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ソウルトリガー

作者: ソラ

初の短編小説です。

時間があれば読んでください。



2075年 2月14日 午前7時30分


「フッフンフンフン♪♪」


1人の少年が鼻歌を歌いながら東京の街を歩いていた。少年の気分がいいのは今日が2月14日、バレンタインデーだからだろう。といっても少年は今までバレンタインデーでチョコを貰った覚えなんて一度もない。ならなぜこんなに嬉しい表情をしてるのか。それは……。


(よっしゃぁぁぁっ!! ハーモニーのバレンタインデーライブのチケット当たったぁ!!」


ハーモニー。1年ほど前に結成された平均年齢16.5才の女性アイドルチームだ。デビュー数ヶ月でCDやアルバムはミリオンを達成。さらに去年は東京ドームでのビッグライブを大成功させ今では知らない人などいないほどの人気を誇っている。まだハーモニーが有名になる前、少年は去年の冬からハーモニーのファンだった。たまたま商店街でライブをしていたハーモニーを見かけたのがきっかけだ。道行く人にバカにされ、笑われたりしても彼女達は諦めずにライブを続けていた。そしてその勇気が認められたのか、いつの間にかその商店街を利用するほとんどの人が彼女達を応援していた。そして今日は年に一度のバレンタインデーライブ。今日、この地区のライブハウスで開催されることになったのだ。この地区に住むほとんどの人がチケットを手に入れようとしたのだが、ライブを見る権利があるのは抽選で選ばれた150人。少年はその150人の内の一人に選ばれたのだ。


(バレンタインデーは女子からチョコを貰う日だと? はっ! くだらない。 そんな古臭い習慣なんてさっさと時代の流れに飲まれてしまえ。現代においてバレンタインデーはハーモニーのライブを見に行く為だけにあるんだ)


少年はヘッドホンを外すと少しばかり辺りを見渡した。どこもかしこもバレンタインデームードで一色。そして店の前でどのチョコがいいか悩む女子共。あいつらきっとリア充だ。耳にピアスあけてるから。

本当にくだらない。少年は再びヘッドホンをすると自分が向かう場所へ歩き出す。



(ハーモニーのライブは午後7時からだな。はぁ〜それまであの息をするのも苦しいリア充の巣窟で無駄な時間を過ごさなきゃいけないのか。まじだりぃー……)


少年は今一度周りを見渡す。そして一言。


「リア充……死滅しろ」


誰にも聞こえない声で呟き、そして先ほどより少し早く歩き出す。




東京都 都市ナンバー14。それが少年の住む街の名前だ。少し前まではこの街にもちゃんとした名前があったのだが今ではナンバーで決められてしまった。国民もそれについては激しく講義することもなくこの件についてはサラッと流されていった。

そして少年は今、自分の通っている学校の前にいる。


花宮中学校。


「街の名前はないのに学校の名前はあるんだな」


それは少年がいつも思っていることだ。靴箱でスリッパに履き替え、自分のクラスに向かう。


(なんで最高学年のクラスが一番遠いんだよ。チクショー)


少年のクラスはここから一番遠い三階の端にあるクラスだ。少年はヘッドホンを外して首にかけると携帯の音楽をきる。教室に着くとほとんどの人間が辺りを見渡したりソワソワしている。お前らどんだけチョコ欲しいんだよと心の中で思う。

少年が席に着くと同時にチャイムが鳴り担任の女性教師が入ってきた。


「はいはい男子ー。席につけよー。今日はお前らにプレゼントだ。一人二つまでなー」


そう言って持っていた籠の中から小さいチョコレートを取りだす。他の男子が大喜びでチョコを取りに行く中、少年は心の中で笑っていた。


(ほんとバカな奴ら。そんなにチョコが欲しいのかよ。ハーモニーのメンバーからチョコを貰ったら飛んで喜ぶんだけど、教師に貰っても何も嬉しくねぇだろ)


