表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムスリップは魔法の世界で。  作者: 世野口秀
第1章 タイムスリップのはじまり。
5/37

第4話 どういうことだ?

「いや、あんなのどうにもなりませんよ。僕まだ何にも出来ないんですけど」

「大丈夫ですよ。基本は私が相手をします」


 そういうと、冬木一歩前に出た。


 蛇はちろちろと舌を出してこちらの様子を伺っている。


「いやいや、そんなにほいほい野生動物を傷つけるべきじゃないですよ」

「自然は弱肉強食です。それにこの蛇を倒すことにはきちんと意味があります」

「話せばわかりますよ」

「この蛇には言語能力はありません。我々でも無理です。おとなしく食われてくれる道理もありませんし」

「え? 嘘? 食べるんですか? 食べちゃうんですか? 蛇食うんですか? ゲテモノあんまり食べたくないんですが」

「では、まず自分自身に意識を集中させてください。頭の中で自分自身を描くように」

「ちょっとは僕の話聞いてくださいよ。……うーん。わかりました」


 話してどうにか誤魔化せるわけでもないようだ、そう判断して言われたとおり自分に意識を向けた。

 すると、視界にシーイングによるステータス画面が出現した。


 杉原千華 種族 人間族 17歳 男性

 Lv 1 職業 なし


 自分のステータスである。職業なし、というものには悲しさを覚えるが。


「ステータスがでましたね? ステータスは毒などの状態異常も表示してくれますので重要です。自分のステータスは戦闘時には意識的に表示してください。この蛇は無毒ですが」

 

 毒を持たないという事は普通のアオダイショウもアオソウダイショウも変わらないようだ。


「では魔法を使います。私の周囲の魔力の動きに意識を向けてください」


 冬木はそう言うと、杖の先を蛇に向ける。

 その瞬間、杉原の目には彼女の足元の土が、不自然に動いたように映った。




「大地よ、貫け」

 

 冬木がゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ノームランス!!」


 その瞬間、石の槍が蛇に向かって伸びた。


「うお!!」


 その光景に杉原は驚きの声を上げた。

 蛇は体をくねらせるがかわしきれず、土の槍は蛇の腹を貫いた。

 だが、その状態でも蛇はじたばたと暴れている。爬虫類の生命力の強さを感じる光景だ。


「とりあえずは大丈夫ですね」

「今の魔法は?」

「今使ったものはノームランス。地属性の初級魔法の一つで、比較的扱いやすい魔法です」

「なるほど、といっても威力はありそうですけどね」


 人間でも当たれば怪我では済まないような攻撃である。


「そう言えばさっきは魔法陣無しで、代わりに言葉を使って魔法を使っていましたね? アレはなんですか?」

「アレは詠唱です。詠唱は、使用する魔法の選択、魔法の発動をするためのものです。発動時に言葉を発する必要があるため、発動まで時間がかかります。魔方陣は予めその準備を済ませて魔力を通すだけで、魔法が発動できます。ただし、準備が必要な上、複数回使うと魔方陣は壊れてしまいます。どちらも一長一短ですが、相手に合わせて魔法を変えることが多いため、基本的に戦闘魔法は詠唱で行われることが多いです。しかし、より上位の魔法発動技術は無詠唱です」

「無詠唱とは?」

「無詠唱は、全ての過程を自分の感覚でこなすものです。タイムラグ無しで、その場で発動できますが、単純に難しいんです。厳しい訓練が必要な上、感覚的な側面が強いため使える人は少ないですね。私も使えますし、あなたも使えるようになりますよ。というより、あなたなら無詠唱を使えるだろうと思ったから、あなたを弟子に取りましたし」

「へえ。なるほど、ありがとうございます」


 などと話していると、出血により蛇がぐったりしてきた。


「さて、とどめを刺しましょう。杉原さん、このナイフであの蛇を殺してください」


「……え?」


 杉原の顔が引きつった。


 冬木が懐からナイフを取り出して、杉原に差し出した。


「な、なんで直接ナイフなんですか? 冬木さんの魔法じゃ……」

「私の魔法では駄目です。あなたが、あなたの手で殺すのです。この世界はあなたにとっては現実感が無いかもしれません。しかし、この世界は現実で、この世界の全ての生物はみな生きるために生きています。これから先、あなたは生きるため、食うために色んなものを殺すのでしょう。ですから、あなたは生物を殺すことの意味を理解しなくてはいけません。生物は殺せば死ぬんです。あなたは自分の手にそう刻み込まなくてはいけないんです」

