり嘘。これはわたしが出しました」


 少女も自分で気付いたようである。


「うむ。我は別に責めようとしているわけではない。ここは草原であるわけだしな。うんちも自然に還るだろう。それより少女よ、貴様もう尻は拭いたのか?」


「……少女じゃない。モケモケ。十八歳。お尻を拭く予定はない」


 拭けよ。


 衛生観念のひどい少女である。


「勘違いをしないで欲しい」


 少女はさらに反論してきた。


「ずっとこのままなわけではない。村にはビデがないけれど戻ったらちゃんと洗浄する」


 衛生観念が全くないわけではなかったようだ。


 ビデというのは水をためて局部を洗うための設備だな。ヨーロッパで風呂やトイレが普及する前に性器や肛門を洗うために生まれたものだ。


 村にはないと言っているが桶くらいはあるだろうからな。水をためて手で洗うのだろう。もしかすると石鹸もあるやも知れぬ。排便の後水できちんと洗うのなら紙で拭くだけよりむしろ衛生的とさえ言えるか。


 うむ、それならなんの問題もないな。


 だがモケモケよ。貴様は有罪(ギルティ)だ。村までうんこついたまま歩くのはどうかと思うぞ。


 仕方がないので我は少女にポケットティッシュを手渡してやる。


「モケモケとやらよ。この紙で尻を拭くが良い。村までそのままでは汚いからな」


 だが少女はティッシュを受け取ったまま固まってしまった。



 ただのポケットティッシュと言っても地球の技術の塊だ。


 この異世界が地球の十九世紀相当だとしてもプラスチックはないはずだからな。まずポケットティッシュを包装しているビニールにモケモケは驚いていた。後で感想を聞かせてもらうか。


 だがその前にまずは尻だ。とにかく尻を拭いて欲しい。


 だがモケモケの反応は予想外のものだった。


「……出来ない」


「なぜだ?」


「この紙はあまりに品質が良すぎる。こんな真っ白な紙わたしは今まで見たことない。すごい。それをうんこ拭くのに使うだなんて。こんな上質な紙でうんこ拭くなんてもったいなさすぎてわたしには出来ない。この紙は宝物としてわたしにくれるとすごく嬉しい」


 なるほどな。


 予想通り紙は存在するようだが品質に差があるということだ。また大量生産もあまり進んでないわけだな。


 この異世界にトイレがあるかもまだ謎だが、紙で尻を拭く文化が定着するには紙の量が圧倒的に足りないと言うわけだ。


 まあそんなこと関係なしに尻は拭いて欲しいのだが。モケモケの反応を見ると少し難しそうだ。


 ここは次の手を考えるしかないか。


 幸い尻を洗う文化は存在するのだ。タライと水を出してやろう。


「よしモケモケとやら、その紙で尻を拭く必要はない。今から水を出してやる。少し待っていろ」


 我は一度モケモケに背を向け見えないようにアイテムボックスからタライを取り出す。


「……その桶一体どこから出した?」


「魔法だ」


 いぶかしがるモケモケを無視して我は魔法で水を出す。その様子にモケモケは驚きの表情を見せた。


「……やっぱり貴族。上質な紙を持ってた時点であやしかったけどこれで貴族が確定した。魔法は貴族しか使えないから」


 これは初耳事項だな。我は横目でマレゴンを見るが彼も知ってはなかったようだ。大事な所が抜けてる馬である。


 だが村に入る前に気付けたのは幸いだった。モケモケには後で色々聞かせてもらおう。


「その辺は後で話すとしてまずはとにかく尻を洗え。っと、少し場所を移動した方が良いな。ずっとうんこの上に立っているのもアレだろう」


 我らはモケモケのうんこから十歩ほど移動して場所を変え、そこで改めてモケモケを座らせる。


「我はしばらく後ろを向いておくからその間に尻を洗うが良い」


 何より尻が優先だからな。これでやっとで話が進められると我は思っていたのだが。


「……出来ない」


「なぜだ?」


「この水はあまりに水質が良すぎる。すごい。こんなに透明な水わたしは生まれて初めてみる。……こんな綺麗な水うんこ拭くのに使えない。こんなに透き通った水は王族のフィリシェだって飲――」


「いいからやれ」


 面倒なのでもう押し通した。


 確かに水も貴重だろう。ヨーロッパなどは近代までトイレもなかったそうだがそれは水がなかったのが大きな原因だ。より正確に言うと清潔な水が足りなかった。


 この異世界もまさにそうなのであろう。ビデがあるだけマシだがトイレや風呂はまだ普及してないのかも知れない。


「……こんなにおいしい水なのに。……こんなおいしいお水でお尻洗うとなんだかいけないことしてる気持ちになる」


 飲むな。いいから早く尻を洗え。


 そうして我は少女が尻を洗うのを待っていたのだが、ふいに少女の気配が変わるのを感じ取る。


 我はゆっくりと少女の方を振り返った。



「小型のマスケットピストルか。火打石式。火縄銃よりは進んでいるようだが」


「……マスケット銃の命中率は低いけどこの距離だったらまず当たる。……あなたが何者か聞かせて欲しい。革命派の貴族は少ないけどわたしはあなたの顔を知らない。……王党派ならあなたを逃がすわけにはいかない。でも水はありがとう、すごくおいしかった」


 このモケモケ、ただの少女じゃなかったようだ。


 だがモケモケよ。股を開いたままで色々見えてしまっているぞ。まあこの非常時だ。それは百歩譲って構わぬのだが。


 まだ太ももにうんこがついてるぞ。


 わざわざ銃を構え終わるまで待ってやったのになぜ綺麗に洗い終わっておらん。


「モケモケよ。話はしてやるからうんこをきちんと洗え。まだ右のふとももに残っているぞ」


「……分かった」


 張りつめた空気を漂わせたまま、我はモケモケが太ももを洗い終えるのを待ってやる。


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