到着?
ラザンの村を出発してから20日が経った。
とうとう来てしまった、この時が。
今まで木を引っこ抜いて進んで貰ったり、頭ガンガンぶつけられたり、レッドタイガーを一人で倒して貰ったり、頭ガンガンぶつけられたりしたけど、ついに爆発した。
「暴レタイ暴レタイ暴レタイ暴レタイィィー!!!」
「もう充分暴れてるから!」
さっきからココの木の丸太を振り回してくる。
誰だココの木引っこ抜けるって教えた奴!
僕だ!
出発したときよりダンは確実に筋肉量が増えた。
僕の発案した発散法によるものなのか、それとも封印が解かれた影響なのか…、どっちでもいいけど、だいぶと人外に育ってきてしまっている。
豹変するとパンプアップするダンの肉体は今や確実に大人顔負けだ。
体もデカくなるみたいでさっき羽織ってた上着がさっき弾けとんだ。
角も立派です。
闘牛とタイマン張れるんじゃないかな?
「ハハハハハ!シネェ!!」
木々を薙ぎ倒しながら迫ってくる。
もう駄目だ、人様には見せられない。
体はデカイくせに動きが速くて近付けない。
そもそもこの間はシュリのレクイエムが効いていたから動きを止められたのであって、今や近付こうものなら片手で掴んで両手でブチィッ!とされそうだ。
「ハァッハッハッハッハ!カイトォォ!シネェ!!」
駄目だ、あんな固いココの実を連続投球してくるやつ見たことない。
どうしたものか…。
シュリが危険とでも思っているのかさっきからどんどん元居た場所から離れていっている。
なかなか鋭いやつだな。
でもシュリを先に狙った方がいいと思うんだけど?
僕ならそうする。
さっきからダンは僕を執拗に追いかけ回している。
まあシュリに危険がなくて好都合だけどさ。
「マ、マテェエェェェ!!」
ん?
だんだん疲れてきたかな?
足下に段差を作る作戦が効いてるのかな?
それとも寒がりなダンに吹雪を浴びせてるのが効いてるんだろうか?
明らかに疲れが見えてきた。
今や砂浜の砂を投げれてない、撒いている。
「マ、マテ…カイト、ォ。」
バテバテじゃん。
んんん?
よく見たらダンの胸元に何かある?
近寄ると腕を振ってくる。
それを避けて眺めているとそれと目があった。
あ、どうも。
どうもじゃねーよ!
どうしようどうしょう。
ダンの胸の真ん中に目があるよ。
〈ギャァァァァアアァ!〉
あ、気づいたら目潰ししてしまった。
頭の中に耳障りな悲鳴が響く。
すると動いていたダンの動きが止まった。
〈コロス!コロスコロスコロスコロスコロス…〉
ダンの胸の中心で目ん玉がこっちを睨む。
なんだこいつ。
【???】
目玉のような見た目をしている。
鑑定使えね!
「きもっ!」
〈ギャァァァァアアァ!!〉
「ダンを返せ。」
〈イヤアァァアァアア!!〉
「ダンから出ていけ。」
〈ちょ、やめ、ちょっとホンマ、ちょ…〉
「…出ていけー。」
〈ちょ、…ええ加減にせんかわれぇぇ!!〉
「砂ぶっかけて海水入れんぞコラ。」
〈ちょ、ごめんやん、それだけはやめたって~な~。恐いわ~。〉
…なんだこいつ。
大事なことなので2回言いました。
駆け付けたシュリによってダンは鎮められた。
ダンは元に戻り、角も見えなくなった。
なのに赤い皮膚が収束して胸の目ん玉野郎だけ何故か残った。
もう潰してもいいんじゃないかな。
「で?ダンはこいつが何なのか知らないのね?」
「ああ、し、知らねえ。」
「じゃあもう一度聞くよ?あなたは何者なの?」
〈わいは守り神や。〉
「あ?」
〈ちょっと姉ちゃん!そこのあんちゃんが恐いわ~わいこういうのあかんよって~。〉
あー腹立つ。
なんやこの喋り方は。
腹立ってきよったわ!
喋り方移っとるわ!
「カイト、そう睨まないの!」
〈わいはな、ずっと封印されとったんや。それも何百、いや何千年もの間ずうっとや。〉
ダンの胸の中心で語りだした。
くそ、なんか腹立つ。
〈それがやっと解放されたんや、出たいやん!外に遊びに行きたいやん!それをそこのあんちゃんが邪魔するもんやから…。〉
「ダンが暴走したのは僕のせいだって言いたいんだね。いい度胸だ。殺す!」
「まあまあ、カイト、落ち着いて。」
「なあ、ならなんでこの女を狙わなかったんだ?」
ダンが自分の胸に話掛ける。
もう!
