依頼受けてみよう その1
食堂でダンと食事を終えた頃、シュリは寝ぼけ眼で降りてきた。
大きなあくびをして、こちらの眠りを誘ってくる。
くっ、これは強敵だ。
「ふぁ~。二人とも速いのね。何食べたの?」
「Bセット。」
「俺はAセットだ。」
「おじちゃーん、私Bセットぉー。」
「はいよー。」
今朝も平和である。
目ん玉いなくなったんだった。
あ、それって平和だわ。
水を飲みながら考える。
なんでコーヒーが無いのかと。
町に行けばコーヒーにありつけると思っていたのに。
しかも卵もない。
おかしい。
宿のブレイクファストに卵料理が無いなんて。
なんでも卵は高級な食材らしい。
貴族か産地の朝食にしか並ばない食材なんだそうだ。
初めて異世界を恨んでいるとシュリから提案がある。
「今日は別行動にしましょ。情報収集がしたいの。」
シュリは転移させられてからの約40日の間に何か動きがあったのかを探りたいらしい。
それなら僕とダンは早速依頼でも受けてみようかな。
楽しみだ。
てことで食事中のシュリを置いて部屋に戻る。
身だしなみを整えるため久しぶりに見た鏡を見て驚いた。
【カイト・サカキ】
男性 15歳 Lv17
種族 ヒューマン
職業 手袋使い
鑑定発動した!
いやー見たかったんですよステータス。
ステータスと呼んでいいのか定かでないくらい情報少ないけどさ。
鏡かー。
鏡だったかー。
見える手足を見つめても発動しないなと思ってたのよ。
てか手袋使いってなんだよ!
確かにね、あの手に入れた剣使ってないですよ。
だって丈夫なただの剣なんだもん。
斬撃飛ばしたり炎を纏わせたり出来ないんだもん。
そら賢者の手袋使うことになるでしょうよ。
便利な大商人の手袋も使うでしょうよ。
それなのに手袋使いはないわー。
何そのひ弱そうな職業。
泣くよ?
「カイトまだかー。」
あ、ダンのこと忘れてた。
扉を開けてダンと目があう。
ちょっと気になったからダンも見てみよう。
【ダン】
男性 15歳 Lv21
種族 ヒューマン(ラザンの民)
職業 戦闘狂
ちょっと待って。
ダンにLv負けてるんですけど。
なんでじゃー。
てか戦闘狂て。
可哀想だわ。
やめたげて。
本人気にしてるんだよ。
「どうした?」
「ううん!なんでもない!行こう!」
気を取り直してギルドに向かう。
朝の港町ウェーヌは清々しかった。
やっぱり人通りが少ないのは変わらない。
でも、今日は港の方は活気があるのかな?
ガヤガヤと賑やかそうなあっちの方から声が聞こえてくる。
今は何よりもギルドに興味があるから、港に寄るなんてことはせず、ギルドに向かうことにする。
すると、こっちはこっちで賑やかだった。
冒険者こんなにいたんだね。
20人くらいかな?
2階とかにいたら分かんないけどパッと見でそれくらいはいる。
大半が壁とにらめっこ。
数人が受け付けに並んでて、後は椅子に座ったり寝たり。
その受け付けにいる冒険者が気になることを言っていた。
「だから昨日も言っただろう!鬼がいたんだよ!」
「らしいな!全身真っ赤で、巨大な角が生えてるんだ!」
「なんでもフォレストウルフを食べてたらしいぜ!」
絶対ダンのことだ、あることないこと噂が広まっている。
「クレイジーウルフのせいだ!あいつが鬼を呼び寄せたんだ!」
「討伐依頼はねえのかよ!オレがぶっ殺してやる!」
振り返るとダンが落ち込んでいた。
大丈夫だ。
ぶっ殺しに来たやつは僕がぶっ殺す。
ダンの肩をポンポンと叩いていると逆にガシッと肩を掴まれた。
「おいおい!なんだってこんなところにガキがいるんだ?」
なんだ?