「……」


 当然だが、スーパーに並ぶ肉は全て、生きている生物を殺して解体したものを並べられている。

 杉原の知り合いには農家や畜産業を営んでいる人間も居た。魚を釣って、母親に教えてもらいながら捌いたこともある。


 しかし、これほどに大きな生物を直接殺したことは無い。魚はクーラーボックスに入れているうちに死ぬし、生きている牛をみたことは何度もあるが、流石に屠殺の現場を直接見たことは無い。せいぜいドキュメンタリー番組で見たくらいだ。

 そのため、抵抗が無いわけではない。


 しかし、この世界では必要なことなのだ。自分で食うためにはっきり殺す必要があるのだ。


「ふう……」


 一度息を吐いて、杉原はナイフを受け取った。

 蛇を殺す、というのは罰当たりな気もするが、蛇も食おうと思えば食えるものなのだ。

 杉原は慎重にアオソウダイショウに近づいていく。

 噛まれないよう後ろから回り込み、蛇が噛み付いてくる前に後ろから、一気に頭を押さえつける。

 蛇も全力で暴れる。生きようとしているのだと、杉原ははっきり感じ取った。

 人によっては躊躇して手を放していたかもしれないが、杉原は伊達に田舎で育っていない。


「ごめんな」


 そう呟いて、ナイフを振り下ろした。

 手に肉を裂き、骨を砕く感覚が、残った。


「ふう……」


 息をつくと、蛇の骸から何か力の塊のようなものが流れ込み、杉原のステータス画面のレベルが2に上がった。


「うん? レベルが上がりましたね」

「はい、レベルと言うものは言ってしまえば生命力の大きさなんです。つまりこの世界では文字通り、命を奪うことでレベルが増加するんです。奪う生命力が大きければ大きいほどレベルも上昇します」

