海の試練
「カイト!大変だ!」
「お帰り。ダン。どうしたの?血相変えて。」
「それが…祠が…海で…はぁはぁ。海の祠が。」
「落ち着いて。伝わるものも伝わらないよ。」
肩で息をしているカイトを落ちつかせる。
シュリが持ってきてくれたココの実の皮1杯の水をダンに渡した。
「ぷはぁ。すまん。さっき大人達が言ってたんだけどな。海の祠がある洞窟に魔物が現れたらしい。」
「なんだって!」
やっぱり魔物とかもいるのか。
今日は3人で海の祠の方に行こうとしてたのに。
これで祠の石板が壊れでもしたら悔やみ切れない!
それは何としても止めないと。
急いでその洞窟とやらに駆けつける。
洞窟の入り口にはたくさんの大人達が集まっていた。
「ダン!お前たちは来ては駄目だ!」
「なんでだよ!」
「魔物がいるんだぞ!危険だからに決まっているだろう!」
ダンが大人達にくってかかる。
まあ当たり前だよね。
「ねえシュリ、魔物ってどんな奴なの?」
「魔物は、自然のマナを取り込みすぎて制御しきれなくなった生物が暴走した状態よ。元に戻すことは出来ないから倒すしかないわ。」
「ここには昔からよく魔物が出るんだ。」
「キャア!!」
その時洞窟の中から悲鳴が聞こえた。
「っ!?中に人がいるんですか!?」
「そうだ。なんとか何もせずに逃げてくれるといいんだが…」
そんなこと言っている場合じゃない。
すぐ助けにいかないと、その人の命が危ない。
「あっコラ!カイト!ダン!行くんじゃない!あーもう!」
後ろから大人達の声がする。
入り口からは中はよく見えないな。
暗いけど結構広そうだ。
波に浸食されて出来たのかな?
とりあえず大人達の声は無視して進んでみるとそこには大きな海獣がいた。
なんじゃこいつは。
ギャァァァァァァスッ!!
2メートルくらいのアシカに角が生えたような感じだ。
いや、全長で言うと4メートルはありそうだな。
思ったよりデカイ。
どうしようか迷っているとシュリの声が洞窟に響く。
「フリーズライト!」
その時洞窟内を目映い光が覆った。
それに驚いたのか魔物の動きが一瞬止まる。
「サンダーシュート!っしゃ!」
ヒギャァァァァァ
魔物の目に矢が刺さる。
その矢もバチバチとした光を纏った矢だった。
今だー。
魔物の背後に回って飛び上がり、後頭部に剣を突き立てた。
オォォオォォォォン。
ドサッ
たったらー。
カイトのレベルが上がった!
なんちゃって。
「ナイスだ!カイト!」
「怪我はない?」
ダンとシュリの二人が駆け寄ってくる。
「うん、二人のおかげだよ。」
こうして僕達3人は初めて魔物を倒した。
「あなたー!」
「お前ー!」
襲われてた奥さんも夫との再会を果たしたみたいだ。
どうしてこんなところにいたんだろう?
祠にお供えものでもしてたのかな?
