港町ウェーヌ
今回少し短めです。
自警団と思われるおっさん達の詰所を出ると、日はもう傾いている。
染々と長旅を終えたっていう達成感が込み上げてきた。
だって1ヶ月だよ?
ここまで長かった。
あんまり疲れなかったけど。
乗り物はあるし、水が飲みたきゃ左手からちょちょいだし。
それでも美味しい手料理と柔らかい布団が待ち遠しい!!
「カイト!あなたの気持ちも分かるけど、まずは資金調達よ!何をするにも金がいるわ!」
確かにそうだ。
到着を心待ちにしてたのは僕だけじゃなくシュリもなのだ。
「俺寒い。」
ダンはよく分からんけど、南国じゃないから寒いらしい。
上半身裸だからな。
服着てくださいと言うしかない。
「上半身裸はさすがに目立つから後で服買おうか。」
「冒険者ギルドに行きましょう。きっと色々買い取ってくれるはずよ。」
入り口から続く道を真っ直ぐ行くと広場があった。
なんでか知らないけど人通りは無い。
左手に行けばもうひとつの出入り口に、右前方に進めば海に出られるらしい。
広場からすぐ傍の凄く目立つところにその目的地はあった。
今歩いて見てきた中でも一番大きな建物だ。
中は想像と変わらず、広めの部屋に机と椅子がいくつかと壁際の長椅子がある。
冒険者らしき人影は見当たらない。
いや、長椅子で寝てる奴がいた。
仕事しろよ。
壁一面には依頼書が貼り巡らされていて、ランク毎に分けられているみたいだ。
カウンターにはニコニコとガン見してくる女の人の姿があった。
「はじめまして。冒険者ギルドは初めて?」
「はい。」
「私はここの受付嬢をしているミーナよ。宜しく。」
「カイトです。」
「ダンだ。」
「私はシュリよ。この二人の身分証もお願いします。私のはコレね。」
「あら、話が早くて助かるわ、じゃあそこのお二人さんはこっちに来て。シュリちゃんのはすぐできるわ。」
ミーナさんは茶髪の普通の美人だった。
まあ受付嬢なんてそんなもんかな。
書けと言われた書類に色々記入していく。
ここで知ったんだが、ダンは文字が読めないらしい。
つまり書くことも出来ない。
言っときますけど僕もそうです。
言葉だけは日本語なのに字は違うんです。
シュリにバカにされたのです。
シュリに代わりに書いて貰う。
出身はラザンということにしたらしい。
ちょっとハラハラしたけど、特に問題はないみたいで受付嬢は書類をもって奥に引っ込んだ。
「あなた達は辺境の村ラザンで育った幼馴染みね。分かった?」
シュリの中ではそういう設定が構築されているらしい。
そこらへんはシュリに任せよう。
ダンは少し納得がいかないみたいだけど。
「はい、お待たせ。ここに手を置いて。マナの登録をするから。」
シュリ曰く、一人一人マナに違いがあるらしく、指紋みたいに個人を特定出来るらしい。
「はい、これがダン君の、これがカイト君の身分証よ。無くさないように装飾品にして身に付けといて。」
丸いビー玉サイズの魔石を渡される。
これが身分証だなんてそれなりに進歩してるんだー。
少し感動してると金を請求される。
「冒険者ギルド加入料で20メルテずつが3人分、身分証発行手数料で100メルテずつが2人分、合計で260メルテよ。手持ちが無ければつけとくけど、どうする?」
金取るのかよ。
まあボランティアじゃないもんな。
そんなもんか。
シュリが大人しく支払っている。
お世話かけます。
「はい、確かに。他に何かある?」
「肉とか買い取って欲しいんですけど。」
「え?ああ、アイテム袋があるのね?それって解体は済んでるのかしら?」
「済んでないのが多いです。」
「わかったわ、ベス!仕事よ!係りの者が担当するから、二階に行ってくれる?」
そう言われて受け付け横の階段を登ると、そこには獣がいた。
と思うほど、異様な光景の広がる部屋だった。
鹿みたいなのやら熊や狼の剥製?が飾られている。
しゅ、趣味悪い…。
この階にもあった受け付けで待っているとドタドタと足音が近づいてきた。
現れたのは少し額が後退してきているゴツいおっさんだ。
この人がベスさんかな?