このおじさん。
偉そうに。
「え?依頼を受けに来たんですけど。」
「はぁ?笑わせやがる。寝言は寝て言えってんだよ!」
やたらと突っかかってくる。
なんだよ、
髪の生え際がMの字描いてますよ。
あ、そんなMを見たらポテト食べたくなってきた。
らんらんるー。
「ぷっ。」
「おい、ガキ。今俺のこと見て笑いやがったな。」
「らんらんるー。ぷっ。」
「おい!馬鹿にしてんのか!」
拳が飛んでくる。
鬼モードのダンのそれに比べたら遅いのなんのって。
片手で受けとめる。
「なっ!?」
「暴力はいけません。」
「こ、この野郎!!」
手を振り払うとまた殴りかかってくる。
さっと避けて足を引っ掛けてやった。
いつの間にか冒険者達の視線を集めているようなきがするけど、まあ仕方ないか。
「ガキに転がされる気分は、どんな感じですか?」
「てんめぇ…。」
おっさんの顔が真っ赤になった。
ちょっと調子に乗りすぎたかも。
おっさんは頭に血が上ってしまったのか、正常な判断が出来ないようで、剣を抜いた。
「へっ、手加減してやればすぐ調子に乗る。これだから最近の新人はダメなんだ。」
おっさんは剣を構えて語りだした。
てか新人って知ってたのかよ。
質ワル。
これが噂の新人イジメですか。
イジメカッコ悪い。
ダメ。
絶対。
「俺はランクCのバベル。俺が本気を出せば新人のお前なんて瞬殺だぜ?今ここで土下座するなら許してやってもいいがどうする?」
えー。
別に許してもらわなくても勝つ自信があるけどなー。
僕は膝をつき、地面に手を置いた。
「けっ、腰抜け野郎が。」
仕方ない。
今回は先輩をたてることにしよう。
これからいつまでここのギルドにお世話になるか分かんないし、やっぱり先輩はたてておくべきだろう。
…なんて僕が思うわけがない。
「ぐはぁっ!」
決まった。
僕のストーンアッパーが。
いやあ、謝ると見せかけて土魔法を発動させるとは。
僕もなかなかに質が悪い。
出ちゃった杭を地面に戻しておく。
バベルとか名乗ったおっさんは伸びてしまったようだ。
こんなのがランクCだなんて世も末だね。
振り返ると冒険者さん達の集中の的だった。
「何か?」
「…あのね、ちょっとカイト君。こっちへいらっしゃい。」
返事を寄越したのはギルドマスターのミーナさんだった。
あ。
もしかして怒られる?
ミーナさんの下に向かうと後ろがざわつき始めた。
「何者だ?あいつ。」
「バベルがやられたぞ。」
「新人じゃなかったのか?」
「カイトって言うんだぁー。」
「なかなかやるな。」
「バベルもこれで懲りてくれるといいんだがな。」
「さっきの魔法か?」
「じゃなかったら何だって言うんだよ!」
「精密だったよねぇー、アゴにパーン!」
「痛っ。何故に俺を殴る。」
「そこにアゴがあったから。」
「舌噛んだだろーが。謝れ。」
「ごむぇんなすぁぃ。」
「…ちゃんと謝れ。」
最後の方ふざけてない?
いいけどさ。
「ギルド内での戦闘はご法度よ。まあでも今回は正当防衛ってことにしてあげるわ。」
怒られた。
でも許してもらえた。
ラッキーだ。
「でも罰としてあそこで伸びてるバベルを診療所に運ぶのを手伝ってね。」
「えー。」
「えーじゃないわ。伸しちゃったのカイト君でしょ。」
「カイト、俺がやる。」
え。
うーん。
ダンに任せていいものか…。
いえね、さっき鬼は俺がぶっ殺す発言してたのこの人なんですよねー。
いや、ダンに限ってそんなことしないと思うけど。
万一ってこともある。
「カイトは受ける依頼選んどいてくれ。俺はなんでもいいから。」
そう言うとダンはそそくさと行ってしまった。
あれは運んでると言うより引き摺ってると言うんだろうけど、ミーナさんは笑顔で行ってらっしゃーいと言ってる。
いいのか、あれで。
それはさておき、再びギルドは動き出した。
受ける依頼が決まっていたパーティーやまだ決まっていなかったパーティーの代表者が次々と受付に並んでいく。
ミーナさんもその冒険者達を捌くので忙しそうだ。
というわけで、僕も依頼書を見てみよう。
ダンにも頼まれたことだしね。
…ふむふむ。
大変な事に気がついた。
字が読めない。
…そうだよ、なんでシュリと別行動しちゃったかな。
僕達字が読めませんよ。
あ、でも依頼書に絵が添付されているからなんとなく分かりそうだ。
あれはトラさんだな!
