依頼受けてみよう その2
ダンが気になったので宿に帰ってみた。
ダンの部屋から返事は無い。
宿のおばちゃんに聞いてみたら戻ってないと言う。
あっれー?
おかしいな。
…ま、いっか!
ダンなら大丈夫。
襲われるなんてことはないだろう。
襲う側かもしれないって?
ないない。
え?ないよね?
てことで、ダンのことはひとまず置いといて依頼を済ませてしまおう。
それからでも遅くはない。
だって、ちょちょいのちょいだもの。
それにダンが依頼受けてこい的なこと言ってたらしいし。
「お!いっちょまえに依頼受けたのか!」
「一人で大丈夫なのか?」
「コイツなら大丈夫だ。夕方迄には帰って来いよ。」
門番さん達に見送られながら出発する。
最後の人は昨日見張り櫓?の上にいた人かな?
やっぱりこの人達親切だ。
一度、身ぐるみ剥がれたけど。
町の門は開いていた。
昨日はウルフ達が集まっていたから閉めたらしい。
僕が殲滅した後も警戒してたみたいだけど、あれ以来集まってこなかったみたいだ。
草原に出た。
踏み固められただけの道が山脈の方に向かっている。
僕達が進んできたジャングルよりもだいぶ東寄りの方向だ。
遥か遠くに見える針葉樹林の森までこの道は続いているみたいだ。
頬を風が撫でる。
朝の潮風は気持ちがよかった。
耳を澄ませば、遠くからカモメ?の鳴き声も聞こえる。
日本にいた頃はこんな景色見たことなかったなー。
異世界も捨てたもんじゃない。
「わっ!」
急に草陰からウルフが現れた。
とっさに風魔法で迎撃する。
わーお。
ズタズタに切り裂いてしまった。
人が寛いでる時に来るやつが悪い。
でもこれどうするかなー。
なんだか討伐した証明にどっかを持って来いって言われてたんだけど無理だ。
現時点でちょっと気持ち悪いくらい、原形も怪しい。
そのまま収納して持って帰ろう。
はい。
依頼、終わりました。
Eランク依頼とかちょろいね。
きっとギルドにいた皆さんはAランクとかなんだろうなー。
頑張って追いつこう。
というわけでもう少し狩りましょう。
でも風魔法はよろしくないね。
切り刻んでしまう。
かといって土魔法は地面を元に戻すのがめんどい。
火は草原が焼け野原になるから論外。
後は水かなー。
それにしてもウルフがいないね。
昨日あんだけいたのに。
さっきのは、はぐれオオカミさん?
群れを成すってくらいだもんね。
あながち間違いじゃないかも。
砂地の道の両脇には草原が広がっている。
所々に白い岩が飛び出ていてカルスト地形みたいだ。
ちょっと高いとこから眺めてみようかな。
近くの岩に登ってみる。
2mくらいあるのに難なく登れた。
やっぱ最近体が軽くなった気がするな。
おー高い高い。
ここでお昼ご飯を食べると最高だろうな。
あ、お昼持ってくるの忘れた。
まあいいや後で魚でも焼いて食べよう。
岩上からの眺めは最高だった。
ウェーヌの港町の見張りの人は見えるだろうか?
「やっほー!!」
大きく手を振る。
すると手を振り返してくれた。
おおおー。
ちょっと感動的だ。
これで相手が窓を拭いてるだけだったら相当恥ずかしいな。
大丈夫だ。
あんなところに窓はない。
「あ……と、き…ろよー!」
しばらくして返事も返ってきた。
何言ってるのかよくわからなかったけど。
ま、ここは探検のつづきだ。
グルルルル…
ん?
ウルフが近寄ってきてる。
やっほーで呼び寄せてしまったみたいだ。
嬉しい誤算だ。
水魔法でオオカミさん達を屠っていく。
イメージは水で出来た槍だ。
いや、針かな?
ウォーターニードルとしよう。
うん、あっけない。
3匹いたウルフは原形を留めたまま息絶えた。
さて、どうしようか。
まだ昼前だ。
向こうの森に行くか、ジャングルに行くか…。
森に行ってみようかな。
遠いなぁ。
ダンがいたら肩車してもらうのになぁ。
結局森の入り口までやってきた。
遠いと思ったけど案外近かった。
やっぱり体が軽いっていうのは本当かもしれない。
振り返ると町は遥か遠くに見える。
よく分からないけど、異世界を渡った影響で身体能力が向上したとかかな?
そんなことあるか?
でもここ異世界だし。
身体能力の向上ってだけでは説明できないほど、こうしちゃってるんですけど。
ま、楽しければいいか。
今は森だ。
ちょっと探検してみよう。
ん?
んんん?
改めて見ると森の雰囲気は異様だった。
ここから先は森で、手前は草原という境がはっきりしている。
ここから先は別の場所ですよというか。
あ、ここから先は○○のテリトリーですよが一番しっくりくる。
えー。
なんかごついのとか出てきそう。
この先には異空間があるような気がする。
そんな違和感は一歩踏み出すと鮮明になった。
何かの境目を乗りこえた。
そんな感覚がある。
踏み入った森は極めて静かだった。
何の音も聞こえない。
さっきまで感じてた潮風も、今や海の臭いさえしない。
風が遮られているのか、葉の擦れる音すらも聞こえてこなかった。
ザッ…ザッ…ペキ…
聞こえてくるのは僕自身の足音だけ。
この世界には僕一人しかいないんじゃないかと思えてくる。
「おーい、誰かいませんかー?」
返事をする者は無い。
音という音が無い。
「おーい、だーれかー…あ。」
いきなりガサガサと数メートル先の藪から何かが現れた。
あれはもしや…。
ゴブリンだ!
