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泡ときえても第四話

遂に最終話です。

小夜は何時もの様に

夜は浜辺に出て

海を眺めていた。


海の中から海亀が顔を出し

『姫…野分け(台風)が近付いて来ております。

源三様に漁に出る事を

お止めになられますようにどうか…

お伝え下さい。』


と告げ海に帰って行った。


野分けが近付いて来ている…

何としても明日の朝

源三を引き留めなければ…

小夜は心に誓った。


明くる朝…

源三は朝早く漁に出て行こうとする。海はいまだに凪いでいる。


しかし…

野分けが近付いているのだあっという間に海は荒れ狂い源三の小さな船など

波に呑まれてしまう。


小夜は源三にすがり付き

どうか行かないでと目で訴えかけた。


『小夜…心配しないでくれ今夜もお前の側に居るよ

必ず帰って来るから。』


優しく語りかける源三の瞳を見詰め小夜の力が抜けた


まんじりとも出来ず

タエと二人向き合っていた。



海が荒れて来た。

どうしてもじっとしている事が出来ずに表に出ようとしたとき。


引き戸がガラリと開き

漁師仲間の留吉が息を切らして入ってきた。


『まだ 源三が帰って来ねえ

奴は海が荒れ出しても

もう少し頑張ってみるって漁場に残ったんだ。』


小夜は飛び出し

浜へ駆け出した。

着物を脱ぎ捨て海に飛び込んだ。



海に飛び込んだ小夜に

異変が起きた。


泳げない筈のこの体が

荒波をものともせずに泳いでいる。


小夜は人魚に戻ってしまった。


人魚ならば

幾ら海が荒れようともものともしない。


源三の居る漁場へと小夜は全力で泳いで行った。


源三は

荒れ始めた海の上で

木の葉の様にうねる波に舳先を向け何とか持ちこたえていた。



思わぬ横波が源三を襲う船は横波に弱い

舳先を波に向けていれば少々の波ならやり過ごせるが横波をモロに食らった源三の船は転覆してしまった。


ひっくり返った船にしがみつき

波に揉まれながら

源三は


『小夜…すまない…

俺はもう…

お前の元に戻れないかも知れない。

小夜…すまない…』


源三が諦めかけた時




『源三さん!!

源三さん!!』


と自分を呼ぶ声が聞こえる。

海の水で体温を奪われた源三は微かな意識の中で

確かに小夜を認めた…


そして…小夜に抱かれる幻を見たと思った。



浜へ打ち上げられた源三は自分の傍らに居る小夜を見て幻では無かった事に気がついた。


傍らに寄り添うように打ち上げられた小夜は

息をしていない。


『小夜!!しっかりしろ!!』と何度も声を掛けた。


小夜はうっすらと目を開け


『源三さん…』と

源三の名を呼んだ。


『小夜!!口がきけるのか?』


と小夜を抱きしめ

はっとする。


小夜の半身が魚なのだ。


小夜は人魚だと源三に知られてしまった。



『小夜!!たとえお前が人魚でも良い…

お前が好きだ。


何時までも俺の側に居てくれ!!』


あまりに嬉しい源三の言葉に

真珠の涙を流しながら


『源三さんありがとう


しかし私は

正体を貴方に知られてしまった。


人間に成る時の条件で

貴方に知られると

泡となり海の藻屑となるのです。

でも…貴方に最後の最後に抱きしめられて居るのは

嬉しいのです。


私の事を忘れないで下さい

母様にもくれぐれも宜しく伝えて下さい。

小夜は幸せです。』


小夜の体か泡となり消えかかっていた。



『行くな!!行くな!!小夜!!行かないでくれ!!』


消えかかるなか

小夜は少し困ったような顔をして


源三に口づけをした。


それが合図かの様に

小夜は泡となり消えてしまった。







一人残された源三は小夜の流した真珠の涙を

慈しむ様に一つ一つ拾い集め


何時までも小夜が泡となり消えてしまった。

海を見詰めていた。


源三は小夜の残した真珠の涙を

小夜の形見として大切にした。

そして…今夜も小夜が消えてしまった海を見詰めていた。










『源三さん…』

小夜の声が聞こえた。

小夜の筈は無い…


しかし…振り向かざるを得ない源三の


前に小夜が立っていた。










『源三さん海の神様が私を人間に生まれ替わらせてくれたのです』







源三は小夜に近寄り

小夜の手を握り










『さあ…我が家へ帰ろう。母も首を長くして待ってる』



小夜は俯き涙を流した。


その嬉し涙はもう真珠にはならなかった。






その後の二人のお話は

平凡な夫婦の物語で

仲睦まじく暮らし

笑顔の絶えない家庭を築いたとのことです。

如何でした?



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