第6話 僕ちゃんわかんなーい
かつて、勇者が魔王を打ち倒した。
それは、人間にとっての、平和の始まりで。
それは、魔族にとっての、地獄の始まりだった。
魔王という強大な指導者をなくし、魔族軍の連携は崩壊した。
それ以降、魔族は一族ごとに人間から逃げ続け、深い森の中、海の底、空気の薄い高地といった人の手の入らない地域に逃げ込み、襲い来る人間とゲリラ戦を繰り返していた。
しかし、魔王を失い、統率を失くした魔族にはどうやっても勝ち目はなかった。
こうして人間に敗北した魔族の扱いに関して、人間の国家はルールを作った。
一つ、人間に所有されていない魔族を捕獲した場合、その魔族は捕獲した人間の所有物として登録することが出来る。
一つ、所有物とした魔族は、全て所有者の責任で管理される。
一つ、魔族の所有権は所有者の意思で自由に変えることが出来る。
一つ、魔族の管理に不届きがあり、なんらかの形で人間を加えた場合、所有者だけでなく、周囲の全ての人間にその魔族を殺害する権利を与える。
「細かな条約はまだいくつかあるが、基本的な魔族の扱いはこんなものじゃな」
それが黒渡の説明だった。
「つまり、全ての魔族は人間の持ち物で、周りに迷惑かけなきゃ魔族は所有者の好きに出来て、下手に暴れようものなら人間みんなでぶっ殺せって言うことですかな?」
「ああ、そうだ。それが、この世界の、この時代の魔族の扱いじゃ」
「……ふうん」
そんな生返事だけして、杉原は空を仰いだ。
木々の間から月の光が漏れていた。
そんな幻想的な風景を、杉原は何を考えているのか分からないような表情で見つめていた。
「……柊様は、この話をするとお主がこの世界を嫌うかもしれないと言うてな。それで、今まで黙っておったそうじゃ。お主はひねくれておるが根は優しい男だから、とな」
「なんすかそれー、僕はただの面白いこととエロい話が好きな男子高校生ですよ」
「食事の際には、毎度手をきちんと合わせるような律儀な奴が何を言うか」
「うわあ、師匠そんなところまで見ていたんですね」
「……お主は、この話を聞いてどう思ったのじゃ?」
「いやあ、人間ってのは変わんないにー、ってだけですよ。それより、今はこの状況をどうするかですよ」
そこで杉原は一度話を切り、有栖達の方に目を向けた。
有栖達は、杉原と黒渡が会話している間も動かなかった。
否、動けなかった。そして、杉原は有栖の魔力の流れ方からそのことに気付いていた。
「あー、そっちの弥蜘蛛さん、でいいよな?」
「……人間相手にさん付けされても気持ち悪いだけよ」
「そうかい? じゃあ敬称は省略させてもらうぜ。弥蜘蛛、君は怪我をしているな? それも体内に、だ。魔力暴走でも起こしたか?」
「……そう。ばれちゃったのね。じゃ、……仕様がないわね!!」
という叫び声と共に、有栖は指先から糸を放出し杉原を絡め取った。
粘着質の糸が杉原の体にまとわりついた。
「うわ。ねばねばするわー」
「ひとみ!! アンタは逃げなさい!! 奴らが気付く前に、奴隷魔法の効果範囲外まで逃げ切れば居場所の探知を防げるわ!! こいつらは私が抑える!!」
「で、でも、そしたらお姉さんが!!」
「構わない!! 私はどちらにせよあいつらからは逃れられない!! なら、あなただけでも!!」
「いや、盛り上がってるところ悪いが僕は君らをどうこうする気はないんだぜ?」
「そんな言葉を、信じられるわけないじゃない!!」
「だろうね。でもこの糸は鬱陶しいな」
その瞬間、黒渡が杉原の肩から飛び立ち、杉原は体に火を纏った。
初級火魔法サラマンダークロスである。自分の周囲に耐熱魔法を張った上で魔法の炎を纏うものだ。
「な!? 無詠唱魔法を使えるの!? だけど、その程度では私の糸は、燃えはしないわ!!」
