11 空竜
「確かにそなたには強き力を感じる。だがあれは空竜だぞ! 海竜・陸竜を含む三種の竜種の中でも最強の種族。この世界にあれより強い生物など存在しないのだ。しかもそなたは武器らしい武器さえ持っておらぬではないか。私より強い魔力は感じるが、空竜の力はそれをも凌ぐぞ」
馬が必死に力説してくる。
確かに空竜とやらの魔力はこの場からでも感じ取れた。だがその魔力の感じからして勝てぬ相手とは思えぬのだよな。一応念のため鑑定でもしてみるか。
『どうだ駄女神。馬は勝てぬと言っているが、あの竜はそんなに強いのか?』
『強いですよそりゃドラゴンですから。でも駆馬さんの敵じゃないですね。皆さんには女神ちゃんが与えうるMAXの力を与えてますから。この世界の神自身でも出てこない限り勝てない相手はないですよー』
女神からも勝てるとお墨付きをもらう。
危険は早めに排除するに限るからな。相手が力が全ての脳筋なら少し痛い目にあってもらおう。
「ライトソード・サウザンドを使う。少し離れていろ玄庵よ」
「ここから攻撃するのですか?」
「うむ。あの竜は十分射程内だ。どうせやるなら先制攻撃。力の差を教えてやった方が良いだろう。ああそれと空飛ぶ馬よ。我は今からあの竜を倒す気だが我を止めるか?」
一応馬に確認を取る。こいつは知能が高いしな。どちらかというと我らの方が加害者であるし、無益な殺生はしたくない。
「強き人間よ。本気であるなら私は止めぬ。私の力でそなたを止められるとも思わぬしな」
「よし、では適度に離れていろ。最大出力で魔法を放つぞ。ライトソードの詠唱を始める」
我はライトソード・サウザンドの詠唱に入った。工程一つ一つに念入りに魔力を込めて剣一本ずつの強度を上げる。
数は千本より増やさぬが剣そのものの威力を上げるのだ。
我の周りにまばゆい光を放つ千本の剣がずらりとならぶ。
「ではやるぞ。ライトソードサウザンド・ホーミングシュート!」
千本の光の剣が空竜めがけて飛翔した。
魔法に気付いた空竜が回避を試みる。いくら空飛ぶ竜とはいえ千本の光剣の前にはさすがに危機を感じたのだろう。
だが遅い。
我は千本の剣に特殊な動きはさせていない。だが乱れ飛ぶ光の剣達は単純な速さのみで竜との距離を詰めていく。
このまま千本の光剣で串刺しにすればさすがの竜でも倒れるだろう。だが我に向かって来たわけでもない者をいきなり殺すのはやりすぎだからな。
我は光剣の軌道を少し変え、空竜の皮をそぎ落とすように剣で表皮を切り裂いていく。
二百本ほど剣を当てたところで竜が軌道を下げ始めたため我はサウザンドをキャンセルした。
「……世界最強の生物である空竜をこうも一方的に……馬鹿な、ありえぬ。これは人間を遥かに超越した所業だ」
馬ががくがく震えていた。恐怖のあまりに小便まで漏らしている。
うむ。こいつが馬で良かった。ズボンを穿いていたら悲惨なことになってるところだ。あとこいつどうやらオスのようだな。すごくどうでもよいことであるが。
我は空竜が地面に落ちたのを確認した後、漏らし続ける馬に話しかけた。
「これからあの竜の所に行く。そこまで我と玄庵を乗せてくれるか?」
ペガサスの小便が止まった。
「きょ、拒否権は……」
「ない」
馬がちょっとかわいそうだったが我と玄庵を運んでもらう。
空竜とやらは山の中腹の岩場に横たわっていた。致命傷は与えてないはずだが百か所以上切っている。出血量はそこそこだ。後でひよりに治療させる必要がありそうだな。
「……吾輩に魔法を放ったのは貴様か?」
竜が話しかけてくる。会話できるだけの知能はあるようで良かった。