「よくやったお前達!見直したぞ!」
「ダン!もうお前は一人前だ!」
「シュリちゃん、かっこよかったわー。おばちゃん、感動しちゃった。」
「カイト!お前やっぱりすげーな!わはははは。」
「皆の物、今日は宴じゃ!」
あら、村長さんいつのまに。
村長さんのその一言で皆が沸き立つ。
海の祠も無事だったみたいだ。
「男衆はこれを運べ!女達は宴の準備じゃ!」
後ろで村長さんの掛け声を聞き流しながら祠に向かう。
シュリはすでに隣の石板を解読し始めていた。
「『深き海の底、霊験灼|たかに眠るは海神なり。慈悲深き者、彼の安らかなるを永遠たらしめんとす。彼のごとき慈愛の心を得し者、ここに顕れん。』」
ゴゴゴゴゴ
試練の間への扉が開いた。
「やはりの。」
「!!」
村長さんまだいたのか。
「なにやらダンが怪しげな物を持っとると思ったんじゃ。此処に眠っている力は強大な力だと先代の村長から聞いておる。よもや、儂の代で眠りを解くことになるとはのう。」
「村長さん、何が言いたいんですか?」
「その力を何に使うのかと聞いているのです。」
村長さんが真剣な顔つきになる。
その線のように細められた目の奥に鋭い眼光があるのを僕は見逃さなかった。
「僕達は…」
そう続けようとした所でシュリに遮られる。
まるで私に任せてと言わんばかりに目配せをして、村長の前に今一歩進み出た。
「この数年間、私はザンクティンゼルを脅かす存在と戦ってきました。彼らはかつてないほどに強大で…我等人族の力では到底立ち向かうことなどできない程の脅威です。このままでは人族は滅びてしまう。私は疑問に感じました。我等はそんな滅びの運命を辿るしかない生き物なのかと。否。脅威は言いました。憎き人族を滅ぼすと。このザンクティンゼルには彼らを恨み足らしめる力がかつて数多く存在した筈なのです。私はその力をを守るために使いたい。ザンクティンゼルを、いいえ、この世界の平和を守るために古の遺産を使いたいと考えています。どうかこの先へ進むことを許していただけないでしょうか。」
「僕からもお願いします。」
「俺からも頼むよ、爺さん。」
「……甘いのう。じゃが、軽率な考えでの行動じゃないことだけは分かった。」
村長さんはいつもの優しそうな笑顔に戻って言った。
「その先に進むといい。気をつけるんじゃぞ。中に何があるのか儂は知らん。」
「ありがとう。村長さん。」
僕達は3人揃って階段を降りていった。
残された村長は呟く。
「まるで、聖女のようじゃの…。」
真っ暗な通路を進む。
今回もシュリの魔法のおかげで進むことができる。
もし僕に魔法が使えるなら教えてもらおうかな。
「シュリ、魔法って誰でも使えるの?」
「いいえ。そういうわけではありませんけど、どうしてですか?」
「そのライトの魔法、僕も使えたらなーと思って。」
「これは魔法ではなく、そういう魔導具なんです。」
「え、そうなの!」
そういえばシュリが使っている杖は以前から持っていた杖だ。
ダンは新しく手に入れた弓を使ってるから、シュリもそうだと思い込んでた。
「杖の先から火種も出せますよ。」
シュリは少し得意気に見せてくれる。
光る方とは反対側の杖先から小さな火が現れた。
便利だな。
「カイト!何か見えてきたぜ。」
「あ!ダン!走ったらあぶないよ!」
今回は罠らしき仕掛けが無かった。
ということは、この先の試練が難関なんだろうか?
そこも山の試練の間みたいにちょっとした広間になっており、真ん中に台座があった。
向かい側の壁画には海を臨む女性が祈りを捧げている姿が描かれていて、その海と思われる線のしたには大きな海獣が眠っているようだ。
勇者とはまた違う救世主みたいな存在が昔にいたのだろうか?
台座を調べていたシュリがそこに手を置いて言う。
「うーんと…、『我、汝を癒す神子なり。汝の安らかなる眠りを妨げし者にあらず。今ここより汝の眠りの永なるを願うは我、シュライエン・モルトレイトなり!』かな?」
そう宣言?したシュリが消える。
試練に向かったんだろう。
それよりもシュリが居なくなったことで光源が無くなってしまった。
「暗いな。」
「どうしようか。」
「あそこに何かあるぞ?」
あそこと言われても真っ暗だからわからない。
「ほら、壁の一ヶ所だけが光ってる。」
「本当だ。でも罠かもしれな…」
カチッ
「やべっ。」
「もう!ダン!」
ゴゴゴゴゴ
どこが動いているのかと思ったら天井がスライド式に開いていくそこから外の光が入り込んでくる。
これで明るくなった。
「カイト、なんか振ってくるぞ?」
「え?」
上を見上げると何か破片が落ちてくる。
何かなーと思って見ていると段々近づいてくるわけだが、思ったよりも大きい。
唖然としているとダンに手を引かれた。
「避けろよ!」
「おっとっと、ごめん。」
落ちてきたのは黒ずんだ破片だ。
何かの骨のようだ。
その中に紫の怪しげな光を放つ球体がある。
「あれ、なんだろ?」
「魔石みたいだけどな。」
「魔石?」
カタカタカタカタ
「ああ、魔物の体内で生成される塊だ。あんなにでかくて丸いということは長年魔物だったんだろうな。」
「へぇー。ちょっと綺麗だなんて皮肉だねー。」
カタカタカタカタ
「だが、あんな光ってないはずだ。」
「え?」
「まだ魔物として生きてるんじゃねえか?」
カタカ…
そういえばさっきからなんか聞こえますよね。
今聞こえなくなって気づいた。
すると紫の魔石が浮かび上がる。
その回りを守るかのように、骨の破片が形造られていく。
「ほらな!」
「ほらなじゃないよ!これ、やばくない?」
そうこうしている間に、恐竜の骨格標本みたいな魔物が完成する。
肋骨と思われる骨に囲まれて、胸の中心で魔石が光る。
〈ニンゲン、コロス…。〉
げっ、喋った。
しかもめっちゃ恨まれてるんですけど。
アゴがカクカクと動くからとても不気味だ。
「カイト!俺、分かった!」
「何が?」
「この魔石の影響で洞窟に魔物がよく現れたんじゃねえかな?」
「そんな分析あとでいいから!」
恐竜が動き出した。
どうやって倒す?