言葉通り、火は糸を焦がすが、焼き切ることは出来ない。
「頑丈な糸だなァ、参ったもんですニャア」
「アラクネの蜘蛛の糸は強度と柔軟性、そして耐熱性も併せ持つのじゃ。あの糸はアラクネの固有魔法で、魔力が練りこまれているからの。どちらかと言えば氷を使えば、糸が固まって折れるようになるぞ」
「氷魔法か。あれは雷なんかと同じ上位派生魔法だからな。上位派生魔法は中級の魔法です。僕にはまだ使えないんですよ。……でも、そうだな。糸が魔法だってんなら、コイツでいいか」
そして、杉原は纏わりついている糸を掴んだ。
「魔法崩し(マジックディスターブ)」
金属と金属をぶつけ合わせたかのような、甲高い音が響いた。
そして、糸は容易く引きちぎられた。
「マジックディスターブ!? そ、そんなのを使える奴が!! レベルは低いのに、なんて厄介な技術を持っているの!!」
「だ、駄目、お姉さん。頑張って逃げるんだよ!! 戦っちゃ駄目なんだよ!!」
「いや、だからお前らちょっと落ち着けよ」
「落ち着いてなんて、いられる訳ないでしょ!! 人間め!!」
そして、再度アラクネは糸を出そうとした。
しかし。
「が、がはッ!!」
アラクネは口から血を吐き出し、八本の蜘蛛の足が力をなくし、地に倒れこんだ。
「ああもう。言わんこっちゃないな」
そんな様子の有栖を見て、杉原は平然と近寄って行った。
「ひとみ、アンタだけでも逃げなさい……」
「駄目、なんだよぅ……。お姉さんを置いていけないんだよぅ……」
ひとみは涙をぽろぽろと溢しながら、有栖にすがりつく。
「なんか、僕が悪役みたいで凹むねえ。アハハ。まあ、確かに僕は善人なんかじゃあないけどさ」
そんなことを言いつつ、杉原は有栖の前で立ち止まった。
「お前……、ひとみに手を出したら――」
「はい、回復―」
そして有栖の言葉を遮り、彼女に初級回復魔法を掛けた。
「「な――!?」」
ひとみと有栖の驚愕の声が重なった。
有栖の全身の傷はじわじわと回復していった。傷跡が残るものはあるが、見た目としては全ての傷は容易く塞がった。
「初級の回復魔法だからさ。体内の損傷とかは治ってないと思うけど、多少の回復はできたろ?」
「な、なんで? アンタは人間なのに!?」
「そんなことより、お前らの状況を教えろ。まあ、多分所有者の人間から逃げてきたんだろうが、詳しい状況を話せ。よくわからんが、お前らの首輪も魔法ならばもしかしたら僕でも壊せるかもしれないぜ」
「誰が人間の言うことをッ――」
「お姉さん。この人は、嘘はついてないんだよ? 私には見えるんだよ」
激昂する有栖の言葉を、今度はひとみが遮った。
「へえ、君はそんなものが見えんのか。……ああ、そう言えば師匠が一つ目鬼族は特殊な目を持っているとか言っていたな。君のその目がそうなのか」
「ヒッ!!」
杉原としては優しく微笑んだつもりだったのだが、暗かったことと、杉原の見た目に威圧感があった事で、ひとみには恐がられたようである。
杉原が若干その事実に凹んでいると、黒渡が口を挟んできた。
「おぬしらの気持ちはわからんでもない。しかし、ワシらは何の理由もなくおぬしらを傷つける気はないんじゃ。事情くらい教えてくれんか?」
「……」
有栖は目を背けたまま、黙っていた。
しかし、代わりにひとみが声を上げた。
「私が、説明するんだよ」
「ひ、ひとみ!!」
「お姉さん、この人も梟さんも嘘はついてないんだよー。それにどっちにしろ、私達はこのままだと逃げ切れないんだよー。それに、この人なら奴隷魔法を解除できるかもしれないんだよー」
「でも、私は……」
「弥蜘蛛。君は、君達は僕らを信用しなくていい。でもこのままだったらどうやっても君らは『詰み』だ。もう動かせる駒は無いんだろ? じゃあ、どうするべきか考えろよ」