ゴブリンで間違いない!
【ゴブリン】
ただのゴブリン。
鑑定結果ひどっ!
もっと説明したげて!
「ギャギャ!」
「ギギギ。」
おお、何か話しているらしい。
これはこれは。
奴等には会話する程度の知能はあるんですな。
珍しげに眺めていたら片方が襲ってきた。
けど、実に弱そうだ。
ぱーんち。
…よっわっ!
予想はしてたけど弱っ。
しかしただ見ていただけの、もう1匹が引き返していく。
くそう逃げられた。
また一人になってしまった。
もう少し話し相手にでもなってもらえばよかったな。
とりあえず持って帰ろう。
「ギギャ!」
ゴブリンの死体を収納してたら、また出てきた。
そいつを倒した後も次々と出てくる。
話し相手になってもらうこともないな。
逃げていったゴブリンが呼んできたんだろうか?
あっちに巣でもあるのかね?
ゴブリンが通ってきたらしき藪を掻き分けていく。
その途中でも向こうからゴブリン達がやってくる。
時には錆び付いたナイフみたいなのを持ってるのがいたけど、問題ない。
しばらく進むと何やら騒がしくなってきた。
キキーン
…ォォー…
…っ!!
カーン
……、………!?
誰かが戦っているのかな?
聞き取れないけど剣撃に混じって声も聞こえる。
静かな森だからか、思ったより遠くからの声らしい。
まだ見えてこない。
…30、31!
ゴブリンに飽きてきた。
雑魚すぎる。
この死体もう要らないんだけど。
価値とか何もないと思うんだ。
もう出てこないで。
進んでいるとやっと拓けた場所が見えてきた。
やっぱり冒険者が何かと戦っている。
なんだあの気持ち悪い生き物は。
キモッ。
いやいやいや、キモッ!
ないわー。
鑑定したくなくなるほど、見たくない。
「駄目だ、効かない!くっ!」
「ヒール!大丈夫!?」
「雑魚共をなんとかしてくれ!」
「今やってる。」
なんだか大変そうだ。
邪魔しちゃ悪いかな…。
見なかったことにしよ…
「ねえ、あれ新人君じゃない?」
「ほんとだ、なんか逃げようとしてる。」
「こら!手伝えよ!」
見つかった。
それに手伝えって言ってる。
「えー。」
「えーじゃない、見て分からないのか!俺たちはピンチだ!うわっ、危ねー!」
そんな自慢気に言われても…。
彼等が戦ってる、あれはなんだろうか。
3メートルくらいのキモいやつだ。
ゴブリンだってなかなかのブサメンだけど、それに比べてなんかコイツ汚い。
そう、ブサイクを超えてもはや汚いレベルだ。
【ゴブリンロード】
魔物化したゴブリン。
「このゴブリンロードは俺たちが何とかするから、湧いてくるゴブリンだけ何とかしてくれ!」
「回復は私に任せて!」
あのキモいのはゴブリンロードなのか…。
いやぁ、キモい。
こっち見ないでください。
ほら、鑑定も説明したくないって。
キモすぎで。
仕方なくゴブリンは担当しよう。
魔法は何がいいかな。
やっぱ水かな。
風でもいいかな。
ズタズタにしてもゴブリンなら文句無さそう。
考えてる間にもゴブリン達がどんどん増えてくる。
「鎌鼬!」
鎌を持った、イタチっぽい形の風の塊がゴブリンの集団を蹂躙していく。
よし、イメージ通り。
我ながらすごい。
もう風の精霊って言ってもいいんじゃないかな?
ちょっと待って。
精霊の召喚とか、テンションあがる。
今度できるか試してみよう。
ゴブリンがいなくなった。
血生臭い臭気が漂う中、こっちに向かってくる者がいる。
イタチだ。
イタチさんだった。
ピー。
元気な返事でよろしい。
そういうことじゃなくて。
鳴いたんですけど。
え、これどういう状況?
ピー?
こっちを見上げながら首を傾げてくる。
可愛い。
軽くキュン死ねる。
僕は今、猛烈にズキュゥゥゥン!!
ピ?
え?
はい、なんですか?
イタチさんが鎌をキモいゴブリン略してキモリンに向けた。
そしてこっちを見上げてくる。
あいつを殺りたいってこと?
やだ、この子過激。
なんて恐ろしい子!!
「なんだ?新人がくねくねしてるぞ?ぐはっ!!」
「ハイス!?」
「よそ見はダメ。ハイスはドジ過ぎるん…ぎゃっ。」
「メセル、お前もだ!」
なんか楽しそうだけど、彼ら4人のうち2人がやられた。
んー。
なんか助けが必要そうだな。
イタチさん、殺ってよし。
ピー!
数分後、切り刻まれた血塗れのキモリンがドスンという音を立てて、そこに倒れた。
ていうか、あのイタチさん、どこから来たの?