さっさと授業の準備でもしようと教科書を取り出そうとすると前から女性教師が現れる。


「ほら、龍山。お前の分だ」


そう言われ机の上に置かれる二つのチョコレート。女性教師はそのまま教室を出ていってしまった。


「余計なお世話だっつの」


小さく呟いて机の上に置かれたチョコレートをポッケにしまった。



長かった学校が終わると少年……龍山ホタルは一番に教室を出た。現時刻は4時。ハーモニーのバレンタインデーライブの時間は6時30分。ここからハーモニーのライブが開催される会場まではそうはかからない。一度家に帰って準備して行こうと考えたのだ。


「本当まじでだりぃよ。さっさとこんな学校卒業してぇー」


そう愚痴りながらも足は自然と動く。学校を出ると首にかけてあったヘッドホンをつけて音楽を聴きながら走り出す。聴いてる曲はもちろんハーモニーの曲だ。走っている足を止めずに家まで駆けて行く。


「ただいまー!」


家に着くと急いで階段を駆け上がり自分の部屋へ向かう。部屋に入ると学生服から私服へと着替え、昨日の内に用意していたバッグを持って家を飛び出す。


「行ってきまーす!」


家を出るとヘッドホンをつけて側に置いてある自転車に乗り会場を目指す。


(このペースで行けば15分くらいで着くだろ)


自転車をこいでいると朝通っていた商店街に人が溜まっているのが見えた。最初は 本当お前らチョコ好きだなぁ。太るぞ?太って死ねクソリア充共、と思ったのだが奥に見えるパトカーを見ると嫌な予感が頭を巡った。

気になって覗いてみるとそこには黒焦げになったチョコレート店があった。

よく見ると真ん中に人の様なものが見えた。様な物と変な言い方をしているのは自分でも分かっているのだが、目に映った全身黒焦げで倒れている二つの塊は明らかに人間だと思える。


「おいおい、事件?」


「こんなとこで火事かよ」


「奥に死体あるよ」


「まじ? 殺人事件?」


ホタルは思った。


(なるほど。俺と同じでバレンタインに不満を持つ奴が殺ってくれたか。ナイスだその人。無事に逃亡できることを願っている)


ホタルは再び自転車をこぎ出す。これ以上ここにとどまって時間を無駄にする訳にはいかない。


「急ぐか」


少しペースをあげて事件の現場から離れる。その時は急いでいて気づかなかった。

ホタルの側にいた男性がハーモニーのライブチケットを握りしめて笑っていたことに。



自転車置き場にチャリを止めて急いで列に向かって走り出す。すでに長い列が形成されていてホタルは後ろの方になってしまった。


「座席表は決まってるからまぁ大丈夫か」


携帯で時間を確認する。時刻は午後6時10分。開場まであと20分。それまで携帯ゲームでもするかと思っていると前から声をかけられた。


「おー!! ホタル殿じゃないか」


声の主は茶色のコートをしていて頭にはハチマキをしている少し太った男性だった。ハチマキには I LOVE HARMONYと書かれている。ホタルの数少ない友人の一人だ。


「よぉ西門寺。やっぱお前は前の方にいたのか。つか列から出て大丈夫なのかよ」


「心配するな。すでに場所取りはしている」


おそらく自分のいた場所にいつものでかい荷物でも置いているのだろう。西門寺 盾春はホタルと同い年で、15才でありながらすでにプロの漫画家として活躍している。ホタルと知り合った経緯は言うまでもなくハーモニーのライブの時だ。たまたま席が隣だった事をきっかけに同年代ということもありすぐに意気投合したのだ。