「……」
そして、弥蜘蛛は黙り込んだ。
拳を握り締め、歯を食いしばっていた。
「えーと、じゃあ、秘留ちゃん? 説明、頼めるかな?」
「うん」
そして、ひとみは口を開いた。
今から一ヶ月ほど前、旧時代でいう群馬県の山中にあった一つ目鬼族の集落が、勇者に襲撃された。
その中でひとみの父親は家族を守るため勇者と戦い、殺された。
そしてひとみの母親も、ひとみを逃がして殺された。
ひとみは泣きながら、山を逃げ回っていた。
自分を生かしてくれた両親の死を無駄にしないために、逃げて、逃げて、逃げ続けた。
気付けば、彼女は一人ぼっちだった。
彼女の集落の人間は皆、殺されたか奴隷になってしまっていた。
そんな中、ひとみは生き延びようとしたが、とうとう一週間前、3人組の人間に捕まってしまった。
そして、逃げられないよう奴隷魔法を掛けられた。
奴隷魔法とは、結界魔法の一種であり、対象者の行動制限や術者の意思で魔力暴走を引き起こす、と言ったことが可能だ。
人間への行使は禁止されているが、人権を与えられていない魔人には非常によく使われる。
こうして、奴隷となったひとみは三日前、このアラタヤドの近くのこの森の中にある、男達のいくつかある隠れ家の一つに連れてこられた。
そこで、有栖とひとみは出会った。
有栖もまた、1年半程前に村を勇者達に襲われ、両親をなくし奴隷になった。
しかし、有栖には弟が居た。3歳下で、有栖とは仲が良かった。だが、共に奴隷になってしまった。
有栖はプライドが高く、奴隷にさせられようものなら一人だけなら自害していただろう。しかし、弟を守るために生きた。生き抜いた。
アラクネの作る糸は、普通の蜘蛛と同じく粘着力を持つ糸と、持たない糸の二種類がある。このうち、粘着性の低い糸は、絹のような手触りと強度を併せ持つため、布に加工すれば高級品として取引される。
そのため、有栖達は毎日糸を作り出させ続けられた。仕事が遅い、質が悪いと鞭で叩かれながらも、有栖は糸をつむいだ。
自分の仕事が遅ければ、弟にしわ寄せが行くからだ。
アラクネの糸は、動物性たんぱく質と魔力で作られる。
そのため、作りすぎれば身を削る。それでも有栖は弟のために頑張った。
肋骨が浮き出るほどに身を削り、糸を紡いだ。
有栖は今、弟とは異なる隠れ家で働かせられている。
そのため、しばらく弟とはあっていないが、いつか弟と再会するため頑張り続けた。
そんな有栖とひとみは同じ小屋の中に入れられ、出会い、境遇が似ていたこともあり、すぐ打ち解けた。
しかし、ひとみが奴隷として捕らえられた理由は、有栖と異なり決して労働力などではない。
その『眼』である。
一つ目鬼族の眼は、特殊な力を持つ上、大きく美しい色合いをしている。
ひとみの眼もまた、美しい。
そのため、一部のコレクターに高値で取引されるのだ。
しかし、一つ目鬼族の眼は、彼らにとって命に等しい。
比喩でなく、眼を抜かれると彼女らは死んでしまうのだ。
男達はそれを知ってなお、ひとみの眼を抜き取るために、捕らえて奴隷にしたのだ。
そして、明日には準備が整い、ひとみは眼を奪われ殺されるはずだった。
しかし、その前に男達のうちの一人が。
ひとみを強姦しようとしたのだ。
一つ目鬼族の体は人間と同じだ。そのためにどうせなら殺す前に犯そうと、男達の一人が仲間に黙ってやってきたのである。
異なる檻の中に閉じ込められてはいたが、有栖とひとみは同じ部屋にはいた。
そのため犯されかけるひとみを、有栖は見ていた。
有栖は考えた。今ここで自分が下手なことをすれば、最悪弟が殺される。
弟を助けるために、奴隷として生きてきた一年半を無駄にするのか?