「はあ、なるほど」

「では、蛇を持って山を登りましょう。もう少しです」


 そうして二人はまた歩き出した。




 山頂にたどり着いた杉原達は、魔法で起こした火で蛇を焼いていた。蛇の身は冬木の指導のもと、杉原が捌いた。

 二人が食べる以外の残った蛇の肉は、冬木の持つマジックバッグに入っている。

この世界には魔力を込めることで、特殊な力を発揮する魔道具と言うものが存在する。

 マジックバッグもそのうちの一つであり、込められた魔力量に応じて中に入れられるものの量、荷物の重量が変化する。

 また、マジックバッグの中に入れられたものは状態が変化しにくいので食料を入れても腐りにくいと言うおまけ付である。

 冬木であれば、一つの倉庫と言えるレベルでものを収納し、かつ片手で持てる程度の重量に軽減できるのだ。

 二人は火の中に拾い集めた木の枝を放り込み、火力を調節しつつ、蛇の調理を進める。と言っても串に刺した蛇の肉を焼いて、軽く塩をまぶすくらいのことだ。


「さて、そろそろいいでしょうかね」


 そう言うと、冬木は地面に刺していた串を取り、正面に座る杉原に渡す。


「あなたの殺した命です。あなたから食べてください」

「……いただきます」


 手を合わせて受け取った串に、かぶりついた。


「……おお、旨いですね。正直ゲテモノだと思いましたけど、いやあ旨いですわコレ。そこらへんの女子高生より美味いですよ」

「あなた、女子高生食べたことあるんですか?」

「すみません。ないです」

「見栄を張るもんじゃないですよ。……それと、アオソウダイショウは一応、高級食材です。食わず嫌いの人も多いですけどね」

「顔ブスだけど、テクニシャンみたいな感じですかね」

「大体そんなもんです」

「師匠、僕の扱い適当になってきてません?」


 杉原の言葉を無視し、冬木も蛇の肉にかぶりつく。

 アオソウダイショウは淡白な身ではあるが、歯ごたえが程よく、滋養強壮に良いため、薬膳などに用いられる。

 そのためそれなりに高額で売れるのだ。


「残りの肉は、悪くなる前に教育所を通して売りましょう。あなたの分の装備も準備しなくてはなりませんから」

「ああ、そうですね。魔法使いなら、やっぱり杖とローブとかですかね?」

「いえ、私の流派は少々違います」

「そうなんですか? というか流派って?」

「私のところの魔法使いの流派は少々特殊で。というか魔法使い、としてもグレーゾーンなんです」


 食べながら、二人は話を進めていく。


「どういうことですか?」

「私があなたに仕込む技術は、魔法に関してはまず6つの属性魔法、火、水、土、風、闇、光、更に回復魔法も教えます。加えて魔法を打ち崩す魔法、魔法崩し(マジックディスターブ)を習得してもらいます」

「……そんなものが使えるんですか?」

「ええ、マジックディスターブは他者の魔法を打ち消し無力化することの出来るものです。教育所の職員が軽く言っていたと思いますが、装甲と言って格闘家や剣士も魔力を纏い戦います。マジックディスターブは装甲も打ち消すことが出来ます。そして他者の体内の魔力に対してマジックディスターブを使えば、意図的に魔力暴走を引き起こすことも出来ます」

「本当ですか? じゃあかなり強いじゃないですか!」


 杉原は一度経験したため、良く知っているが魔力暴走というものは痛いではすまない。体内から破壊されるため、軽度の魔力暴走でも重傷になるうえ、少なくとも数時間は魔力を扱うことは出来ない。

 杉原は一命を取り留めたが、それは杉原の潜在的な魔力操作性の高さ、そして教育所の職員に回復魔法の専門家が居たからだ。

 冬木も上級の回復魔法は使えるが、回復が専門ではない。冬木でも治せないことは無かったが、杉原の回復はもう少し時間がかかっていただろう。

 つまるところ、杉原は幸運だったと言える。


「使いこなせるようになれば、ですけど。まあ、私が直接教えればあなたなら一ヶ月ほどあれば無詠唱で全ての初級魔法と、初級魔法を打ち崩すレベルのマジックディスターブは使えるようになるかと思います」

「一ヶ月ですか。早いんですか?」

「当然です。普通の初級魔法の習得は、多少素質があっても丸一年でやっとですね。無詠唱とマジックディスターブに関しては基礎すら習得できません」

「はあ。それは早いですね」

「普通の魔法に関して言えば、他の勇者なら更に早いんですけどね」

「え!? それはまたなんで?」

「勇者は飲み込みが早い、……というかまるで、元々知っていたかのように、全ての技術の習得が早いですね」

「……どういうことです?」

「すみません。勇者に聞いてみたのですが、私にはよく理解できない話をされたので私も詳しくは知りません。恐らく旧時代の技術が関わっているようなんですが、そのあたりのことは私にはわかりません。あなたが直接聞いたほうが早いでしょうね」

「ふうん。そうですか」

「といっても、明日には勇者が7人この施設を出てしまうのですが」

「え? どこ行くんですか?」

「彼らは冒険者ギルドに行くんです。勇者はこの施設である程度技術を磨き、勇者として十分な力を身につけたと判断された場合、この施設を出て冒険者として登録されます。そして冒険者ギルドで様々なクエストを受注してもらい、勇者は報酬を得て、国は勇者に仕事をさせます。冒険者は勇者でなく、この時代の人間でもなれますけれど。かく言う私も冒険者ギルドに登録した冒険者ですし」

「へえ、そうなんですね」

「ええ、また勇者は勇者連盟という勇者同士の団体に属している人も多いですね。勇者同士の相互扶助が目的です。あなたも……入れるとは思いますが」

「ああ、そこらへんは興味ないんで、お気になさらずに」

「そうですか。では話を戻しましょう」


 冬木は食べ終えた串を火にくべて、話を続けた。


「一ヶ月ほどかけて魔法の習得をします。体力づくりも兼ねて、この山頂に上ってやろうと思います。一応、うちの流派にはあまり他の人には見せたくない技術もありますし」

「マジックディスターブですか?」

「いえ、それは見られても大して意味はありません。見て覚えられる類の技術でもないですし」

「じゃあ何が問題なんですか?」

「……私達の流派は少々異質でして、流派の正式な名称は、創設者の名前から四木々(しきぎ)流、と言うのですが」

「へえ、具体的にはどういう?」

「まあ、そこは見てのお楽しみと言う奴ですよ」

「はあ」


 杉原も串を火に放り込んだ。


「では、まずこれ以降、杉原さんは私のことを師匠と呼んでください。一応、うちの流派のルールなんです。蛇を捕まえて食べたのもそうですが。四木々流に属す者はまず、師匠と狩りをして同じものを食べてから修行を始めるんです」

