山の試練
祠の隣に現れた階段を降りてみた。
中は真っ暗だ。
やっぱり進むのは止めとこうかと思ったら、シュリが明かりを灯す魔法を使えるらしい。
シュリが持つ杖の先が光を放つ。
眩しすぎない優しい明かりだった。
床も壁も天井も石を組んで作ってある。
石の形がバラバラだから石の整形技術は無かったのかな?
でもそのバラバラの形の石を隙間なく並べられるのもなにかそんな技術があったのかな?
ま、そんなことどうでもいいか。
カチッ
何か嫌な音が聞こえた。
「おい、カイト!お前何か踏んだだろ!」
そんな声が聞こえるのと左右の壁が崩れて鋭い槍がお目見えするのはほぼ同時だった。
ひっ。
僕死んだわ。
あれ?
死なない…?
「びっくりした。このカラクリ故障してるみたいね。」
壁から現れた槍は伸びないまま壁にあった。
どうやら長い年月が経ちすぎて錆び付いてしまっているみたいだ。
今回はそれに助けられた。
カチッ
次はダンがスイッチを踏んだ。
すると天井の蓋が開いて上からヘビ…の脱け殻がたくさん落ちてきた。
その先へ進むと崩れて丸見えの落とし穴だ。
ここのカラクリは全部機能してないみたいだな。
そんな不発弾を乗り越えて辿り着いたのは大きな部屋だった。
部屋の中央に台座があり、その台座の向こう側の壁には壁一面に広がる壁画があった。
ドラゴンかな?そんな生き物に立ち向かう一人の勇者?が描かれている。
その勇者後ろに色々な物が描かれている。
剣だったり弓だったり盾だったり、なんだか色々だ。
「古の勇者には神器があったらしいぜ。何個だったっけな?忘れちまった。」
「ねえ、カイト!ここに古代文字があるわ。」
振り返るとシュリが屈みながら台座の回りを回っている。
「何て書いてあるの?」
「えーっとね、台座の上に手を置いて。」
「はい。」
「ん。」
「二人とも置いた?じゃあ、私に続けて復唱して。『我、古の勇ましき者より』、はい。」
「「我、古の勇ましき者より」」
「『力を与えられし資格を持つ者なり。』はい。」
「「力を与えられし資格を持つ者なり。」」
「『すべからく試練を欲す。』はい。」
「「すべからく試練を欲す。」」
その瞬間、視界が一転する。
一面がほんのりと赤いクリーム色の雲に覆われた世界。
目の前に立つのは自分だ。
「カイト。お前は何をしているのだ。」
「は?僕自信みたいなやつに言われても困る。」
「お前は何のためにそこにいるのだ。」
「知らないよそんなこと。気づいたらあの世界にいたんだから。」
「お前はどちらを選ぶのだ。」
「どちらって?」
「秩序ある光か混沌たる闇か。」
「何事も適度が良いと思う。」
「どちらかを選べ!」
「無理だ!ちょうどいいのを所望する!」
「…。ならば先へと進むがいい。」
意識が遠くなる。
気がつくと台座の近くで倒れていた。
なんださっきの奴は。
自分そっくりだったから余計に腹が立つ。
近くにはダンもシュリもいない…みたいだ。
シュリの明かりが無いから分からない。
台座だけが青白く光っている。
台座に触れると声が響いた。
〈認められし者よ、汝の先に道は開かれん。〉
するとガララララと音を立てて正面の壁画が崩れ落ちる。
その先には暗くても分かる程輝く綺羅びやかな宝箱があった。
僕が手を触れるとひとりでに開く。
その中には剣があった。
お、ちょっとかっこいいな。
いや、よく考えたらダサいような気もする。
そして視界がまた一転すた。
そこはジャングルにある祠の前だ。
あれ、何がどうなってる?