今ここでひとみを助けても、どちらにせよ自分達は殺されるのではないか?
どうやってもこいつらから逃げる術はないのではないか?
しかし、どう考えても目の前で泣き叫ぶ友達を見捨てる理由はなかった。
檻の隙間から糸を密かに飛ばし、ひとみの服を引き裂いていた男の首に引っ掛け、首を絞めた。
その男は、人質を取られている有栖が、殺しに来るとは考えていなかった。
それでも、なんとか奴隷魔法の効果により有栖の体内で魔力暴走を引き起こした。
しかし、有栖達にかけられたのは初級奴隷魔法だった。即死にいたるほどの魔力暴走を引き起こすことは出来ないものだったのだのだ。
そのため、彼らは奴隷の元にやってくるときは念のため二人一組で行動していたのだが、この男は仲間に黙ってひとみを犯そうとしていたため、一人でやってきていた。
そして、その男は首を絞められ、有栖に殺された。
その後有栖達は男の持っていた鍵を奪い、檻から脱出し逃げてきて今に至る。
「ふうん。その男が死んだのは思い切り自業自得だな。やれやれ、ロリっ娘に手をだすとはロリコンの風上にも置けんな」
話を聞き終えた杉原の感想はそれだけだった。
「お主、もう少しなんかあるじゃろ……」
「うーん、雰囲気がシリアスになりすぎてメンタルが持たなくなってきたんですよ。僕がシリアスシーン演じるくらいなら、おさるのジョ○ジの方がマシですがな」
ヘラヘラと笑いながら、杉原は言った。
「で……、あんた達はどうする気なのよ?」
有栖が杉原を睨みつけながら尋ねた。
「……杉原よ、初級魔法なら壊せるのじゃろう? こいつらを助けてやらんか?」
「……」
杉原は何も答えない。先ほどまでの軽薄な笑みのまま、ただぼんやり虚空を眺めている。
そんな杉原の様子を見て、黒渡は更に言葉を紡いだ。
「確かに、お主がこいつらを助ける義理はないが、こいつらは悪人ではないじゃろう? 寧ろ哀れな子ども達じゃ。お主とて……」
「だが、人殺しだ」
杉原は、そう強く言った。
その表情から笑みは消えていた。
「自分を守るために、仲間を助けるために、そんな理由があれば。相手が悪人なら、下衆野郎なら、そんな相手なら。殺しても良いのか?」
「しかし、杉原――」
「それと僕は、今まで他人に同情って感情を抱いたことがあんまりないもんでね。別にこいつらを可哀想だ、なんて思えないんですよ。それより、なにより、僕はコイツを助けて良いんですか?」
「お主それはどういう――」
「そのまんまッスよ。こいつらは人間を殺した魔人だ。そう言う魔人は殺せって言うのが、人間の法、なんでしょ? じゃあ、下手にこいつらを助けたら僕も共犯なんじゃないですか? 寧ろこいつらとっちめた方が僕の利益になるんじゃないですか?」
「そ、それは、そうじゃが……」
杉原の考えは正解だ。魔人を使っての人殺し、人を殺した魔人の保護などは殺人幇助にあたり、罰せられる。
逆に人間に危害を与えた魔人を捕獲、もしくは殺害した場合には騎士団詰所、いわゆる旧時代における警察署や交番と言った施設で褒賞が与えられる。
人間の作った法は、徹底的に魔人を弾圧しているのだ。
「しかし、こいつらをこのまま見捨てるなんぞ。お前の心に正義はないのか!?」
黒渡は声を荒げた。黒渡が主と認めた柊は、変わり者だが自分の正しいと思ったことを重視する。
その冬木柊が弟子とした者なら、きっとこの哀れな魔人の少女達を救うと思っていた。
しかし、その杉原は。
「正義なんて、定義があってないようなもんでしょ。そんな下らない言葉に意味があるんですかね? 僕ちゃんわかんなーい」
と、杉原は黒渡の言葉なんぞどこ吹く風と言った調子で答えた。