「なるほど。ではよろしくお願いします、師匠」

「はい、もちろんです」


 そして二人は立ち上がった。


「まず、あなたに魔法をかけます」

 そう言うと、冬木は手の平を杉原に向ける。


 すると、杉原の体が内側からじんわりと温まる。そして消耗した体力が回復し、体が軽くなった。


「おお、すごいですね!! この魔法」

「強化魔法、ライジングと言います。一時的に身体能力を上げ、五感を磨き、魔力を強くする魔法です。反動で効果が切れると尋常じゃないくらいしんどくなりますが」

「それ魔法かけてから言いますか?」

「まあいいじゃないですか。こっちの方が魔法や戦闘技術の習得も早いんですよ」

「……まあ。いいですけど」


 そして具体的な修行に入っていった。

 まずは詠唱で初級魔法を使えるようになる。詠唱で使いこなせるようになれば、魔力が体内を流れる感覚を掴む。その後は体の感覚だけで、体内の魔力を動かし魔法が発動できるようになる訓練を続ける。

 山に登り、筋力トレーニングと魔法の修行、そして流派の訓練。

 そんな日々が二週間ほど過ぎた。

 



「師匠。最近、他の勇者見ないですね」


 朝食を食べながら、杉原は冬木に話しかけた。

 食堂にて杉原達は朝食をとっているが、ほかに居るのは数名の職員だけだ。

 勇者はいない。


 ちなみに、杉原は結局他の勇者とはほとんど関わっていない。

 朝食を取った後は、山に登り、修行をする。

 そして強化魔法は効果が10時間ほどであるため、夕暮れに山を降り夕食と風呂を済ませたあたりで、魔法の効果が切れる。

 すると一気に疲労が現れ、腕を上げることもままならなくなるため、さっさとあてがわれた自分の部屋で就寝する。


 こうした生活サイクルをしているため、杉原が他の勇者と関わる時間は少ない。

 風呂と夕食の時間も他の勇者と少しずれているため、他の勇者と会うのは朝くらいなのである。

 しかし、最近は朝も見かけない。

 そのため結局、他の勇者とは話したこともほとんどない。

 勇者の能力習得の早さの秘密について聞きたいとは思っているのだが。


「ああ、言い忘れていました。他の勇者は冒険者ギルドに行っていますよ。中級の魔法や剣術を習得した勇者は、一度冒険者ギルドに行き、冒険者としての活動の訓練をするんです。レベル上げのための実践訓練にもなりますし」

「へえ、そうなんですか」

「流石に低レベルのまま上級魔法や剣技は習得できませんからね。その後はまた教育所に戻ってきた後に訓練を再開、その後も冒険者ギルドでレベルを上げつつ上級の技術を習得した後は、晴れて正式に勇者として独り立ちです」

「え? じゃあもう他の勇者は中級をマスターしてるんですか? こっちはまだ初級魔法もまだなのに……凹むわー」

「あなたの場合、無詠唱魔法も四木々流の技術も平行してやっている、というのはあるのですけどね……。でも、今日他の勇者は帰ってくるはずなので、色々聞いてみたらどうですか? 私もその都合で、今日はあなたにつきっきりと言うわけには行きませんし、今日は強化魔法なし、一人で修行してもらって後は適当なタイミングで他の勇者に色々聞いてみるといいかと思いますよ」