「うむ。この馬が貴様は脳筋だと言っていたのでな。話の前に倒させてもらった。一応理由づけをするのなら、我らの放ったドローンを貴様が落としたのがまずかったな。先に攻撃を仕掛けたのは貴様の方だ」
「ひどい理屈だ。……だが吾輩は負けた。それが事実。どうとでも好きにするがいい」
力が全てといっていたペガサスの言葉は事実だったようだ。まあ自然界の掟と言えばそうだしな。
なので我の要求を竜に伝える。
「ではこんな頼み方ですまないが、この森への我らの居住を許可してもらおうか」
我は手短に要求を述べた。
しばしの沈黙が訪れる。
しばらくして空竜が口を開いた。
「……それだけ?」
「うむ。それだけだ。いや、川から水も少し引かせてもらうか。だが今のところ他にはない。森を伐採する気もないしな。この付近は自然も豊かなようだし基本的に手を入れるつもりはない」
これは事実だ。
我らにとって深い森の中は都合が良い。人里から身を隠せるわけだからな。そのためこの領域を開拓するつもりはないのだ。加えて言うとその関係でこの空竜にも生きていて欲しい。人避けとして森を守ってもらいたいからな。
そのようなことを我は空竜に説明した。
「分かった。全面的に従おう。そもそも吾輩は負けたのだ。そなたに永遠の忠誠を誓う」
なんか重いことを言ってくる竜である。
「うむ。その忠義快く受けようぞ。必要な時はそなたの巣を訪ねるゆえ、その際には存分に力を振るってもらおう。だがその前に怪我を治療せねばなるまいな。術者を連れてくるのでここで少し待っていろ」
竜にはだいぶダメージを与えてしまった。死なれても困るのでひよりに治療してもらう。
「また私の背にのるのだな。あの家までは少し時間がかかるが」
「いやいい」
我は馬の厚意を断った。屋敷はすでに知っている場所である。一度いったことのある場所であれば無属性魔法が使える。
我は|《七 光》《セブンスライト》の選択画面から転移魔法を発動させた。
が、失敗。
すぐさま鑑定を起動して女神を問い詰める。
『スキルに失敗したのだが』
『神聖結界の効果ですね。ひよりちゃんは悪意を弾くって言ってましたけど魔法は全部駄目ですよ。そもそも転移魔法を使う人自体に敵意がなくても一緒に悪い人ついてきたりしたら困りますよね?』
確かに女神の言う通り。
そもそも魔法が全て攻撃として判定されているのだろう。ここはむしろ転移も防ぐ神聖結界の能力を褒めてやるべきところだな。
そういうわけで、我は一旦結界の外へと転移した上でひよりを空竜に引き合わせた。
ニコが竜を見たいと言い出したので、ニコとついでに葉月も連れて来ている。
「うおー。マジだー。竜だな。真っ赤で鱗だー。おっさん火ーとか吐けるのかー? ドラゴンブレスを見せてくれー」
空竜は煩わしそうにしていたが我が命じてブレスを吐かせた。竜の口から放たれる真っ赤な業火にニコが目を輝かせている。
「本当にドラゴンなのですね。そしてそれを一撃で倒してしまわれるとは。さすがは駆馬様でございます。わたくしでは倒すのに恐らく一時間はかかったでしょう」
うむ、その通りだな。葉月もたいがいなので空竜は倒せただろう。時間がかかるのは地上から迎撃するためだな。空竜が空を飛びさえしなければより一方的に葉月が勝つ。
その葉月の強さは竜や馬にも感じ取れたようでかなりびびっているようだった。
「終わりました。傷の数は多いですけど全部軽傷でしたから。すっかり元通りですよ」
治療を終えて空竜は巣へと帰っていく。ドローンを落とさぬようにも伝えてあるのでこれで問題も解決だ。
こうして我らは壊れたドローンを回収し、ペガサスを連れて家へと帰った。
「なぜ私は連れていかれるのだ」
ペガサスが全力で嫌そうな顔をしていたが。貴様にはまだ聞きたいことがあるのだよ。