「カイト!無事だったか!」
「ダンは…無事?なの?」
「おう!当たり前だ!」
振り返るとそこには汗と血にまみれたダンの姿があった。
全身傷だらけだが、本人の顔は清々しい。
そこにどこから現れたのかシュンッという感じでシュリも帰ってきた。
「シュリ、お帰り。」
「カイト!よかった。」
「シュリも試練とやらを受けたのかい?」
「ええ、二人が消えちゃったから暇でつい。」
ゴゴゴゴゴ
さっきと同じように地響きがする。
石板は地面に埋まっていった。
遠くからガラガラという音も聞こえてくる。
あの試練の間も地面に埋まっていったみたいだ。
「あっ!ダン!あなた傷だらけじゃない!治してあげるわ!」
「いーや、これは俺の勲章だ、残しておこうと思う。」
「ダメよ!膿んだら大変じゃない!」
「唾付けときゃ治る!」
「ダメったらダメ!せめて消毒だけでもさせなさい!」
「痛ーっ!!おい!この女、何かぶっかけてくるぞ!!」
「消毒液よ!ちょ、待ちなさい!」
今日も平和である。
二人とも命に別状は無かったみたいだ。
よかった。
一時はどうなるかと思った。
試練…か。
右手に握られた剣を見つめる。
壁画の言葉を信じるなら、これは勇者の力である神器の1つなんだろう。
なんだか大変なことになってきたなー。
そんなことを考えつつ先に行ってしまった二人を追いかけて僕は村へと帰っていった。
「っかーっ!試練の後はココの実汁に限るな!」
「。」
「あ?なんか文句あるか?女!」
「今夜はダンの血祭りよ。」
「…え?」
「この木の実、ココの実っていうんだー。」
今日はいつにも増して豪勢な晩餐だった。
試練を乗り越えたんだから今日ぐらいはいいということにしよう。
「カイトはどんな試練だったんだ?」
「なんか試練というか問答だったよ?。」
「なんじゃそりゃ。」
「んーんんんーんっんん?モグモグ。」
「俺か?俺は自分との死闘だった。最初はナイフで最後は取っ組み合いだったんだぜ。お前は?」
「んんん?モグモグ。んんんんーんんーんんっんんんんーん。」
「シュリ、口の中無くなってからでいいよ。」
「まじか!女も大変だったんだなー。」
今ので分かるのかよ。
もう突っ込みはしない。
「カイトが手に入れた神器は剣だったんだろ?女。お前は?」
「ん?モグモグ。んんんん、んんん。」
「杖?皆違うんだな。」
「んんん?モグ。」
「俺はこの弓だ。」
「なんだか、何者かの意図を感じるよね。」
僕は剣でシュリは杖。
ダンは弓ときた。
明日行こうと思っている海の祠でも何か貰えるんだろうか?
そんな話をしながら夜は更けていく。
目が覚めるとダンの家だった。
シュリは毛布にくるまっているけど、家主のダンがいない。
これは本当に特訓に置いていったな。
やられた。
シュリを起こして朝飯にでもしよう。
「あら、これ美味しいわね。」
「でしょ?こないだ見つけたんだ。多分毒は無いと思う。」
「どうして分かるの?」
「ダンがお腹壊さなかったから。」
「それって色んな意味で大丈夫なの?」
ん、確かに言われてみればダンの体が丈夫すぎてダンは大丈夫だけど、僕らには毒な食べ物かもしれないな。
その発想は無かった。
「ねえシュリ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「…亜人族のこと?」
「うん。ごめん。」
「老師様のことはもういいの。気にしないで。」
シュリはニコッと笑いながら言った。
本当に吹っ切れたみたいだ。
「一般人には教えてはいけないことになってるんだけどね、十数年前くらいかららしいけど、亜人族がザンクティンゼル(この大陸の名前)を狙って攻めてくるようになったの。」
「どうしてそんなことに?」
「それはよく分かってないんだって。分かっているのは彼らが人族を恨んでいることだけ。」
「彼らってことは他にもいるの?」
「ええ。鳥人や魚人、龍人なんかもいるらしいわ。彼らの力を見たでしょ?人族が滅びるのは時間の問題かもね。」
シュリはココの実ジュースを飲みながら続ける。
「でも、彼らが人族を恨んでいるということは過去に何かあったはずなのよね。彼らを恨ませるような出来事が。そこにヒントがある気がする。」
「なるほど。シュリはそういうことを調べる仕事をしてたの?。」
「ええ。」
あーだから古代文字が読めたのか。
「そういえば、あの時あの狼みたいな奴が来るとは思ってなかったみたいだけど、あいつは何なの?」
「奴は獣人のなかでもトップクラスの力を持つ幹部の一人よ。まさか本人が自ら手を下しに来るとは思わなかったの。」
「うーん、てことはここは危ないの?奴等ならすぐに追って来ることもあるんじゃない?」
「たぶんそれは無いわ。あの戦は聖ノートス神殿を…」
「カイト!大変だ!」
あ、ダンが帰ってきた。
ダ「おい、そういえば狩ってきたうさぎはどうした?」
シ「あー!!そういえば石板読むときに地面に置いたわ。」
カ「そのまま置いてきちゃったの?」
ダ「あのうさぎ、ただ寝てただけだよな?」
シ「ええ。自然に帰ったみたいね。」
ダ「何が『帰ったみたいね。』だ!ダメじゃねえか!」
シ「なによ!私が捕ったうさぎなんだからあなたがとやかく言わないでくれる!」
ダ&シ「「ふんっ」」