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依頼完了。

キモリン、いわゆるキモいゴブリンこと、ゴブリンロードを倒した。

倒したのはイタチさんだけど。

イタチさんは役目を終えると、ピっと鳴いて空気に解けるように消えていった。

消えたってことは本当に精霊だったのかもしれない。

もしかして僕が召喚した?

いや、確かにそんな感じのイタチを想像した魔法を使いはしたけど、あのイタチさんは魔法が終わってから現れた。

僕のせいじゃないと思う。


「おい、さっきのはなんだ?」

「動物に見えたわ。」

「助かったな。」

「ええ、少しだけだけど、死を覚悟しちゃった。」


ちょい悪なグラサンと金髪の美人も喋っている。

なかなかシュールな画だな。

ハイスって呼ばれてた剣士の青年は木の根元に。

メセルって呼ばれてたガッチリした青年は大の字で地面に伸びている。

4人中2人がやられたらピンチだよねー。


「どうします?」

「そうだな、二人を看てくれ、大丈夫そうなら昼食後に進もう。」

「わかりました。」


金髪の女性は伸びている二人に駆け寄っていく。

ちょい悪オヤジがこっちに歩いてきた。

ちょっと恐いんですけど。

肩をパンと叩かれる。


「やっぱりな!バベルを倒したお前なら余裕だと思ったぜ。大丈夫だとは思うが、怪我は無いか?」

「え、ええ。」

「そうか、なら良かった。しかし、さっきのは何だったんだろうな?坊主には見えたか?」


イタチさんのことかな?

ちょい悪オヤジさんには見えなかったんだろうか?


「俺たちはこの後あの穴に進もうと思う。えーと…」

「カイトです。」

「カイト。お前も来るか?」


ゴブリンロードの死体の向こうに洞穴が見える。

どうやらあれがゴブリン達の巣だったみたいだ。


「でも、いいんですか?」

「ああ、それにここで別れるより俺達といた方が安全だろう。」

「うーん、じゃあ行きます。」

「そうこなくっちゃなっ!」


さっきより強く肩を叩かれた。

危険とかは特にないと思うんだけど、ちょっと興味があるから行ってみたい。

ガイモンさんは回復魔法か何かの術を使っている女性の所へと向かった。


「怪我は無いみたいだな。シルク、霊送りを頼む。」

「え?この二人は?」

「こいつらだぞ?メシの匂いでそのうち起きてくるだろう。」

「…そうね。」


ちょい悪オヤジさんはお昼御飯の準備を始めたみたいだ。

シルクさんはというと、ゴブリンロードを含めたゴブリン達の真ん中に立って唱え始めた。


「『重き肉体(からだ)に別離の舞を。ザナクが地へぞ導かん。』」


持っていた錫杖(しゃくじょう)みたいな杖を鳴らしながら舞が始まった。

なんだろう?


霊送(たまおく)り】

魂の聖地、霊界へと霊魂を捧げる聖なる儀式。魂が離れ肉体が散ると後に命の輝石が残る。


おおー。

儀式とかも分かるのか。


【シルク】

女性


やばい!

見ちゃダメ!

あぶなーい。

せーーーふ。

鑑定危険。

気を付けて!


あ、収納されてるゴブリン達も出しておこう。

なんか命の輝石とかいうのになってくれるんでしょう?

魔石のことかな?