「待たせたな!じゃあ出してくれ。」
そう言われてとりあえずさっきのウルフ約20匹とフォレストウルフ約25匹…。
「ちょっと待て!多くないか!?」
「まだまだあります。」
「奥の冷蔵室に頼む。」
ですよね。
受け付けでこんなに出されても迷惑ですよね。
すみません。
やって来ました冷蔵室。
ダンは寒いからって外で待ってるらしい。
「おいおい、イエロータイガーがいるじゃねえか。ちょっとまて!これはレッド…」
ベスさんが口をパクパクさせている。
なんかまずかったですかね?
「これはお前達が倒したのか?」
「ええ。」
「…もうすでにBランクレベルかよ…。」
ベスさんがブツブツ言っている。
とりあえず換金はしてもらえた。
一番高く売れたのは角うさぎさんだ。
あれ、うまいもんね。
トラ達の毛皮は防具の素材になるから売らない方がいいと言われたがまだ数匹いるから結局売ることにした。
ベスさんが嬉しそうなのは剥製にするからに間違いない。
下に降りるとミーナさんが待っていた。
「待ってたわよ。あなた達、外にいたウルフを撃退したそうね。さっき門番から連絡があったわ。」
「ええ。ダメでしたか?」
「まあ仕方ないわね。」
本当はギルドに来ていた依頼だったから、部外者に横取りされた形になるらしい。
でも僕らはもう部外者でなくなったから文句の言いようが無いと。
そういうことですね。
「今回は特別ね、発生したのはさっきだし、まだ誰も受けてなかったから、あなた達が依頼を達成したことにしてあげるわ。」
「ありがとうございます。」
「あの依頼をこなせるんならFからじゃなくていいわね。あなた達は今日からDランクよ。さあ身分証を出しなさい。」
なんてこった。
冒険者当日にランクがあがってしまった。
薬草集めからゴブリン退治までコツコツ努力をしてやっとランクがあがり、その喜びを皆で分かち合う予定だったのに。
なんてあっけない。
僕の冒険者成り上がり計画が瓦礫のように崩れ落ちた。
「いいんですか?そんな簡単に上げちゃって。」
「ええ。私ここのギルドマスターだから。」
…。
ええええ!
ただの受付嬢じゃなかったのか。
なんてこった。
普通の美人とか評価してしまった。
「じゃあ他に何かある?」
「良い宿を教えて下さい!」
そうして一行はようやく宿に到着した。
御飯も風呂も堪能してあとは寝るだけだ。
今回は奮発して個室を3部屋取ったから少し寂しいけど、ぐっすり眠ることができた。
チュンチュン。
小鳥のさえずりで目覚めるという完璧に爽やかな朝を迎えた。
朝のコーヒーでも飲もうかと一人食堂で寛いでいるご機嫌な僕にダンがこう言った。
「なあ、カイト。目玉知らねえ?」
え?
目玉なら顔に2つ付いてますやん。
冗談はさておき。
なるほど、ダンの胸は元の胸板があるばかりで、瞼のような切れ目は見当たらない。
目ん玉野郎が蒸発してしまったようだ。
「昨日の身体検査か?あん時はまだいたんだけどな…。」
ダンは頭をボリボリと掻きながら言う。
それ以降の記憶は無いのか。
目ん玉野郎のこと好きじゃないけど、さすがに可哀想だ。
「ま、いっか!あー腹へった。カイトはもう何か頼んだのか?」
いいのかよ。
もうメニューを嬉しそうに眺めている。
子供か。
っていうか服着ろ。
ダ「本当に旅立っちまったんだな…。」
カ「その内戻ってきたりして。」
シ「ぐー。」
ダ「それより腹へった。」
カ「…哀れな目玉、同情するよ。」
シ「ぐー。」