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カイト、一肌脱ぐ。

R15指定は一応です。

「第八兵団が壊滅だと!?第二、第六兵団は何をしていたんだ!」

「そんなことより神殿はどうなったんだ!」

「おい!シュラー老師殿が行方不明とはどういうことだ!」


聖ノートス神殿が陥落したとの情報が、数日後になってようやくもたらされたザンクトラノリア国では国の上層部が大変なことになっていた。

それと同時刻。


「シュリ、大丈夫かい?」

「…ほっといてください。」


僕達はラザンという村の村長の家にお世話になっていた。


転移の魔方陣器とやらでジャングルの真っ只中に放り出されたときはどうなるかと思ったけど、ラザンの村の人達に保護されてなんとか生きている。

シュリはというと、ここのところずっとその村の村長さんが厚意で貸してくれている部屋に引きこもっている。

あの僕達を助けてくれた老人はシュリのたった一人の身内だったらしい。

それはそれは気の毒だとは思うけど、何か食べないとシュリが体を壊してしまう。


「何か食べないとダメだよ。」

「…うるさい。」

「え?何?」

「うるさいって言ってんのよ!どっか行って!」


いつもこんな調子だ。


「はぁ。」


僕はため息をつきながら外に出る。


この村は大陸の北西の端っこに位置する南国のような村だ。

(ちなみにこの大陸をザンクティンゼル大陸と言うらしい。)

端っこっていうくらいだからすぐ近くに海がある。

そして反対側には巨大な山脈があるから、山海の幸が豊富だ。

北西から吹いてくる温かい風が山脈にぶっかって今の時期は雨が降るらしい。

そのおかげか村の回りはジャングルと言っても過言じゃないくらい緑豊かだ。


そんなわけで外部とは隔絶されているらしく、この地域独特の文化が根付いている。

一言で言うとハワイっぽいかな?