弱点はあの魔石な気がするけど…。
「カイト!こいつの攻撃、痛くないぜ!」
ティラノサウルスを小さくしたような魔物の腕は短い。
しかも爪が劣化してるのか鋭くないから痛くないようだ。
「これなら余ゆ…ぐはっ!」
うん、太い尻尾で吹き飛ばす攻撃はダンに有効なようだ。
壁に打ち付けられたダンが崩れ落ちる。
「くそっ…。」
「ダン!大丈夫っ!?」
尻尾に気を付けて肉薄する。
勇者の剣で肋骨を攻撃した。
キンッ
固い。
めっちゃ固いんじゃないこれ?
一度体勢を立て直す為に離れる。
どうしたものか…。
「カイト!屈め!」
ダンの声に戸惑いながらも体勢を低くする。
すると僕の頭上を帯電した矢が通りすぎた。
ビシッ
その矢は肋骨の隙間を通って魔石に到達する。
ガラガラと音を立てて恐竜は崩れた。
お、お見事。
魔石は砕けていた。
石炭のように真っ黒だ。
さっきの輝きが全く感じられない。
「どうにか…倒せたな。げほっごほ。」
「ダン、大丈夫なの?」
「なんとかな。見ろ、台座が光ってる。」
「本当だ。」
台座が光っている。
まるで傷を癒してくれるかのような優しい光だった。
気づいたら台座に触れていた。
ダンにも同じように触れさせる。
すると聞いたことのある声が聞こえてきた。
〈認められし者達よ、汝等に在るべき力を授けよう。〉
するとガゴンという音が聞こえて、壁画がバラバラと崩れ落ちた。
「ダンはここで待ってて。」
壁画のその先には小さな小部屋があった。
その向かい側の壁に魔石みたいな球体が2つ填まっている。
赤いのと、白いのだ。
手に取ろうとした瞬間赤い球が飛び立つ。
それはダンの近くで一際眩しく光を放つと消えた。
気づいたとき時には白い球の無くなっていた。
なんだったの?
ダンの下に戻る。
ダンは自分の体をペタペタ触っていた。
「どしたの?」
「なんか不思議な感じだ、どこも痛くないし、なんだかムズ痒いような気がする。」
何言ってんのコイツ?
不思議に思ってダンを見ると頭に文字が浮かび上がった。
【ダン】
男性 15歳 Lv6
種族 ヒューマン(ラザンの民)
職業 なし
ななな?
なんか出た。
鑑定出来るようになったみたいだ。
これがあの声が言ってた在るべき力なのかな?
ふーん。
ダンはレベル6なのか。
てかラザンの民って何?
【ラザンの民】
かつてザンクティンゼルを支配していた戦闘民族。その力は拳で岩をも砕く程。末代にまで及ぶ封印によって力を奪われ、現在は辺境でひっそりと暮らしている。
なんとそんな民族の村だったのか、あそこは。
でも岩を素手で砕くような人居なかったけどな…。
あ、そうか力を奪われているんだね。
なるほど。
「暴れたい…。」
「え?ダン?」
ダンが何か物騒な事を言い出した。
誤字脱字、気を付けてるんですけどありますね。やっぱり。