ゴブリン達を出し終えると、視界に光の粒が見えた。

顔を上げると辺り一面が光の奔流だ。

あちこちに転がったゴブリン達から出てきた大小の瞬きがシルクさんの舞いに合わせて揺らめく。


「わぁ。綺麗…。」


シルクさんの動きが止まると、光ったゴブリン達が弾けていく。

最後にゴブリンロードの亡骸が消えると、煌めく粒子は空の彼方へと登って行った。

後には輝く石が残る。

魔石とは少し違うみたいだ。


【輝石】

邪な気が祓われた聖なる石。特殊な加工によって魔道具等に用いられる。魔石とは違って頑丈。


「綺麗なもんだろ。」

「うわっ、びっくりしたぁ。」


隣にちょい悪オヤジさんがいた。

グラサンをグイッと上げて輝石を眺めている。


「俺はガイモンだ。よろしくな。」

「ええ。よろしくお願いします。」

「あいつはシルク。俺の女になる予定だから、手ぇ出すなよ。」


まさにちょい悪オヤジだった。

冗談なのか本気なのか分からないから反応に困る。


大量に手に入った輝石は3分の1くれるらしい。

何に使うのかと思えば普通に売るんだって。


ウルフなんかは毛皮があるけど、ゴブリンにはそういう有用な部位が存在しない。

そんなゴブリンでもこの方法なら輝石になる。

というわけで、人気の無いゴブリンの依頼をよく受けているらしい。

全然悪じゃないガイモンさんでした。


その後は手持ちの魚を提供しつつ、5人でお昼御飯を食べた。

倒れてた2人が起きたのは魚が焼き上がってからだった。

後片付けは何もしていない二人にお任せした。

ぶつぶつ文句を言って、ガイモンさんに殴られてる。

愉快な連中だ。


「この先には何があるんですか?」

「たぶん主のゴブリンロードを倒したから、中には何も無いと思うが、一応確認だ。あまり深くはないと思う。」


ガイモンさんが答えてくれた。

やっぱりゴブリンの巣だったみたいだ。

松明を持って進む。

3メートルのゴブリンロードが通れるくらいの通路だから窒息することはないだろうたぶん。


洞穴は分かれ道の無い一本道だった。

広間みたいな円形の部屋に辿り着くと壁のあちこちに穴が空いてるのが分かる。

真上に穴が開いていて、外の光が差し込むようになっているみたいだ。

ゴブリンのくせになかなかの建設技術。

でもこれ上から奇襲出来るよね?

それしたらよかったんじゃないの?

まあ、いいか。


「気を付けろ、何かいるぞ。」


ガイモンさんの言葉にみんなが気を引き締める。

出てきたのはこれまた気持ち悪い怪物だった。


キィィヤァァァァッ!


鳴き声もきもっ!

ゴブリンみたいな緑の肌をしている。

髪が長いからメスなのかな?

這うようにして穴の1つから這い出てくる。

サイズは人間と同じくらいだ。


くーるーきっとくるー。

きっとくるー。

が、頭のなかで流れた。


ゆっくり近付いてくるが、髪の毛で表情は伺い知れない。

こ、ここここ、恐いっ!


「ゴブリンに襲われた人間の成れの果てだ。」

「殺してあげるのがせめてもの償い。」

「やっぱり、慣れないわ。お願い。」


ガイモンさんが剣を降り下ろした。

ガイモンさん達4人の依頼はこれで達成らしい。

シルクさんの気分が優れないみたいだったから、亡骸は霊送りじゃなくて火葬されることになった。

吹き抜けていて空気の流れがいいんだろう。

その業火は天井近くまで燃え上がったのだった。



ガイモンさん達について帰路につく。

草原を歩く皆の足取りは少し暗い。

そんな重たい空気を振り払おうとハイスさんが話題を作るが、全て空回りしていた。


「シルクさんは聖職者なんですか?」


気になったことを聞いてみることにする。


「え?うーん、修道女かな?」

「あの魔法綺麗でした。あれは修道院か何かに通わないと出来ないことなんですか?」


シュリがしているのは見たことが無いからたぶん出来ないんだろう。


「ありがとう。修道院に限らず、創造神・ザナクを祀る寺院とかで会得出来るわよ。でも適性というか、出来るようになる人といつまでも出来ない人がいるの。男の子は出来ない人の方が多い傾向にあるからあまり期待しない方がいいかも。」