「ふむ、ホタル殿は今回は遅かったな。何時もなら俺と同じで1時間前や2時間前にはすでに並んでいるはずなんだが」


「言ってなかったっけ? 学校あるから少し遅れるって」


西門寺は現役の漫画家なので学校には通っておらず ひたすら仕事場で漫画を書いている。今日はハーモニーのライブということもあって仕事は休んだのだろう。


「ふむ、なるほど。確かにそんな連絡があったな。ならば同胞よ。今日はおおいに楽しもうではないか」


「言われるまでもねぇよ」


西門寺はササっと自分の場所へ走っていった。時刻は6時30分。……時間だ。

扉が開くと同時に雪崩の様に人が入っていく。何とか流されないように自分の座席へ向かう。


「ふぅ、ここか」


自分の座席に座るとまずは前がよく見えるか確認。前に座っている人はそこまで背が高くないので前はよく見えた。


「トイレすませとくか」


座席を立ってトイレへ向かう。この時間ならまだトイレはそんなに混んではいない。早くすませなければトイレが混んでその間にライブが始まってしまう場合がある。

トイレを済ませ座席に戻る頃にはほとんどの人が座席に座って待っていた。

そろそろライブが始まる頃だろうと思っていると徐々に辺りが暗くなっていく。それと同時に周りの人がはしゃぎ出す。


「始まった……!!」


ホタルもはしゃぎ出す心を抑えれず周りの人達と同じく声を出して叫ぶ。


「みんなぁ〜待ってたーー!? ハーモニーのバレンタインデーライブ! 始めるよぉーー!!」


一人の少女の声が聞こえた瞬間、会場が震えるほどの大歓声が辺りに響く。

少し明かりがつくと そこにはホタルと同じくらいの年の女の子が6人立っていた。


「はーい!! 皆の妹りんりんだよーー!!」


最初に挨拶したのは長い金髪をした女の子 りんりんだ。メンバーの中で最年少の少女で、妹系キャラとして人気を誇っている。そして今度はその隣の女性が挨拶した。


「久しぶりーー!! いつも笑顔がモットーのハルカだよー!!」


茶髪のポニーテールでメンバーの中でも最年長の女性 ハルカ。バラエティ番組で一番よく見る子だ。


「待たせてゴメンねー!! 少しおっちょこちょいの ソラでーす!!」


青色の肩までかかるセミロングの女性。話によると何もない所でこけたり、お茶を溢したりと、かなりのドジッ子らしい。


「ハローー!! スーパーアイドル マイだよーー!!」


黒髪のツインテールの女性。可愛いものが好きという少女趣味の持ち主で部屋はぬいぐるみで一杯だという噂がある。そして真ん中に立った赤い髪のロングヘアの女性。彼女こそがハーモニーのリーダーでありメンバーの中でもトップクラスの美貌を持つ女性。


「帰ってきましたーー!! リーダーのミライだよー!!」


全員が揃ったことで会場はますますヒートアップする。ホタルも大声でメンバーの名前を叫んでいた。


「それじゃあ早速 一曲目いくよー!!!」


音楽が鳴りだし一曲目がスタートする。やっぱりハーモニーは最高だ。そこらにいる他人の愚痴しか言えない女子共なんかとは天と地の差だ。本当バレンタインデー最高。この時まではそう思っていた。今まさに歌い出そうとしていたその時にソレは起こった。


シュボォォォオォオ!!!!


そんな音が聞こえた瞬間 ステージの端が突然焼け焦げた。その光景を見て周りの人も混乱する。ハーモニーのメンバーもパニックになっていて歌えない状況になってしまった。


(おいおい。なんだよ突然)


すると突然誰かが大声で叫ぶのが聞こえた。


「聞けぇえ!!! お前ら全員には人質になってもらう!! 余計な真似はよせよ! 変な事をした奴はこうだぞ!!」


男が右手を軽く振るうと今度はステージの左端が爆発した。周りの人は突然の出来事でパニックになってしまった。怖くなって逃げようとしている人達がいるが扉が開かないのか立ち往生していた。すると今度は扉の前にいた人達が爆発した。

観客の悲鳴が会場を震わせる。爆発した人は言わずもがな、帰らぬ人となってしまった。


「ったく、余計な事はするなっていってんのによ」


(なんかやばくねぇか)


パニックになって混乱している人達。死体を見て気分を悪くしたのか嘔吐している人に気絶している人。ステージで固まってしまっているハーモニーのメンバー。反応の仕方は多種多様だが全員、恐怖という感情に押し潰されていた。


「おい! 早く席に着け!! さもねえとテメェらも爆散させるぞ!!」


犯人の男は観客に席に座る様に命令する。扉の前に立っていた人達は大急ぎで自分の席に向かう。

そんな時、一通のメールがホタルの元に届いた。



FROM 西門寺


件名 なんだこれは?