「そうですね。そうします」

「では、私は仕事があるので失礼します」


 そうして二人は珍しく別行動となった。




「おッ! おッ! また来たニンゲン!!」

「またお前か。リアル鳥頭野郎」


 山頂で昼食を取っていた杉原のもとに、以前会った双頭青鷺がまたやってきた。

 昼食の匂いをかぎつけてきたようだ。


「メシ寄越せ!!」

「ヨコセ!!」

「今日はから揚げだぞ。共食いはやめろ。まあなんにしろやらんけどね、このから揚げ予備軍」


 余談だが、狩りは初日以降していない。

 狩りと言うものはそんな都合よくいくものでもない。

 そのため杉原は基本、毎日弁当を持って山に登るのだ。


「ちくしょー! せっかくいいこと教えてやろうと思ったノニ!!」

「いいこと? 何だそりゃ? 美少女のパンツの色か? ちなみに今日の僕のパンツはピンクのチェックだ」

「知らねえよソンナモン!! そんなん言うなら教えてやらナイゾ! この山にニンゲンのメスガキが迷いこんでるなんてナー」

「押し倒してマエー! カカカー」

「言っちゃってんじゃねえか。押し倒さねえし」

「「シマッター!!」」

「うぜえ」


 杉原はこんな頭の悪い鳥と会話していても仕方ない、とは思ったが。

 山に迷い込んだニンゲンのメスガキ、というのはつまり人間の少女だろう。


「人間の少女? この山は教育所の職員と勇者くらいしか登る奴はいないはずだが。じゃあ勇者か? でも迷い込んでいると言う表現も気になるな……」


 結局、杉原は弁当をさっさと食べ終え、歩き出した。

 何かのトラブルに巻き込まれた人間なら放っておくのは寝覚めが悪い。

 何かあっても教育所の職員でも呼べば済む話だ。

 そう思えば悩む必要はない。

 山の中で、自分以外の人間の魔力を探す。

 まだまだ魔法を使いこなせてはいないが、杉原は魔力の感知能力はもともと桁外れに高い。

 2週間程度の魔法の修行でも、山の中を歩き回り人探しをするのに十分な技術を、杉原は手に入れていた。


 そのため、その少女はすぐに見つかった。

 彼女は、髪をツインテールに結った、勇者の一人の少女だった。

 道に迷っていると言うわけではなさそうだったが、岩に腰掛け、俯いていた。

 状況が飲み込めず、杉原としては少し戸惑ったが、結局のところ


「やあ、こんにちは」


 と、話しかけることにした。


「え!? あ、こんにちは……。確かあなたは勇者の……」

「うん。杉原千華。勇者というか、魔法使い見習いと言う感じだけどね。君は勇者の女の子だね? 名前、教えてもらっていいかな?」

「は、はい。服部(はっとり)知名(ちな)です」


 その直後、シーイングによるステータスが表示された。


 服部 知名 種族 人間族 15歳

 Lv 15 職業 勇者 弓兵


「よろしくね、服部さん」

「はい、こちらこそ……って、杉原さん17歳なんですか!?」


 と、知名も杉原のステータスを見たのか、声を上げて驚いた。

 前回会ったときはまだ、二人とも魔法が使えなかったためだ。


「ああ、言ってなかったっけ? まあ、そもそもそんなに話したことなかったしね。うん、老けて見られるけどこれでも高校生だったんだぜ」

「す、すみません。もっと年上の方かと……」

「ハッハー、いいぜ。別に。高校2年のときに就職先聞かれたことあるし」

「そ、それはすごいですね……」

「まあ、そんなことはいいんだ。君、こんなところで何してんの?」

「……ああ、その、ええと」

「ん、あー、いや。話したくないなら別にいいよ? たまたま見かけて様子がおかしかったから、なんかトラブルでもあったのかなって思っただけだから」

「いえ、それほどのことじゃないです……。私が、弱いから駄目なんです。結局、ゲームの世界でも、私なんて弱いままなんだ……」


 知名の最後の言葉はほとんど独白のようなもので、口からこぼれたようなもので、普通は聞き取れないものだった。


 しかし、杉原は魔力の扱いに長ける。装甲によって体を強化するには、魔力量がネックとなるが、多少五感を強化するくらい、体内の魔力の流れに気を遣えば可能なのである。

 そのため杉原は、多少は五感も鍛えていたため、その言葉を聞き逃しはしなかった。


「おい、ちょっと待ってくれ。……ゲームの世界って、どういうことだ?」


 杉原の言葉に、知名は首を傾げて、言い放った。




「え? この世界って、ゲームの中ですよね?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