「へぇー。」

「興味があるの?」


あたりまえじゃないですか。

興味津々です。

創造神・ザナクかー。


「んーまあそれなりに。神様っていっぱいいるんですか?」

「ええ。この世界は多神教よ。何にでも神が宿ると言われているわ。」


へぇー。

となるとあの目玉野郎が自分を守護神って言ってたのも嘘じゃなかったのかも…。


「カイト!くっちゃべってねーで、ウルフ共を倒すの手伝え!」


さっきから静かだと思ったら、草原のウルフ達を討伐していたらしい。


「ガイモンさんなら僕なしでも出来ますってー!」

「ったりめーだ!舐めんなよ!」


ちょい悪オヤジの割りにチョロいな。

草原を歩けばウルフが近寄ってくる。

さっきは全然いなかったくせに、すぐ増える。

魔物とはそんなもんらしい。


「ん?あ!大人をからかうんじゃねえ!ほら、こっち来て手伝え!」


あ、ガイモンさんがやっと気づいたみたいだ。

隣を見るとシルクさんが笑っていた。

良かった。

元気を取り戻したみたいだ。


水の針改め、ウォーターニードルで4人を驚かせながらウェーヌの町に帰ってきた。




「おかえり。遅かったわね。」


ギルドに戻るとミーナさんが出迎えてくれた。

身分証兼、ギルド証の魔石を出してカウンターの上に置いた。


「カイト君ならウルフなんて余裕かと思ったんだけど…、あなたたちも一緒だったの?」

「ああ、カイトが来てくれて助かった。」


後ろにいたガイモンさんがばつが悪そうに答えた。

確かにハイスさんとメセルさんがやられてピンチだったかもしれないけど、僕がいなかったら彼らは戦闘を続けられたように思う。


「そんなに大変だったの?」

「ああ、ゴブリンロードが出たからな。」


ギルドが騒がしくなった。

ゴブリンロードは珍しいみたいだ。

あれが普通にいるならゴブリンキングだっているんだろうと思ってたけど、いないかもしれないな。


「上に報告しなくちゃいけないみたいね。ベス!寝てないで手伝いなさい!」


僕らの他にも冒険者達が帰ってきたみたいだ。

奥にいるベスさんに叱責が飛ぶ。

昨日、未解体の獣たちを買い取って貰ったギルドの職員さんだな。

なんだかベスさんはいつも怒られているイメージだ。


「後はベスに任せるわね。ガイモン、話を聞かせて。」


ガイモンさんが受付の奥に連れ去られてしまった。

そのガイモンさんと入れ替わりでベスさんがやってくる。

本当に寝てたみたいで、目が据わっている。

大丈夫かな?


「え~っと…?とりあえず報酬だな。…ガイモンとこのパーティーはこれ。カイトのはこれだ。お前のにはボーナスしといた。んじゃ。」


んじゃってなんだよ。

こら、帰るな。

ベスさんは奥に引っ込んでしまったけど、幸いまだ他の冒険者は帰ってきてないから、大丈夫だ。

いやいやいや、大丈夫じゃないだろ。

受付に誰もいなくなってしまった。

まあ、ミーナさんに怒られるのはベスさんだから放っておこう。


ベスさんから貰った袋には報酬の硬貨が入っていた。

重いけど手袋に収納してしまえば問題ない。


「カイト君、今日はお世話になりました。今度何かご馳走するわ。」


話しかけてきたのはシルクさんだ。

大したことしてないのに。

頑張ったのはイタチ君だもの。


「いえ、お気になさらず。」

「駄目よ。私がガイモンに怒られちゃうから。」


う、そう言われると断りきれない。

ここはおとなしくご馳走になろうかな。


「カイト君はまだしばらくこの町にいるんでしょ?」

「うーん、5日くらいはいる…かな?」

「ふふ、わかった。じゃあね!」


シルクさんは依頼掲示板のところにいるハイスさんとメセルさんに声をかけてギルドから出ていった。

さ、僕も行動を開始しようかな。

時間はまだ4時くらいだ。

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