これってなに? 夢? 夢だよね?



(夢じゃねぇよっと)


西門寺にメールを返すと今度は違う奴からメールが届いた。



FROM ウィーク


件名 なし


大変な事になってるね。今は会場の前で皆とどうするか話合ってるんだ。ホタル一人で終わらせてくれれば早いんだけど。結論 がんばって。



「あいつら……」


ホタルは携帯をしまうと犯人の男の方を向く。犯人の男は階段を下りてステージの方へ向かっていた。


「よう、ハーモニーの面々。怖がらせて悪かったな。大丈夫だ。俺はお前らの味方、本物のファンだ」


男はここにきて意味がわからないことを言う。人質にとっておいて何がファンだよとホタルは思う。


「大丈夫だ。ここにいる偽物のファンとは違う。俺はお前らの為に人を殺してんだ」


「何を……言ってるんですか……」


リーダーのミライが犯人に聞く。ホタルはその言葉に激しく同意する。


「一週間前にな、ネットでお前らの悪口言ってた奴がいてな。そいつの家を調べ上げて燃やし尽くしてやった。こんなふうにな」


男はそういうとステージの奥へ手をかざす。すると男の手のひらから突然炎が出現し、その炎は生き物のようにステージの奥へ突き進み一瞬で灰にしてしまう。他の人も なんだよあれと言った表情をしている。


「驚いたか。俺もこの力を知ったのはつい最近なんだ。超能力ってか。最高だよこれは! この力を使ってお前らのことを悪く言った奴らを皆殺しにしてやったんだ!!」


男は悪魔の様に笑う。その言葉を聞いて周りの人はさらに恐怖してしまう。



人間の本能だ。誰もが死の前では恐怖してしまうものだ。しかし周りの人が恐怖しているなかホタルだけは全く違う事を考えていた。


「……本当にめんどくさ」


そう言うとホタルは席を立ちステージの方へゆっくりとおりて行く。


「君! 危ないよ!!」


途中他の人に止められるがそれでも気にせずおりて行く。その注意した声が男にも聞こえたのか男はこちらに向かってくるホタルに気づく。


「おいガキ!! 誰が席を立っていいって言った!!」


男はホタルの少し前に炎を放つ。牽制のつもりなのだろうか。それでもホタルは進み続ける。その行動が男の気に障ったのか、男も怒りをあらわにする。


「止まれって言ってんだろォォがァァ!!!」


先ほどよりも大きく、それでいて速く放たれた炎は一直線にホタルの方へ向かう。あと少しで直撃するといった所でその炎はホタルの目の前で消えてしまった。その事に男は驚きを隠せない。


「なっ!? なんだ、なんだよ…… !、 ふ、ふざけんなぁァァァァ!!!」


男がさらに巨大な炎を作り出そうとしている所へホタルは話掛ける。


「お前さ、少し前に商店街でチョコレート店燃やさなかった?」


会場へ向かう途中で目に入った黒焦げになったチョコレート店と焼死体。それがホタルの中で引っかかっていた。


「あぁ!? チョコレート店だぁ?……ああ、あの店の事か。店の前でイチャイチャしてる学生を見てイライラしちまってつい殺っちまった。いやぁ あの学生の恐怖に怯える表情がもう最っ高でなぁ!」


