09 転移の真相
うざいポップアップを見た時から嫌な予感はしていたが、やっぱりこいつ駄女神である。
『かかかかか、神様と私は関係ないですよー。私は鑑定ちゃんなんですー。女神ちゃんとは違うんですー。女神ちゃんはとっても偉い神様だからこんな暇なことしないんですよー』
なぜ自らの存在を偽装しようとするのかこの駄女神は。そもそもお前は暇だろ多分。女神だなんだと言っていたが、全知全能の唯一神などではなかったはずだ。
一体なんの神だったかはすっかり忘れてしまったが。
『忘れないでください駆馬さん! 私はトイレの神様ですよ! 厠神《弥都波埴安 紫姑便所》。八百万の神の中でもすっごく徳の高い神様なんですよー!』
確かそんな神様だったな。名前が混じりすぎてて胡散臭さ全開だった記憶がある。そしてやっぱりこいつが駄女神本人であることも確認完了。
駄女神の思わぬ再登場に頭を抱えたくなってしまうな。
だがこれは我にとって悪いことばかりではない。きちんと確認出来てなかったことをこいつに問い詰めるいい機会である。
我は頭の中で駄女神に話しかけた。
『丁度良い機会だ駄女神よ。無意識的に確認を拒否されていたことを聞かせてもらおう。まずは我らをこの世界に飛ばした目的だ。異世界転移における目的。本来真っ先に質問されるべきこの項目を我は尋ねた覚えがない。今は聞けるようであるからな。いい加減に教えてもらおうか?』
今考えればとても信じられないことだが、この駄女神、なんと目的も告げずに我らを転移させている。
当然我が問い詰めなかったことも不自然だ。精神誘導の類だろう。
まあそんなこと今はどうでもいい。それより転移の理由である。それすら分からぬままでは何をするにも気持ちが悪い。
『さあ、答えてもらおうか。貴様の思い通りに我が動くかは別問題だが目的があるならそれを伝えぬ理由こそあるまい』
もはやこいつが女神本人であるかも問題ではない。鑑定が何かを示す能力ならその能力の延長として情報を開示する形でもよいだろう。
むしろ後出しで目的を伝えるためにこのような珍スキルがついているとも言える。我がこの場でこの質問を投げかけるのはもはや必然とさえ言えた。
だが……。
一向に返事が返ってくる気配がない。
『おい駄女神。いや鑑定ちゃん。どっちでもいいから質問に答えてくれないか? 我とて今さら地球に帰せなどとは言わぬ。怒らないからとにかく正直に話してみろ』
そして再び沈黙である。だがしばらくしてやっとで駄女神が口を開いた。
『……です』
ん?
『……なんですぅ』
はっきり言って聞こえない。テレパシーでは姿がないから近寄ることも出来んぞ駄女神が。
『理由は特にないんですー! ていうか転移自体ホントは女神ちゃんの意志じゃないんですー。こっちの世界の神が駆馬さんのこと引っ張ったんですよー! 止める暇もなく肉体は先に飛ばされちゃうし、なんとか精神だけおしとどめて色々加護をくっつけたんですー』
驚愕の事実である。
だがこの話が事実ならこの女神は主犯でもなんでもない。むしろ強制転移されかけていた我に加護を与えた支援者になる。
なぜわざわざそれを隠していたのか。
『だって……駆馬さんが女神ちゃんのこと駄目神とか言うから』
うむ。確かに駄女神は確定だな。
この世界の神がどれだけすごいのか知らぬが、駄女神からすれば異世界の神に自分の世界の人間を一方的に連れ去られたのだ。それを防げなかった能力の欠如は確定だろう。
だが我に言わせれば主犯より遥かにマシなのだが。
馬鹿にされたくなくてそんな大事な事実を隠していたとか。この駄女神の駄目さ加減は我の常識の外を行く。
だがまあ……だいぶ我の心はすっきりしたな。
『悪かったな駄女神よ。お前が駄目なのはこれで確定したが、もう我はお前に敵意はない。むしろ手を貸してくれて感謝さえしている。その上で教えて欲しいのだが、真の主犯が我を呼んだ目的、それには心当たりがあるか?』
主犯がこの異世界の神と分かった今、倒すべき相手もそいつであるということだ。そしてこの世界の神を倒す前に、そいつの目的はやはり知っておかねばならないからな。
『……一番可能性が高いのは魂の吸収です。駆馬さんの魂には異常な容量がありましたから。それをこの世界に取り込むことで、世界そのものの活性化を目指した可能性があります。つまり駆馬さんをこの世界に取り込むこと自体が目的ですね。その場合この世界の神の目的は既に達成されてるわけですけど……』