ヤシの木みたいな木もたくさんある。

今日は雨季には珍しく雲ひとつ無い青空だった。


「おう!カイト!村には慣れたか?」


向こうから走ってきた野生児はこの村に住むダンという青年だ。

身長が180くらいあるんじゃないかというくらいの長身だが、年齢は僕と同じ15歳らしい。

なんか悔しい。

彼の日焼けした肌に映える真っ白な歯がインドア派な僕には眩しかった。


「ダン、今日も元気だね。」

「ああ!カイトも行くよな!」

「え、どこに?」


そんな僕の不安を余所に、ダンに手を引かれて村の広場に連れて行かれる。

そこには上半身裸の日焼けした集団が集まっていた。


うわぁー暑苦しい。


この村では基本男は上半身裸だ。

隣のダンも漏れなくそうである。

僕は違うよ。

村の女の人達が着る袖の無い上着を身につけている。

この村では女装しているようなもんなんだけど、余所者だから誰も気にしないみたいだ。


「お、今日はカイトも行くのか。」

「おう!行きたいって言うから連れてきたぜ!」


一言もそんな戯れ言言ってません。


「よし、今日も愛する女のために出発だ!」

「「おお!!」」


基本、彼らは脳筋のおバカです。

お話が通じない。

お世話になってるから口が避けても言わないけど。





「ほら!カイト!取れたぜ!」


ヤシの木らしき木の上からダンが叫ぶ。

ほんと野生児だわー。

ないわー。


「すごいね、ダン。僕には出来そうもな…」

「カイトも来いよ!いい眺めだせ!」


ないわー。


結局回りにも促されて登らされる始末。

やっぱりこの人達脳筋だわ。

何が楽しくて半裸の同性と狭い木の上に行かないといけないのか。

まあ賑やかで楽しいからいいけどさ。


「いい眺めだろ。」

「…うん。本当にすごいね。」


樹上からの眺めは本当にいい眺めだった。

知らないうちに山の上の方まで来ていたようで、遠くに見える海の近くにラザンの村が見える。

海からの風が気持ちいい。

絶景だ。

でも水平線は見えない。

地球だと弧を描く水平線はその先まで果てしなく広がる海があるだけで存在しない。

やっぱりここは異世界かもしれないな。

まだ決めつけるのは早いと思ってもやっぱりそう思う。


「おい!お前らいつまでそこにいるつもりだ?」

「次に行くぞ!そこの実を取ってこいよ。」

「お、おう!分かってるよ!」

「すぐ降りますー。」


下の大人達に冷やかされた。





「よっしゃ!」

「やるな。」


次は村の大人達の出番だ。

獲物はうさぎやらヘビやら。

最初は嫌々だったものの案外美味しくて慣れた。

今仕留めたうさぎが目の前で血抜きされていく。

これだけは慣れない。

うっぷ。

気持ち悪い。


「俺もやりたい。」


ダンが手をあげた。


「駄目だ。弓はダンにはまだ早い。」

「ちぇっ。」


そんなやり取りはいつものことらしい。

村に帰ると村の女性達がお昼の準備中だ。


「あらお帰り。あなた。」

「うむ、今帰った。」

「すぐ出来るわ。待ってて。」


こんな感じで村の人達はラブラブだ。

見てるこっちが恥ずかしくなってくる。

ダンはというと一人でとぼとぼと帰路につく。

ダンの両親は昔魔物に襲われて無くなったらしい。


「ダン!このうさぎ貰ったけど調理してくれない?」

「カイト…いいぜ!俺んちに来いよ!」


そうやって嬉しそうな顔をされるとほっとけないよな…。

あ、そういえばほっとけないやつがもう一人いたな。

後で飯を持って行こう。





「どうだ?カイト!うまいか?」

「うん。美味しいよ。」


僕はただ皮を剥いで塩を振って焼いただけのうさぎの丸焼きをかじる。

これ、調理って言うのか?

加熱調理って言うか、そうか。


「この調味料はな、俺の父ちゃん自慢の塩なんだぜ。うまくないわけがねえ。」

「ふーん。」


なるほど。

ということはただの丸焼きじゃないのか。

亡きお父様、馬鹿にしてすみません。


「ねえ、ダン。」

「ん?なんだ?」

「寂しくないの?」

「ん、うーん。寂しくないって言ったら嘘になる。でも俺は生きなきゃならないんだ。」


ダンはうさぎの丸焼きを皿に置き、口の回りをテカテカさせながら言う。


「父ちゃんと母ちゃんは俺を庇って死んだんだ。俺は父ちゃんと母ちゃんの分もしっかり生きていかなきゃならねえ!」


僕と同い年とは思えない発言だ。


「はぁ、その言葉、シュリに聞かせてやりたいよ。」

「シュリ?ああ、カイトと一緒に来た女か。あいつはいったい何してるんだ?」


僕は僕の知っている範囲でシュリの事を話す。

話し終わると、黙って聞いていたダンはスクッと立ち上がって出ていってしまった。


「ちょっと!ダン!」


ダンを追いかけていった先は村長の家だ。

シュリがいる部屋の前でダンが叫ぶ。


「おい!女!お前はその爺さんの気持ちが分かんねえのか!」

「ちょ、ダン、やめときなよ!」


部屋から返事は無い。


「お前のその行動は爺さんの死を無駄にしてるんだそ!」


するとカチャッと音を立てて扉が開いた。

そこに立っていたシュリは数日前に見た美人とは思えないほどゲッソリとしていた。

扉の前に置いておいた


「何よ!人の気持ちも知らないくせに!アンタに何が分かるっていうの!それにアンタ誰よ!」


カッチーン。


「いい加減にしろよ。」


パアンという音を立ててシュリの頬がひっぱたかれる。

はい。

僕がやりました。

つい、カッとなってやりました。

犯罪者みたいなセリフだ。


「お前こそ、ダンの何を知ってるんだ!自分ばかり不幸だと思うなよ!それに、君はなんで今生きているか考えたのか!あのお爺ちゃんのおかげだろ!何やってんだよ!そんな部屋でウジウジしてる暇があったら他にやることがあるんじゃ…っ」


パアン


次は僕の頬がひっぱたかれた。


目の前のシュリは目に涙を浮かべている。


ちょっと言い過ぎた…かも。



「…ぞんなごど、わがっでるわよぉー!あーん!」



シュリが泣き出した。

気づいたらそっと抱き締めていた。

気づいた時にはもう遅い。

今更離れるわけにもいかない。

シュリは僕の腕のなかで「おじいぢゃーん。」と連呼している。

頭をポンポンと叩いてやると次第に落ち着いてきたみたいだ。

振り返ると、いつの間にかダンの姿は無かった。





「おい!シュリ!ちゃんと噛んで食べなさい!」

「んー!」

「んー!じゃない!何も食べてなかったんだろ!胃がびっくりしちゃうよ!」

「んーん!」

「もう!僕知らないからな!」


シュリは口一杯にうさぎの肉を頬張っている。

あれからすぐにシュリは落ち着いた。

落ち着いたらお腹の虫が鳴る。

そして今に至る。


「なあ、女。俺んちの食糧全部喰う気か?」

「んーんんん!」

「は?お前がか?」

「んーん!」

「そんなの無理に決まってんだろ。」


すごいダンは会話出来るらしい。


「ダンはシュリの言ってる事が分かるんだね。」

「私が捕ってきてやるだってよ。野獣の言ってることはわかるんだ。おい!あぶねーな!」


シュリがうさぎに刺さっていた串を振り回している。

急に仲良くなったなこの二人。


「今、何か良からぬこと考えただろ?」

「え?いやあ、二人はもう仲良くなったんだなあと思って。」

「んーんんん!」

「仲良くない!」

「やっぱ仲いいじゃん。」


ハモる二人であった。

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