「ふぅん……」


男は喋りながらも炎を作っている。そこにホタルは更に語りかける。


「最初はさ、顔も名前も知らねぇお前に感謝してたんだぜ。バレンタインデーでウキウキイチャイチャしてるクソリア充どもを殺してくれてありがとうってな。けどよぉ……」


言葉を一旦区切る。そして……


「俺のバレンタインデーの唯一の楽しみであるハーモニーのライブを邪魔した罪は重いぜ」


「あぁ!?」


ホタルはあと数歩でステージというと所で立ち止まる。男はホタルを警戒していた。先ほどの炎を消したトリックがまだ分かっていないからだ。


(一体なんなんだこのガキは。まあいい。さっきのは炎の速度を上げた事で空気抵抗を受けすぎてガキに当たる前に消えちまっただけだ。こんだけでかい炎なら確実に殺せる)


ホタルと男の距離は10メートルちょっと。これだけ近かったら狙ってなくても当たる。もし避けられたとしても後ろの観客に当たってそこから会場が燃え出せばガキに逃げ場はない。


「死ねェェェェェェェエ!!!!」


高火力の炎の塊がホタルに向かって放たれる……筈だった。


「どこ狙ってんだよ」


ホタルがいる場所。それは男のすぐ目の前だった。


「なぁ!!?」


驚きのあまり集中力が消え、作り上げた炎はそのまま消えてしまう。しかしその事よりも目の前にいるホタルに注意がいってしまっている。


(なんでだ!? さっきまではまだ階段の方に居たはずだ。なのに何なんだよこのガキはよぉぉ!)


「まさか、自分と同じ存在がこの世にいるなんて思わなかったのか?」


「なっ!?」


自分と同じ存在。目の前のガキも俺と同じで 能力を持った人間なのか。そう考えついた瞬間、男は笑った。


「ククッ…なんだ、なんだよ! 同類じゃねぇか!!」


「あ? んだよいきなり」


目の前の男の発した言葉にホタルは疑問を浮かべる。


「だってそうだろ!!お前も選ばれた人間なんだろ!! これを同類と言わずになんて言うんだよ!!」


「……」


ホタルは男の言葉を黙って聞いていた。男は更に話す。


「この力があれば何もかもが思い通り!そこらへんにいる普通の人間がゴミの様に見える!!お前もそうなんだろぉ!!」


ホタルは反論しない。この男の言うことはある意味事実だからだ。同学年の奴らを見ているとバカやってるようにしか見えないし、威張ってる奴なんかを見るとアホらしくて笑ってしまいそうになる。女子に至っては他人の愚痴しかこぼさない。ホタルにとって学校の人間は知能の無いサルが動いているようにしか見えていない。


「……ああ、確かにそうだな」


「だろ!! なら俺と組め!! 俺たち能力者が集まれば世界を征服することも簡単だ!! 欲しいものが何でも手に入る!! お前の大好きなハーモニーだってお前専用にだってできるぞ!!」