『けど、なんだ?』
『その場合、駆馬さんの生存自体は不必要なんです。逆に駆馬さんの魂を完全に取り込むには駆馬さんが死ぬ必要があります。そうして肉体の枷からはずれた魂を世界全体に吸収するんです。ですのでこれが目的だと、駆馬さんはこの世界の神に命を狙われる危険性があります』
『そうか……』
話がだいぶ見えてきた。この駄女神が我に真実を告げなかった理由も含めてな。
この異世界の神に命を狙われる。それはほぼ確実な死を意味するだろう。つまり我に真実を告げるという事は、あなたは死んでしまいますと言うのに等しいのだ。
その真実を言い出せずにこの女神はグズグズしていたのだろう。
我らに与えられた豊富すぎる加護もこの異世界の神から守るためなら納得である。
この駄女神は駄女神なりに、色々考えていたのだろう。
『となるとあれか。この鑑定というには全くそぐわない会話スキルも、お前自身がこの世界を知るためという意味もあるわけか』
『……その通りです駆馬さん。正直言って私がこの異世界について知ってることは多くありません。この世界の神についても同様です。目的だって、駆馬さんの殺害が含まれているかも確定してはいないんです。こんな不明瞭な状態で駆馬さんを送り出すのは私の本意ではありませんでした。本当はこのお話をする前に、せめて相手の目的くらいは探っていたかったのですが……』
まったくだ。どこまでもこの駄女神は駄女神である。
転移を止められなかったのは確かにこいつの落ち度かも知れない。だが仮にそうだとしてもこいつは主犯でもなんでもない。
なのにこの駄女神は勝手に全ての責任を感じ、我に事実を隠したまま一人でなんとかしようとしていたのだ。
恐らく可能であるのなら、我に知られぬまま問題を解決する手立ても用意していたのだろう。
本当に……こいつはどこまでも度し難い馬鹿女神なのである。
我はあらためてこの愚かな女神に話しかけた。
『すべて分かった。だがその上で言わせてもらうぞ厠神シコフールよ。我は決して死にはせん。だから我に対して何か落ち度を感じるのなら、この程度のことを隠していたことこそを恥じるがよい。後は地球最高の存在である我の手を借りずに問題を解決出来ると思っていたことなどをな!』
『……そうですね。駆馬さんはそういう人だと分かってました。真実を話すのが遅くなってごめんなさい。……状況はとても悪いです。主犯はこの異世界の神であり、私達には情報が圧倒的に不足しています。でも駆馬さんならこの過酷な運命にも打ち勝ってくれると信じています。私も異世界に対して行使できる力は少ないですが、全力でサポートさせていただきます』
我はこの女神に対してずっと不信感を抱いていた。それは彼女が我に対して事実を隠していたからだ。だがそれが解消された今、少しは信じてやってもよいかと思う。
ただし我のこの女神に対する評価は完全に駄女神で固定されたが。
『それで駆馬さん……あなたはこれからどうするつもりなのですか?』
駄女神が我に尋ねてくる。それに対する我の答えは明確だった。
『特に何も変わらぬな。我は好きなように生きるだけだ。主犯がこの世界の神と分かっても、相手の姿もどこにいるかも分からぬのだからな』
むしろ主犯が駄女神ではないと分かったからこそ、我は好き勝手するとも言える。たとえ異世界の神だろうと我にとってはただの誘拐犯。そんな奴のために生き方を変える必要など全くないのだからな。
『だが我が好きに生きるということはこの異世界に途轍もない革命が起きるという事だ。我はそれだけの存在であるのだからな。仮にこの世界の神の目的が達成されていようとも、いずれ我の存在を見過ごすことが出来なくなるだろう。必ず出てくる。その時には相手の正体も見えてくるはずだ」
好きに生きる。結局我のやることは変わらぬのだ。
もちろんこの世界の神が我を狙う危険がある以上調査はするし、こちらから攻撃出来るなら迷わずするがな。
『つまり世界中で暴れまくって、この異世界の神が我慢出来ずに出てきたらそこを叩くってことですね。やっぱり駆馬さんはすごいです。考えることが普通じゃない』
まったく褒めているのかいないのか。ともかくこの駄女神も、我の方針には賛成のようだ。
少し時間がかかったが、色々分かってこれからの方針も明確になったな。




