01 駄女神
我の名は白鳥 駆馬。十七歳。世界を統べることを宿命づけられし王者の器である。
家は日本一、いや世界一の金持ちで一族の総資産は一京円をも超えている。
当然我は幼少時より英才教育を受け育ってきた。親父殿は我に将来は総理大臣にもなれると言っていたが我は一国の長などで終わるつもりはない。
だが国連を潰して新たに世界政府を立ち上げようという我の案はまだ時期ではないと言われ反対された。なので次善策として米国の人類進化党を支援して我が目的を達成しようと思っている。
いや、いたのだが……。
我は今真っ白なおかしな空間の中にいる。自分のことを女神とか言うおかしな女に我は拉致されてしまったようだ。
「――というわけなんですよ。だからあなたにはこれから異世界へと行ってもらって。――って聞いてますか駆馬さん!」
すまん。全く聞いてなかった。
この女、自分を女神とか言う痛い奴だが我を異世界とやらに送りたいらしい。全くとんだ迷惑な話だ。
世界一の天才であり同時に世界最強の男でもある我を拉致するくらいの女だ。本物の女神ではあるのだろう。
だがこの女神は何も分かっていない。
「もちろん駆馬さんにもメリットはあります! チートスキルをあげますよ! 異世界にいってやりたい放題出来るんです! 魅力的だとは思いませんか?」
「思わんな。全くもってそうは思わん。チートスキルを与えると言ったな。そんなもの我には必要ない。なぜなら我の存在そのものがチートだからだ! 異世界に誰かを送りたいのならその辺のニートでも捕まえるんだな。我のようにリアルが充実している人間には異世界に行くメリットがないのだよ!」
全くだ。
こんな当たり前のことを言って聞かせねばならぬほどにこの女神は馬鹿女である。
我がそう言うと女神は黙り込んでしまった。
図星が過ぎたか?
だがこれでこの馬鹿女神も我を大人しく地球に帰すだろう。我には地球で成さねばならぬことが山ほどあるのだ。
「……くせに」
ん?
「……王子のくせに」
黙ったと思ったらうつむいて何かを言っている。よく聞こえないので近くによって見た。
「駆馬さんなんてただの勘違い王子のくせにぃっ! アホー! おバカー!」
ついにかんしゃくを起こし始めた。この女神最低である。
だが聞き逃せない言葉が一つある。この女……なぜ学校での我のあだ名を知っている?
「知ってますよ! だって私神様だもん! 他にも親の七光りとか御曹司とか駆馬さんが呼ばれてるのだって知ってますよ!」
とりあえず御曹司はあだ名じゃない。だがこいつ心の声に返事を返してきやがった。いよいよ本気を出してきてるな。
「本気だって出しますよ! なんで異世界行くって言ってくれないんですか! いじわるですか? どうして女神ちゃんのこといじめるですか?」
自分のこと女神ちゃんとか言い出した。駄目だこいつ、なんとかしないと。まずは我が異世界に行きたくない本当の理由を聞かせてやらねばならないな。
「異世界と言っても中世だろう?」
「ふぇ? た、多分そうですけど何か?」
何か? と来たよこの女。チートチートと騒いでいるが、人を異世界に飛ばすことについて何も気に病んでるふしがない。
「ふぅ……あのな女神ちゃん。我は今の生活に大いに満足しているのだ。日本も好きだしこの世界に生まれて良かったと思ってる。何より便利だしな。それがどうして風呂すらまともに入れなさそうな異世界などにいかねばならん」
「あっ……」
気付いちゃったって顔してるなこの女神。本気で気に病んでなかったようだ。
異世界チート、見る分には確かに面白いだろう。だが実際には不便なことばかりのはずだ。なんと言っても異世界だからな。不衛生的すぎて我には耐えられない世界だろう。
「分かったか駄女神」
「あぅ……じゃ、じゃあ……一体どうしたら駆馬さんは異世界に行ってくれるんですか?」
我は最初から行かないと言い続けているのだが。だがこの駄女神、納得させねば我を帰してくれそうにない。だんだん泣き顔になってきてるし。
我がちゃんと考えて、これなら行ってもいいという状況を提案するか。この駄女神じゃそんなことも考えられないだろうしな。
「私は駄目神なんかじゃないもん」
拗ね始める駄女神を放置して我は思案を巡らせる。天才である我はすぐに答えを導きだした。
「よし駄女神よ。我が条件を考えてやったぞ。この条件が達成できるのなら異世界行きも考えてやる」
女神が幼女のように無邪気な笑顔でこっちを見る。この女神、実は見た目も小さな少女なのだが、こうなるともうただの幼女にしか見えないな。
ともかく我は、このかわいそうな幼女に条件を説明してやった。
「まずは家だ。我は異世界でも汚い生活をするつもりはない。我が現在住む家は全てが自給自足可能な構造となっている。前提条件としてその家がつくのがまず第一。そして第二は人員だ。我は天才で最強であるが、家事などは我のやるべきことではない。現在もそれらはメイドに任せているしな。彼女達の同行が第二の条件だ。この二つが叶うのなら異世界行きを考えてやらぬこともない」
我は異世界でも生活水準を落とすつもりはないからな。屋敷とメイド。これさえあればある程度はまともな生活が出来るだろう。
そう思って幼女、もとい駄目女神の顔を見ると満面の笑みで喜んでいた。
「それならお安いご用ですー! 家もメイドもつけちゃいますよ! あ、でもでもやっぱりダメー! 本人の意思は尊重しなくちゃですよ! 駆馬さんに巻き込まれて異世界に飛ばされる人達のことも考えて下さい!」
お前はお前の都合で飛ばされる我のことをちゃんと考えろよ。だが駄女神にしてはまともな意見。当然我も本人の意志なしに連れて行こうなどとは思っておらぬ。
「そうだな。ではまずはここに呼んでくれ。じいやにメイド長。後はニコとひよりだな。この四人がいれば異世界でも安心だ。もちろん異世界などという場所に彼女らが行きたいと言うかは謎だがな。ああそれと、可能ならコネクトームも呼んでくれ。あれに自我があればの話だが」
「分かりました! コネクトームさんは本体大きすぎなのでクラフトロイドのボディで身体イメージを構築しておきますね。じゃあパパッとここに呼んじゃいますよ! へいやぁっ!」
駄女神がアホっぽい掛け声をあげたかと思うと、我が望む五人(人工知能一体含む)がこの空間へと姿を現した。
みんな突然のことに驚いている。女神に説明させると長くなるので我があらましを五人に話した。