ハーモニーをホタル専用にできる。確かにそれはホタルにとっては夢のシチュエーションだ。しかし……


「まぁ、今俺の目の前にとびっきりのゴミがいるけどな」


「あ?」


ヘッドホン越しに男の苛立った声が聞こえた。しかしそんな事を気にせずホタルは続ける。


「聞こえなかったのか? 俺はゴミクズなんかと組む気は微塵もねぇ。そう言ってんだよ」


「………あぁ、そうかよ」


男は少し後ろに下がりポケットに手を突っ込む。そして次の瞬間、ハーモニーのリーダーであるミライを羽交い締めにした。頭には拳銃を突きつけて。


「動くんじゃねぇぞ!! 動いたらこの女の頭に穴が空いちまうからな!!」


苦し紛れの策が人質か、とホタルは呆れた。そんなホタルに向けて男は話す。


「おいっ! お前も来い!! てめぇが本当に能力者だったら表にいる警官くらい訳ねぇだろ!! 選択肢は無えぞ」


「………」


ホタルはミライの方を向く。ミライは涙目で助けを求めていた。当たり前だ。死を間近にして冷静になんかなれる訳が無い。

もしここにいるのが警官なら人質を助ける為に犯人の要求は可能な限り聞くのが普通なのだが……


「いいよ。殺せば?」


「はぁ!?」


ホタルはただの中学生だ。サスペンスやドラマなどの様に人質の為に、なんてことにはなりはしない。


「た、助けて……」


小さい声で助けを求めるがホタルは気にもしない。龍山ホタルという人間は非効率な行動はとらないのだ。


「クソッ!! テメェェェェェェエ!!」


ホタルの態度についにブチ切れたのか、男は拳銃をホタルの方に向ける。


「死ねェェェェエ!!クソガキィィィィィィ!!!」


バチンッ


辺りに電気が走った音が響く。そしてその瞬間、ホタルの左足が男の顔面を蹴り飛ばした。


「がばっ!?」


そのまま足を振り抜き男は数メートル程飛んで行った。人質になっていたミライは突然の事で混乱している。

ホタルは携帯を取り出し外の仲間に 終わったとだけ連絡する。そして気絶している犯人の男に向けて吐き捨てる。


「トリガーのことも知らねぇ雑魚スケが、俺と同類だなんてぬかすんじゃねえよ」


扉が開けられ中に武装した警官が入ってくる。そこに居たのは呆然とした観客と気絶した犯人と腰を抜かしたハーモニーだけで、事件を解決したヘッドホンの少年の姿はなかった。



ホタルは一足先に会場を出ていた。我ながらあんな奴にトリガーを使う羽目になるとは思っていなかった。そんな落ち込んでいるホタルに声を掛ける人がいた。


「やぁホタル。お疲れ様」


優しい口調で話しかけてきた奴の顔を睨む。すこし金に染まっている髪に雪の様に白い肌、そして絵に表した様な美少年。その美少年に少し苛立った声でホタルは話しかける。


「てめぇウィーク。見てたろ?見てたんだろ? 見てたんなら手伝えよ」


「ごめんごめん。だって皆やる気ゼロって感じだったしさ。僕一人行った所でホタルの邪魔になっちゃうでしょ?だから影で応援してたよ」


まあいいやとホタルはそれ以上追求しなかった。終わったことをグチグチ言うのはバカのすることだ。


「それで、その皆はどこにいったんだよ」


「あっ! 皆は報酬金だけもらって帰ったよ」


その言葉を聞いてホタルは反論する。


「おい、あいつら何もしてねぇじゃん!むしろ俺しかしてねぇじゃん!なんであいつら報酬金もらってんだよ!?」


「大丈夫だよ。取り分はホタルが一番多いから」


「そういう問題じゃ……もういい」


はぁぁっと大きなため息をついてその場にしゃがむ。こいつと喋るといつも疲れてしまう。ホタルは立ち上がり会場を見上げる。


「お前の予想が的中したな」


「まあね」


そう、ホタル達は依頼されたのだ。警察の偉い方が最近の連続放火犯の調査をしていて、犯行の手口が全く分からない。犯人を見つけてくれと土下座までして頼んできたので依頼を受けたのだ。ウィークの予想はその放火犯がハーモニーのファンではないかという仮説だった。最初に殺害された被害者がハーモニーの事をかなり嫌っていたことを知り、もしかしたらと思ったのだ。そしてライブ当日に何か仕掛けてくるんじゃないかということでホタルは依頼の為、そしてライブを見る為に会場を訪れたのだ。


主に警護やハッキング、トリガーによる犯罪といった依頼を得意とする超能力の集まり。


それがホタルが所属するチーム


トリガー犯罪捜査組織ニューイヤー。


「あ、そうだ。ホタルが仕事してる間にもう一件依頼が来てね。そっちにレイが向かったんだけど僕とホタルにも出撃の命令が下されたよ。さあ、行こう」


「はぁ!? 何で俺が!? 今日暇してる連中沢山いるだろ!? いるよな!?」


「残念だけど命令なんだ」


ホタルの不満だけが溜まった今年のバレンタインデーが終わるのはまだ先の事になりそうだ。

貴方も何か困った事があれば是非訪ねて見ては?




読んでいただきありがとうございます。

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