きっと討伐依頼だ。
お、あれは採取依頼だな。
「こんにちは!」
「こんに…あれ?」
隣から話しかけられた。
隣を見た。
誰もいない。
反対側かな?
誰もいない。
あれ?
「おーい。ここだよここ。」
声の主はもう少し目線を下げた先にいらっしゃった。
白い帽子を被った銀髪の少年だ。
服装も含めて全体的に白っぽい。
あっれー?
僕よりガキっぽいのいるんですけどー?
「新人のカイト君はまだわからないと思うから教えたげる!カイト君はここ!」
背中を押されて別の掲示板の前に連れてこられる。
なんで僕の名前しってんだ。
「そうなの?」
「うん!」
「ユキ!行くぜ。」
「はぁ~い!」
ユキと呼ばれた少年は仲間の冒険者に呼ばれて行ってしまった。
誰だったんだ…。
「お!早速依頼受けるのね!」
やってきたのはミーナさんだ。
受付に並んでいた冒険者達はもういない。
さっきのユキ少年のパーティーが最後だったのかな?
いや、最後はこの僕だ。
「あら?ここはFランクよ?あ!カイト君字読めなかったわね!忘れてたわ。」
あれ?
ここだって教えられたのにな。
あー理解。
初心者のFランク冒険者と思われたのか。
そりゃそうだ。
昨日冒険者になったんだもの。
「Dランクはここ!あ、でも一人で受けるならFランクからよ。」
ん?
どゆこと?
ミーナさん曰く、そもそもランクは一人一人に与えられる。
あなたはAランクです。って感じで。
でも一人じゃなかなか…って人の為にあるのがパーティー制度だ。
パーティーで行動すれば成功率は上がる。
でもその分、依頼を達成すると得られるランクはパーティー単位だ。
あなた達はAランクパーティーです。って感じ。
しかし気を付けないといけないのが、パーティー単位でランクが上がっても個人のランクは上がらないようになってる。
つまり、個人個人はEランクだけどBランクのパーティーみたいなのが存在するってことだ。
「だから個人ランクをあげとくことをおすすめするわ。なかなかいないけどね。」
てことで、僕はシュリとダンと3人揃えばDランクパーティーだって認められてるわけなので、個人としてはFランクの冒険者なわけだ。
なんじゃそりゃ。
結局シュリと別行動を取った時点でFランクから確定じゃないか。
「あ、それとさっきダン君が戻ってきたんだけど、やっぱり今日は宿に戻るって言ってたわ。」
ええ?
ダンどうしたんだろう。
気になるな。
気になるけど、依頼も受けたい。
「そうなんですか?」
「ええ。カイトには依頼受けるように言っといてって言われたわ。」
えー。
なんだそれは。
なんだか寂しい。
「えーっと、じゃあおすすめの依頼ってありますか?」
「自分、もしくは自分達のランクの1つ上のランクの依頼は受けられるわ。これなんていいんじゃない?Eランクよ。」
そこにはウルフを1匹以上討伐するように書かれているらしい。
余裕だ。
ちょちょいとやった風魔法で首が飛ぶ奴らだ。
ちょちょいのちょいだ。
じゃあこれを受けて宿に寄ってから行こう。
ダンが気になるからね。
ミーナさんに手続きをして貰った。