「……アンタ、何が言いたいわけ?」
有栖もまた言葉を苛立ったように言う。
「……」
ひとみは声を上げずに、しかし内心狼狽していた。少なくとも黒渡が自分達を助けようとしていることに嘘はない。
そのことを彼女の眼は見抜いていた
物事の嘘を見抜く、それは一つ目鬼族の持つ眼の能力の一つだった。
そのため杉原が嘘をついていないことも見抜いていた。なので最初は助けてくれるのではないかと思ったが、その後は助けることを嫌がるようなことを言い始めた。矛盾が生じている。
だが、何故矛盾が生じるのかひとみには分からなかった。
自分の目でなら分かるはずのことが分からなかった。
黒渡も、有栖も、ひとみも杉原の真意が読めなかった。
「やれやれ、まあ僕にも罪悪感くらいはあるんですよ。同じ人間がこんなにも、迷惑かけちゃってさぁ。そりゃ、悪いなとは思うんスよ。でもそれで助けて、僕に何のメリットがあるっていうんですか?」
「誰かを助けることに、お主は利益を求めるのかッ!?」
「碌に知らない誰かを助けようとする奴は下らない自己犠牲野郎ですよ。僕はただ即物的なだけですよ。何がいけないんですか?」
杉原の言葉に、再度黒渡が突っかかるが、杉原はニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、言葉を返した。
「私の糸で、ひとみの首輪だけでも外してよ」
そこに口を挟んだのは有栖だった。
「うん? 糸?」
「ええ、糸よ。布に加工する時間はないから、糸のままだけど、それでも売れば多少の金にはなるはずよ。それで、ひとみの奴隷魔法の首輪を外すというのは?」
即物的である、と言うなら金目のものを渡せばいい。
有栖が人間を相手に学んだことは、彼らが金を愛すると言うことだ。
そのため、この意見にも乗ると思っていた。
しかし、彼女は杉原千華と言う人間を知らなかった。
「いいアイデアだ。けれど嫌だ」
「な!? なんでよ!? 金にはなるはずよ!?」
「かもね。でも、僕は君の糸の価値を知らないんだ。交渉の道具は、相手がその価値を知らないと意味ないんだぜ?」
「な、なら私が……あなたの奴隷になって、私の目をあなたに貸すんだよー!! いくら使っても構わないから、お姉さんの首輪だけでも外してよ!!」
今度はひとみが言葉を挟んできた。
「な!! ひとみ、何を――」
「へえ、なかなかどうしてメンタルの強い娘だ。でも君は奴隷のままだよ? 良いのかい?」
「……意味なく奴隷になるより、意味のある奴隷になりたいんだよー」
「ひとみ!! そんな――」
「ううん、いいの。お姉さんは、まだ弟さんがいるけど、私にはもう誰もいないだよ。だから、これで良いんだよ」
そう言ってひとみは微笑んだ。
眼に一杯涙を溜めて、それでも精一杯の笑みを彼女は有栖に向けた。
「ひとみ、あなた、そんな……」
「いやあ、素晴らしい。これぞまさしく友愛ってやつかな。だがそれもまた要らん」
そんな彼女達の様子を見ても、杉原は切って捨てた。
「な、何で、だよ!?」
「えー、別に僕も感覚には自信あるし、君の維持費を考えると要らないかな」
「……なら、あなたは何が欲しいのよ!! 私達には、時間がないのよ!!」
「えー、まあ君の体かな」
声を荒げ、杉原の胸倉を掴んだ有栖に、杉原は淡々と返した。
「……え? どういうことよ?」
有栖は愕然とした様子で答えた。
杉原の言葉が信じられなかったからだ。
「やれやれ、もうちょっと脳みそ使った方が良いよ」
そう言って、杉原は満面の笑みで、両手でダブルピースを作って言った。
「君たちの事助けてあげるから、アラクネちゃん、君と一発エッチさーせて☆」