なんとかなんないの、この状況!?
せめて額に出るとかさぁ!
〈そりゃ、姉ちゃんの歌は気持ちええさかいな~。ずうーっと聞いとりたいくらいや。〉
「やっぱり殺すー!!」
「落ち着けー!」
〈わいが死ぬときはコイツも死ぬ時や。わいはもうコイツから離れられん。〉
目ん玉野郎がシリアスな雰囲気で言う。
本当か?
怪しい。
「そうなのか?」
「それはどうして?」
〈言うたやろ?わいはコイツの守り神やて。生まれた時から決もうとったんや。〉
「じゃあダンと目玉さんは離れられないとして、これからもダンは暴れたりするの?」
〈そりゃそうなんちゃうか?わいも遊びたいし…〉
「その目ん玉君は今の現状じゃ駄目なの?会話は出来るし、自分の意見を聞いて貰えてるじゃん。」
〈…ほんまや。わい、喋っとるわ!〉
何言ってんのこいつ。
先が思いやられる。
でもこれからは無闇にダンが暴走しないことを考えると妥協するしかないかな。
まだ何か隠している節はあるけど、今日の所は許してやろう。
次、暴走したら殺す。
〈姉ちゃん聞いたって~、コイツ才能無いんや~。〉
大きな入道雲を背にしてダンが浜辺から帰ってくる。
魚を捕りに行っていたダンの胸元で目ん玉野郎が言った。
〈わいならちょちょいっと終わらせんのに、コイツときたら…カーッ。〉
「なんだよ!うるせーな!じゃあお前がやれよ!」
〈ほいきた!任せとき!〉
「ヒーーハーー!!」
豹変したダンが海に戻って行った。
目ん玉野郎はダンの体を乗っ取れるらしい。
その乗っ取っている間はダンの声で話してくるけど、それ以外では頭に直接響く念話で話してくる。
乗っ取っている間に目潰しすれば無理やり解除できるみたいだ。
つまり、奴の弱点は目潰しだな!
〈ギャァァァァアアァ!海水が入ったァァァ!〉
「ん?大丈夫か?」
海水も弱点みたいだ。
そんなことを考えながら食事の用意をしているとシュリが話し掛けてきた。
「ねえ、カイト?」
「何?」
「あの豹変…戦闘モード?には目玉さんに乗っ取られてないと移行出来ないんだって。ダンから聞いたわ。」
「ふーん。」
「でもね、戦闘モードに入ってから乗っ取りを解除すると、しばらくは自分の意思で戦闘モードを継続出来るみたいなの。」
つまり目玉野郎が戦闘モードのきっかけになってるってことか。
それさえ掴めば、ダンはあの力を制御出来そうだな。
あー、目玉目玉って言ってたら目玉焼き食べたくなってきた。
「なあカイト?」
「ん?うわぁ!!」
隣を見ると、水に濡れた戦闘モードのダンが普通に座っていた。
大きな角が目の前でキランと太陽を反射する。
「そんなに驚く奴があるか。傷つくだろ。」
ダンは自分が人間じゃないということを気にしている。
たぶん僕が思うにラザンの民は鬼族だと思うんだ。
この大陸には人族と言っても様々な種族がいる。
ドワーフとかエルフとか巨人族とか小人族とか。
彼らが人族ならダンも人族だと思っていいと思うんだ。
まあでも自分はヒトだと思ってたのに角生えてきたりしたら確かにショックかも。
「水浴びたいから頼む。コイツのことも洗ってやりたい。」
〈はぁぁぁ~、もうあかん。成仏してまいそうや~。〉
成仏?
やっぱ怪しいなこの目玉。
いったい何者?
そんなことを考えつつも水を掛けてやる。
本当に便利だわこの手袋達。
シ「ねえカイト、その黒い手袋には白い手袋みたいな効果は無いの?」
カ「あるよ。無詠唱であらゆる魔法が出せるんだ。」
シ「やっぱりね、なんか怪しいと思ってたのよ。」
ダ「なんで俺にピッタリのアイテムねえんだろう。」
目〈わいがいるやないか!〉
カ「……。」
目〈なんや!その目は!〉